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マーダーストーム  作者: エッグ・ティーマン
5/10

強行捜査

1982年 インディペンデントシティ インディペンデント警察

 副署長室に入ったデボンをワトスンが迎えた。「やあ、まあ座ってくれ。」

 「それで、話というのは?」「ああ。一本の電話についてだ。」「電話?」「ああ。パークスマン上院議員からのね。数週間前に届いた電話だ。」「ほう。」デボンは興味深く頷いた。ギャングによるワトスン誘拐事件の裏にデボンがいたことに気が付いたようだ。

 「いくつかの依頼が含まれていた。まずは、マーダ―ストーム事件の捜査に私が関与しないことだ。私としては、関与したつもりはないのだがね。副署長と言う立場から警視に少しアドバイスしたんだ。まあいい。私が気になるのは他の依頼だ。例えばサラ警部の復職。署長命令だったが、どうにか署長を説得したよ。私情を挟む恐れがあるサラ警部をどうしてパークスマン先生が望んでいるのかは分からない。そしてね・・・君の対する監査の緩和だ。」「監査?」「ふん。しらばっくれるなよ。君はね、不正行為を行っている。」「そんな、滅相もない!」「署長も、私も知っているんだ。お前は麻薬取締課にいるが、そこに保管されているヤクをギャングに横流ししているだろ?それで奴らはお前に金を渡す。」「で、よく分からんですがその行為を監査が調べていると・・・」「ああ、そうだとも!」とワトスンは叫んだ。「だがお前が上院議員を脅しているせいで、私は奴らを説得しなければならなかったんだぞ!」「それは・・・どうも。」デボンはそっけなく答えた。本題はそのことにはない筈だ。直感で分かった。

 「で、もう一度尋ねますがお話というのは?」「ああ。実はな、私は電話が入る前から監査を抑制していたんだ。上院議員の名前を出したことで監査部の奴らが公式的にお前の監査を停止したってだけだ。私はやってもいいが慎重にやるようにと監査の奴らに言ったんだ。なぜか分かるか?」「それは・・・その・・・監査の連中が疑っていることは事実無根だからでしょう。」「ふうん、まだいうか。まあいい。なぜか説明してやろう。」そう言うとワトスンは気を落ち着かせるためなのか、一杯紅茶を飲んで続ける。「お前のような腐った野郎だけじゃなく警察全体としてハイチ人と組んでいた時代があった。奴らは当時我々が壊滅させようとしていたとある犯罪組織の転覆に力を貸すと言ってきた。我々はバカだったよ。ハイチ人どもが警察に協力的な市民に見えたんだ。だから奴らと手を組んだ。だがな、いざその組織が滅ぶと奴らの本性が現れたんだ。奴らは我々を脅した。警察をだぞ!奴らは黒人街の支配に関して我々が援助するように要求してきた。そして情けないことに、長年警察は奴らに従ってきた。本来罰するべき奴らなのにな!そう、今こそ警察をなめ腐っていた奴らを叩き潰すときなのさ。」「なるほど・・・お話は分かりました。で、俺はどうすれば?」「ああ、単純明快。ハイチ人にヤクを流すな。それから南米人の売人からヤクを奪うな、分かったな。」「ええ、最初の指示には従います。しかし南米人からヤクを奪うな、とは?警察の力を見せるためには南米人だろうがハイチ人だろうが関係ないはずですよ。ヤクの売買を犯罪だとみせつけるんでしょう?」「そうだ。だが・・・我々はマーダーストーム事件という大きな問題を抱えている。さらにイタリア人どものマフィア組織とも対峙している。一時的に抗争を引き起こしたほうがいいだろう。ハイチ人とラテン人の両方から奪えば何が起こる?想像してみろよ。奴らは結託してさらに大きな犯罪ネットワークが誕生するだけだ!だが一方だけ優遇すればどうだ?」「この場合、ハイチ人はラテン人から奪おうとしますね。」「そうだ。それで・・・・」「抗争が起こる。」「その通りだ。我々自身が奴らと衝突しなくてもいいんだ。犯罪者同士が潰し合って勝手に壊滅する。」「お言葉ですが署長、それは今までのハイチ人の立場がラテン人に変わっただけでは?」「いいや、それは違う。」そう言ってワトスンはゆっくり顔を近づける。「今回はギャング側ではなく我々警察側がコントロールするんだ。そして、お前はそれに協力しろよ。腐ってもハイチ人なんかと組むんじゃないぞ。」


二日後 インディペンデントシティ インディペンデント警察

 「サラの情報が正しければ、デュークという呼ばれている人物がマーダースト―ムである可能性が高い筈よ。」とアシュリー警視は言う。「ああ・・・情報屋に連絡を取ってみるよ。」依頼を受けた組織犯罪取締課のバートン警視はそういうと、電話をした。「よお、、リングビンか?少し調べて欲しいことがあるんだ・・・」そう言って裏社会の情報屋に依頼を出すバートンの横でサラはしかめっつらをした。バートンが頼る相手の名前が彼女を不快にさせたのだ。 

 サラは情報屋リングビンが現役の警官だったときから彼が嫌いであった。あのセクハラ爺!彼は若き婦警であったサラに何度も言い寄ってきて挙句の果てには体を触り、彼女が拒否すると嫌がらせをしてきた。また奴は噂では複数の捜査対象から賄賂を貰っているようだ。おまけに横領までした。サラが嫌うタイプの腐りきった奴だった。

 バートンは電話を終え、サラの顔に気づく。そしていつものように言い訳を始めた。「あんたがリングビンを嫌ってることは分かってる。だけど俺は奴を情報屋として使っているだけだ。奴はインディペンデント警察の裏切り者だ。当時の私は横領を知って激怒した。だがそれとこれとは別だ。奴は解雇されたら裏社会に潜入したんだ。そしてギャング、違法風俗の経営者、麻薬の売人。殺し屋などと関係を築いた。だから裏社会の情報には詳しい。我々はギャングの下っ端、麻薬の売人などをスパイとして使ってる。リングビンも我々が情報収集するために使っているそうした情報提供者と何ら変わらねえ。」「はあ・・・分かったわ。ともかく、情報が得られたらご連絡をお願いします。できれば彼の本名と拠点も。そこに突入します。」と力強くサラは言う。



翌日 インディペンデントシティ バー「ホムンクルスの戦場」

 「なるほどな。奴らが急に戦争を仕掛けてきたのはそういうわけだったか。」カルロスは納得した顔で頷いた。「まさか黒幕はサツだったか・・・」「ええ、そうみたいですね。俺はワトスンの野郎に言われましたよ。もうブツはデッド・ボーイズには流すな、とね。」「なるほどね・・・」カルロスはポケットから煙草を取り出して店主に火を付けさせながらしばらく考え込む。そして煙草を吸った後にデボンが恐れていた質問をする。「それで、お前はどうするつもりなんだ?ヤクを寄越さねえのか。多分ワトスンの野郎はこっちに流さない分のヤクをタルコザの奴らに渡すだろう。まあサツがためこんでいるヤクはタルコザの売人から押収したものが大半だからな、押収したヤクを返してやる形になるがな。」デボンは苦い顔をした。難しい選択だ。自分が解雇されないためにヤクを流すのを止めるか、デッド・ボーイズとの関係を保つためにヤクを渡し続けるか・・・

 「すみませんがね・・・一時的にヤクの供給を停止したいんです。」デボンはカルロスの顔を見つめながらそう言う。緊張のあまり顔が震えているのを自覚していた。

 だがカルロスはそっけなく「そうか・・・」と言っただけだった。「あんたもキャリアがある。ワトスンの野郎は俺らに対する私怨で抗争を裏で引き起こしている。だがお前は黒人だ。俺らの仲間だ。お前の事情は考慮しよう。」デボンは一気に緊張が解け、椅子から落ちそうになった。しかし、話は終わりではなかった。カルロスは「だがな、条件があるぞ・・・」と続けたのだった。「条件っていうのはだな、お前にとって大変困難なものとなるぜ・・・二週間後までにマーダーストームを捕まえて引き渡せ。生きたまま拘束してこのバーに連れてくるんだ。分かったな?」デボンはそれに対して即答する。「承知しました。奴を必ず連れてきます。正体はデュークと言われるビデオ屋です。裏社会での通称のようですが。」カルロスは困難だと言っているが、簡単な条件じゃないか。奴がビデオ屋のデュークであることは既に判明している。もしかしたらサラ達より前にデッド・ボーイズが犯人をあぶり出すかもしれない。そして、その読みは当たりそうであった。「ビデオ屋か・・・多分他のボスの誰かが知っているだろう。俺たちは黒人のポルノビデオの撮影もシノギとしてやってるんだ。裏社会のビデオ屋だったら誰かが繋がっている筈だ。」


5日前 インディペンデントシティ トール地区

 「どうしたらいいのよ!」ヒステリックに叫ぶ女主人に執事は戸惑った。「ご主人様、落ち着いて下さい・・・」すると女主人は唸り声を上げながら花瓶を手に取り、地面に叩きつけた。花瓶は当然ながら割れる。「落ち着けますか!?奴は私の・・・トラウマ映像を所持している。そして奴はその映像を商品化できるのよ!そのせいで私は奴に金を・・・」「先ほどジャビス夫人から連絡がありましてね、銀行側は現金は用意できたようですよ。」「ふん!裏社会の巣食うダニに私が払わなければいけない現金でしょ?奴の脅しに屈して私が払う現金でしょ!」「ええ、まあそうですが・・・いずれにしろジャビス夫人は信頼のおける人ですよ。彼女は事情を聞かなかった。」しかし女主人はまだヒステリー状態だ。「それが何よ!彼女は確かに私の友人で、信頼がおける人よ。だけどね、そんな彼女にさえ言えない秘密を下衆男が握っているのよ!?おかしくないかしら。」「ええ、しかし奴を金で黙らせることが出来たら・・・・」だが女主人は納得しない。「どうにかしなさいよ!あなたもたまには役に立ちなさい。必ず・・・奴の握っている秘密をつぶしなさい!どのような方法でもいいから、分かったかしら。」そのように一方的にまくし立てた女主人は部屋を去る。

 残されたのは気の毒な執事だ。「クソ・・・どうすればいいんだ・・・」頭を抱えた執事はしばらくたって「クソ・・・」と言いながら携帯電話を取り出した。番号をプッシュする。数分後に電話に何者かが出る。「よお、元気かい。」そう呼びかける執事の声は元気ではない。だが電話の向こうの男は元気そうだ。「あたからかけてくるなんてな、珍しいな。で、要件は何かな?」深呼吸した後執事は要件を切り出した。「お前の稼業は知っている。」「ああ、二人だけの秘密だぜ。」「分かっている。だが今回ご主人様のためにお前に腕前を発揮してもらいたいんだ。無論報酬は弾むよ。」


一週間後 インディペンデントシティ インディペンデント警察

 サラはデスクの上の電話を取る。相手はバートンだ。

 「やあ。君達に頼まれていたビデオ屋デュークの正体が分かった。本名はドレイク・ボージャン。表向きはコンラッド物流の警備員だ。自宅は・・・サウスインディペンデント五番街のアパート『ハートハウス』八号室だ。」「ありがとう、助かったわ。」受話器を置いたサラは立ち上がり、言う。「皆聞いて!バートンから連絡があってデュークの正体が分かったわ!住所の情報もある。でもまずは職場を訪問しましょう!」


 デボンは殺人課の部屋の慌ただしい動きを差しながら「どうしたんだ?遂にマーダーストーム逮捕か?」と事務員ホワイトに尋ねてみた。「ええ、そうみたいよ。なんでもマーダーストームである可能性が高いビデオ屋のところに今から行くみたいね。」とホワイトは簡単に重要情報をしゃべる。

 「なるほどな。大変だな。」とうわのそらで返事をしたデボンは足早に玄関に向かう。サラたちより先にマーダーストームを確保しなければ!


昨日

 「何の真似です!?子供たちが怯えてしまうでしょう!」と激しく抗議するのは孤児院の院長のハイチ人だ。「子どもたちはお前らに怯えているんだろうが!」と院長を怒鳴りつけた警官は「こいつを連れていけ。」と部下二人に院長を引き渡し、奥へと進む。

 

 大勢の少女たちが警官に連れられてバスへと乗せられる。貸し切りのバスが二台来ており、全て市役所に向かう。


 バスの隣では組織犯罪取締課長が沢山のマイクやカメラに向かって話している。「デッド・ボーイズが少女の人身売買及び違法風俗での労働強制に関与していることが判明しました。我々は『疑わしきは罰せず』の方針でデッド・ボーイズに対しては監視のみですませていました。しかし、そのような生ぬるい方針も転換するときでしょう。」


 向かい側の駐車場に車を停めてその様子を見ている二人の黒人がいた。「サツがハイチ人どもの孤児院に突入か?何があったんだ?」と助手席の男が言う。部下と思われる運転手の男は「たしかなことは分かりませんがね・・・どうやらサツはタルコザ・ファミリーと組んだらしいという情報がありますぜ。」「なるほどな。」にやり、と笑いながら助手席の男が煙草を吸う。「ハイチ人は嫌いだが・・・」「どうやら協力してやるときが来たかもしれませんね。」「ああ。ハイチ人は腐っても黒人だからな。俺は南米人どものほうが嫌いだな。」「俺もですよ、ボス。」「ハハハ・・・そうだろう。タルコザの連中は強欲だからいつかは黒人街に侵攻してくると思ったぜ。だがよお、スライサーズがそれを許さねえぜ。」「そうですな。南米人どもには後悔してもらいやしょう、チョンクさん。」「そうだな。サツが後ろにいようと関係ねえ。皆殺しにしてやろうぜ、ダスケ。」

 

 

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