真犯人
1982年 インディペンデントシティ 中央区 インディペンデント第三職業安定所
リドルを見て職業安定所支所の巡査が言う。「あなたでしたか!出所おめでとうございます。」「おおう・・・俺はあんたらの間で有名みたいだな。」「まあね。ところでこちらに来られたということは・・・」「ああ。職を探す。俺の雇用主は旧友だったが・・・足を洗っていなかったみたいだ。捕まっちまったよ。」「ああ・・・何と言ったらいいか・・・・」「まあ気にするな。奴も根は悪くない。俺と同じように更生するさ。」「ええ、そう願っていますよ。ではこちらへ・・・」そう言って巡査は「前科がある方のご相談窓口」にリドルを案内する。
「何でもいいのですか?しかしそれですとあなたの生きがいがなくなる可能性がありますよ。無論紹介できる仕事はいくつかありますが、職業選びで一番大切なことは・・・」と困り顔の職員。「いいんです。」「・・・・・はい?」「確かに俺は刑務所で更生したから人生を楽しんだって誰も咎めないだろう。でもね、私にはまだ過去の過ちを清算するためにやらなければならないことがあるんです。」そう言いながらリドルは自分の裁判のときに見た被害者のガールフレンド憤怒の顔を思い出していた。
「あなたはなにかその・・・覚悟を持っておられますね。」と感心したように職員が言う。「そうですか・・・まあ私は犯罪行為に手を染めたせいで他の人よりも背負うものが大きくなってしまったんですよ。」と寂しげに笑うリドル。そのリドルの顔を覗き込む職員。
「実はここにはあなたと違い、反省していないように見受けられる方も来るんですよ。どうせ再犯するんだろうなっていう軽犯罪者達です。そういう方々のケースは職業訓練所に回しますが、その数日後担当者からクライアントの逮捕を知らされるんです。」「それは・・・お疲れ様です。」「ありがとう。しかしね・・・あなたは違う。更生して、一般社会の中で過ごしていけるわね。そういう方にはいい職場を紹介いたしますよ。」そう言って職員は一枚の資料を取り出して見せた。
「オレンジサロン・・・」「ええ。この場所の見学をお勧めするわ。ここのオーナーの方はね、寛大な方でここの職業安定所に寄付して下さったのよ。他にも彼女は受刑者の権利を守る会に上級会員ですし、受刑者ボランティアを支援する活動にも参加しているのよ。それに公正な警察官のお姉さまをお持ちでね、とにかく聖人といっても良い方ですの。とりあえず会ってみましょうか。」
二日後 インディペンデントシティ 黒人街
「お前に全てを任せたが、順調そうだな。」とスライサーズインディペンデント支部長チョンクは満足そうに自分の右腕にして最強のボディガードダスケを眺めた。ダスケは「ええ。サツは邪魔ですが、タルコザの売人を数人殺しましたし、ハイチ人の復讐に手を貸して恩を売っておきました。」「復讐?少し聞かせてくれよ。」「ハイチ人どもの風俗嬢をマーダーストームのふりをして襲った野郎がいるんですよ。タルコザにね、で、偶然俺とカルロスが襲撃した奴が情報をもってたんでさあ。」「なるほどな。で、その殺し屋さんを捕まえてやったのか?」「ええ。しかしそれだけじゃありませんぜ。俺はね、拷問を手伝ってやったんですよ。」「おいおい、随分と念入りだな。まあいいが、スライサーズ本部に怒られない程度にしてくれねえとな。」ダスケはそれをきくとなぜか無言で席を立ち、いきなり「本部の意向なんてクソ食らえだ!」と叫ぶ。驚くのはチョンクだ。「おい、ダスケ。ヤクでもやってんのか?お前、ヤクはごはっ・・・」「うるせえ!俺はな・・・独立してやるのさ!」そう言うとダスケは机を持ち上げてチョンクを転倒させ、その体を壁に押さえつける。「おい・・・」そう言いながらチョンクの手は腰ベルトの銃に伸びる。しかしダスケはにやり、と笑うとその銃をもぎとって床に叩きつける。「本音を言う時が来たな。本部へ媚びているお前のような弱いリーダーはストリートには必要ないのさ。」そう言うとダスケはチョンクの顔を二発殴り、うめくチョンクの腹を蹴りつけ、再び立たせた。「おらっ!」ダスケはチョンクの顎を下から思いっきり殴りつけた後にチョンクの顔をつかんで床に叩きつけた。そして気絶したチョンクの顔をさらに上から十回踏んだ。
ドアが開いて二人のメンバーが入ってくる。「よし、始末は終えたぞ。片付けてくれ。」ダスケは二人の手下に死体の片付けを命じると壁についている洗面台に行き、血で汚れた手を洗い始めた。
三日後 インディペンデントシティ カフェ「オレンジサロン」
疲弊したサラ警部の顔を見て店主のマーサは心配そうな顔をする。「あんたがマーダーストームの件を追っているのは知っているわ。だけど、少しは休みなさいね。」「ありがとう。でもね、休むわけにはいかないのよ。」「え?どうしてよ。」するとサラは疲れながらも毅然とした声で次のように言う。
「マーダーストームは危険で野蛮な殺人鬼だわ。」「ええ。ニュースの内容は耳を疑うようなことばかりね。酷い話よね。」「私たちがマーダーストームの捜査を休んでいる間にも奴は人を殺しているかもしれないのよ。」「まあ、確かにそうだけど・・・・」とマーサ。「でしょ?それに奴は警官として早急に逮捕するべき殺人犯であると同時に・・・私の娘をもてあそんで殺した敵でもあるのよ。」それを聞くとマーサは涙目で頷いてサラの隣に座る。
「サラ・・・よく聞いて頂戴。マーダーストームは確かに野放しにしてはならない凶悪犯よ。だけどね・・・奴を早急に逮捕するためには冷静な判断が必要なのよ。疲れていてはそれが出来ないわ。」そういいながらマーサはサラの背中をさするのであった。
バドルは緊張していた。しかし隣にいる職業安定所の職員は静かに微笑んで励ますように頷く。「さあ。インターホンを鳴らすのよ。」バドルは頷いてインターホンを鳴らした。
「あら!?ごめんなさい。今日ね、職業安定所から紹介された方がお見えになってるの。それで私、今から面接しなきゃいけなくてね。」マーサは申し訳なさそうに席を立つ。サラは「ええ。ありがとう。あなたのおかげで自分がどうあるべきか分かった気がするわ。」と言って紅茶を飲んだ。
女店主マーサは温かい目でバドルを出迎えた。「ようこそいらっしゃい。」「申し訳ありません。開店途中の面接に・・・」「いいのよ、いいのよ。入りなさいよ。」マーサは微笑んでバドルを店内に通した。
サラはマーサの取り組みを知っていた。彼女は刑事事件の受刑者の社会復帰を支援する取り組みに関与していた。その一環として職業安定所と連携して更生したと認められた前科者を店に受け入れているのであった。
サラはどのような人が来たのかと気になり、入り口を見た。そして思わず声を上げる。「あっ!」
バドルは声を上げた女性客を見て目を見開く。「あなたは・・・」その女性客は恐らくバドルに深い恨みを抱いているであろうサラ警部だ。そして、バドルは彼女に対しての贖罪行為を計画していた。
「あらま?私の姉よ。刑事なの。もしかして・・・姉に逮捕されたことのある方かしら?」バドルは冗談を言って朗らかに笑うマーサの声も耳に入らない。サラ警部の顔をまじまじと見つめた。
「あなた・・・更生したのね。」自分でも意外であったが、サラ警部は自分が憎んでいた筈の男に優しく話しかけていた。「妹の元には職員が更生したと判断した者しか連れてこられないわ。だから、あなたは更生したのね。」しかし相手の男は目を伏せている。サラはそれを見て、さらに驚くべき行動をとる。立ち上がり、バドルの元に行ったのだ。「あなたを許すわ。更生してくれて嬉しい。」
マーサは少し混乱している。「どういうこと?知り合い?」それに対してマーサは言う。「その人はね・・・私のボーイフレンド、死んでしまった可愛い娘の父親を殺した男よ。」「まあ!でも今は・・・」「そう、彼は反省しているわ。今思えば裁判の時も泣いていたわね。自分の罪の重さを理解したいるのよ。是非雇ってあげて。」
バドルの目から涙が零れ落ちる。そして彼は崩れ落ちた。「あの時は。本当に・・・クソ、こんな言葉では足りないでしょうが・・・申し訳なかった!二度と強盗はしません!許してくれて・・・ありがとう!」その肩をマーサが叩く。「彼女は許したわ。それにさ・・・彼女に対して償いをしたいんだったら、彼女のために紅茶やマフィンを運ぶ仕事をなさいな。彼女はこの店の常連客なのよ。」
サラは少し元気が出ていた。あの男が出所したら自分は気が変になってしまうとばかり思っていたが、現実は逆の結果をもたらした。更生した男を見てなぜか安心感を得た。自分でもよく分からない心理の動きだ。
「面接の後、少し二人で話してごらんなさい。」というマーサの提案に、サラは「ええ。そうさせてもらうわ。」と言った。
30分後
「本当に・・・酷いことをしました。あなたの大切な人を奪った。」リドルは涙を流す。しかしサラはリドル・・・自分のかつてのボーイフレンドを殺した男・・・の肩に手を乗せて言う。「あなたが殺害してしまった男はね、妹の考え方に共感していたのよ。犯罪者は更生するし、社会は更生した前科者に対して優しく接してあげるべきだという考えは、彼も持ち合わせていたの。当時の私は幼稚でね、単純にしか物事を考えることが出来なかったけど今はそうじゃない。妹と彼の考え方は正しいわ。あなたは罪を償ったのよ。」「でも・・・俺自身がまだ自分を許していないんですよ。」とリドル。
サラは軽く笑いながら言う。「あなたって・・・自分勝手よね。」「え?」「被害者側の私も、そして天国にいる彼もきっとあなたを許してくれているはずよ。なのにあなたは自分に許されていないと思っているわけね。本当に自分勝手な人ね。私たちが許しているんだからいいじゃない。」とサラ。
リドルは崩れ落ちた。「ありがとう・・・・ありがとう・・・真っ当に生きます!」そのようにむせび泣くリドルの背中を無言でさすったサラはマーサに微笑んでそっと店を出た。
三日後 インディペンデントシティ インディペンデント警察
「お待たせしました。」と言って入っていったデボンに対してワトスン副署長は言う。「まあ座れ。」
デボンは座ると同時に尋ねる。「ところで大切な話と言うのは?」「ああ・・・お前の異動を伝えようと思ってな。」「はい?どこの部署にいど・・・」しかしデボンの話を遮るようにワトスンは言う。「インディペンデント市警内での異動ではないぞ。お前はジャカシティの警察署に異動してもらう。」「はい?どういうことでしょ・・・」「正直言って私は君を警戒しているんだ。」「何故でしょうか?」「当たり前だろう?今我々インディペンデント市警とデッド・ボーイズは戦争中だぞ!」デボンはそれを聞くと薄笑いを浮かべる。「そういうことですか・・・俺がインディペンデント市警を裏切るとふんだのですね?」「まあそういうことだよ。」「ふん・・・俺は今デッド・ボーイズの連中にも見捨てられましたよ。インディペンデント市警とタルコザファミリーの同盟側を裏切らないように言いつけを守ってヤクを渡さなかったから、奴らは俺のことが嫌いみたいですぜ。」その話を聞きながらワトスンもまた薄笑いを浮かべる。「私は知っているよ。君は昔から付き合いがあるデッド・ボーイズを裏切らない。黒人である君にとって黒人のコミュニティとは安心感のあるものだろう?いつか捨て駒にするはずなのに、君は同じ黒人というだけで奴らを信用・・・」それを聞いてデボンの中に怒りが沸きあがる。黒人・・・黒人・・・クソ!
「違う!」気づくとデボンは立ち上がって叫んでいた。「奴らと組んだのはたまたまだ。俺が麻薬取締課に入った時、既に麻薬取締課と奴らは繋がっていました!あなたも知っているでしょう!?それにね、同じ黒人でもデッド・ボーイズはハイチ人で私はガーナ系です。」だがデボンの怒声を前にしてもワトスンはひるまない。「黒人という発言については不適切だったよ。謝ろう、すまなかった。人種差別問題に対する理解が足りなかったね。だがね、君は恐らくデッド・ボーイズと簡単に絶縁することはできないだろう。人種だけが原因じゃない。今君が言ったように君と奴らは君が麻薬取締課に入ったときから付き合いがある。たとえ君から関係を絶とうとしても、デッド・ボーイズ側はそれを許さないと思うぞ。今は君と距離を置いているがいずれ関係を続けるよう脅してくるだろう。その時、君は果たして警察官として毅然とした対応ができるか、私も含めたインディペンデント市警幹部は甚だ疑問だよ。」「なるほどね・・・」そう言ってデボンは顔をおさえてうめく。
「だが私だって君らとデッド・ボーイズ間の関係の恩恵を受けてきた時期もある。奴らとの同盟時代だ。」「ええ、そうですよ。個人的な恨みか何か知らないですが有益な同盟者を無益なチンピラ集団に切り替えるのはどうかと・・・」「今はチンピラ集団のほうが私と利害が一致するのさ。とにかくだ、私だって君が嫌いではないという事を言いたいんだよ。」「・・・・」「個人的には君を好いてさえいる。だけど、タルコザファミリーの同盟者としてなら・・・君を警戒人物としてみるしかなくなるんだ。そこで・・・警察庁の友人を通じてお前にぴったりの異動先をこしらえてもらったんだよ。」「それがジャカシティ?」「そうだ。ジャカシティはお前のような正義という名の偽善に捕らわれない打算的な警官にはぴったりだぞ。サツが保管しているヤクを回してもらいたい売人やヤク中が大勢いる。サツの保護が欲しい違法風俗やギャング集団も多く存在している。お前さんはジャカで稼ぐのさ。」
昨日 インディペンデントシティ ウェストストリーツ
バドルはバーの従業員に案内されて奥の支配人室に入っていった。
「お前がバドルか?俺の用があるとか?」と聞いた無精ひげのバーの支配人は明らかに裏社会に生きる人間だ。禿げあがった頭には無数の切り傷。首筋には悪名高いプリズンギャング「モラティンシンジケート」の入れ墨。さらに腰には手斧とサバイバルナイフ、ピストル二挺。相当に武闘派だと思われる。
バドルはこれほど「ワル」を醸し出す人物は見たことがなかったが、緊張を押し隠して向かい側の椅子に座った。「あなたがデュークのその・・・上司・・・ですか?」すると男は蛙のような笑い声をあげた後、二回せき込んで言う。「上司か・・・まああっていると言えばあっているな。俺はビデオ屋デュークのボスのようなもんさ。奴から上がりの一部をもらってたよ。借金取りのチンピラどもを説得して奴の借金を帳消しにさせた見返りさ。で、改めて聞くが・・・何の用だ。」凄みのある目だ。
唾を飲み込んでバドルは続ける。「デュークの顧客の中にデュークに何かさせていた人物がいないか知りたいのです。」「何かってなんだよ。」「例えば・・・自分が犯した罪について隠ぺいするよう有力者へ口利きを頼む、とか。」とバドルはリングビンからの情報に基づいて述べた。パークスマンをデュークが脅してマーダーストームの捜査にストップをかけさせた、と言う情報から恐らくデュークはマーダーストームの依頼でパークスマンを脅したのだろう。しかし警察の目がデュークに向いたためマーダーストームはデュークを脅した。
それを聞き、男は蛙のような不気味な笑い声をあげた。「顧客情報はよお、めったにもらしたくねえんだがよ。まあ・・・あんたが少しばかり報酬をくれるってんなら、俺の心当たりのある奴について話してやるよ。」そう言い終えた時の男の顔は真顔に戻っている。バドルは聞く。「いくらほど出せば・・・」「ああ、そうだな・・・3000ドルほどでどうだ?」「3000ドル・・・分かりました。」前科者で職を探し始めた彼にとっては大金だったが、彼は「贖い」をするためならばそれくらいの金は工面しようと思った。
男は頷き、「後で必ず現ナマを持ってこいよ。お前が金を踏み倒そうったってそうはいかねえぜ。あんたが宇宙旅行にでもいかねえかぎり俺はお前を見つける。それぐらいのネットワークがあるんだからな。」と警告し、その人物について話し出した。
「そいつはな、変態だ。殺人映画を見るのが好きなんだよ。とんだサイコ野郎だぜ。」「それは最近ニュースで話題の・・・」「そうだ。そいつはマーダーストーム事件にも何らかの形で関わっている筈だ。マーダーストームの犯行の様子を収めたビデオをデュークの元に持ち込んだ。サツは俺に3000ドル渡せばマーダーストームを逮捕できることに気づいてねえな。」そう言いながら男は話を続けた。「まずこれが変態野郎の顔写真と住所だ・・・」
翌日 インディペンデントシティ 中央区
中央銀行の脇に車を停めたサラはラドクリフ巡査と共に路地に入る。
ラドクリフがピストルを取り出しながらかがむ。サラは頷くと電話をかける。
「警部、準備はできましたぜ。」とデボン。「ええ。こっちもよ。電話を掛けて。」「了解です。しかし警部、忘れないで下さいね。」「分かったわよ。報酬は払うわ。だから早く電話をかけて。」サラ自身局面でデボンに頼ることになろうとは思っていなかった。奴はやはり悪徳警官だ。報酬も本来は払いたくないがマーダーストームという大物のためには悪徳警官一人を付け上がらせることくらい仕方ない。それに奴はもうすぐジャカの警察に異動となるらしいから、付け上がらせたところで問題はないだろう。
同時刻 インディペンデントシティ サウスストリーツ
バドルは公園に車を乗り入れて視線をこらす。
殺人鬼はガレージ付きの平屋に住んでいるようだ。芝の庭があるが物は置いていない。善良な市民を装ってやがるんだ。怒りが沸く。
バドルは家に目線をやりながらも警察に連絡するために携帯電話を取り出した。
が、視界の端で家から走り出てくるマーダーストームの姿を捉える。なにやら焦っているようで、ガレージから車を急発進させた。
バドルは慌てて携帯を仕舞うとエンジンをかけた。
同時刻 インディペンデントシティ インディペンデント警察
「ああ。中央銀行裏の路地だ。現金の状態で持ってこいよ。」と言い、デボンは電話を切った。
正直サラ警部の出した結論には驚いていた。まさかあいつがマーダーストームだとはな・・・
20分後
あらかじめ協力を頼んでおいた銀行の警備員のひそひそ声がトランシーバーから聞こえる。「対象が今見えましたよ。」「了解。ありがとう。」ラドクリフを見ると緊張して臨戦態勢だ。サラは彼と頷き合うとピストルを取り出して握りしめる。
銀行に車を停めた人物は当たりを見回すとポケットのショットガンに触る。違法改造したもので、下町の武器屋から購入した高性能のものだ。このマーダーストームにゆすりを仕掛けるとはデボン巡査もなかなかやりやがる。勇気だけは認めてやろう。だが奴が目撃者である以上、消すしかない。
バドルはマーダーストームの挙動を追う。奴は車を降りるとあたりを見渡した。よからぬことを企んでいるように見えた。バドルはピストルを取り出してダッシュボードに置き、見張る。
足音が近づいてきた。「いよいよですね。」とラドクリフ。「ええ。」と頷きながらサラは立ち上がる。
路地に面する角からゆっくりと覗くマーダーストーム。そしてその顔が真っ赤に染まる。「クソが!」マーダーストームは銃で駆け寄る巡査を撃った。
「きゃっ!大丈夫?」ラドクリフにかけよるサラ。だがラドクリフは起き上がる。「防弾チョッキがありますからね。警部、追って!」二人はマーダーストームを追う。
男が走り寄って来た。そして銀行裏からはサラ警部と部下らしき巡査が!バドルは一瞬頭が真っ白になった。状況が分からない。しかし一つだけ分かることがある。奴を車に戻してはいけない。バドルはハンドルを握った。
「車に乗るわ!」とサラが叫ぶ、ラドクリフはマーダーストームの背中にピストルを撃ちこもうとするが焦点が合わない。追うしかないようだ。
しかし逃げる犯人の前に突如として車が滑り込んだ。犯人は車の側面にぶつかり、倒れ込む。「今だわ!」サラは走り寄ると犯人の背中にピストルを向ける。「もう終わりよ!マーダーストーム。」
「ちくしょう・・・」そう言いながらアンドリュー検視官は身を起こした。