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マーダーストーム  作者: エッグ・ティーマン
4/10

抗争

1982年 インディペンデントシティ インディペンデント警察

 副署長のワトスンは痛みに顔をしかめながら事務用の椅子に座った。気分は最悪だ。

 ギャング達は何故かワトスンがマーダーストームにとる連続殺人事件の捜査に圧力をかけていた理由を知りたがっていた。奴らは愚かで暴力的な手段でそれを得た。即ち、ギャング共はワトスンを誘拐して脅すことでワトスンが上院議員パークスマンの指示で捜査に圧力をかけていたという事実をあぶり出したのだ。ワトスンの人生の中で最も屈辱的な瞬間であった。

 「くそ!」その時の様子を思い出して歯噛みするワトスン。あのようなならず者集団に負けたことが悔しい。だが奴らに思い知らせてやろう。奴らは脅す相手を間違えた。ここからは私のターンだ。そう思いながら邪悪な笑みを浮かべ、ワトスンは受話器を取った。数分後、相手が出る。「やあ、久しぶりだな。ああ、私は元気だよ。君はどうしてる?おお、そうか・・・それでね、そんな君の人脈を活用してやって欲しいことがあるんだ・・・」


三日後 インディペンデントシティ トール地区

 サラ警部は緊張しているが、固い決意を抱いた面持ちで目の前のマンションを見上げる。「クソ議員はこの最上階ですぜ。」とデボンが言う。

 二人はワトスンを使って捜査妨害をしたパークスマン議員と対決するためにここに来た。よく分からない(し知りたくもない)方法でデボンが副署長ワトスンの身動きを封じたため、サラは休暇中の身でも議員を詰問できるらしい。

 「行きましょう。」とデボンに声をかけ、サラはマンションの自動ドアを潜り抜けた。デボンは「ええ、行きますか。」といいながらサラを追う。


 「すまないね。だけど時間がないんだよ、手短に頼む。」とせわしなく言いながらパークスマンはソファに座った。サラはその正面に座り、議員と向かい合う形となった。「手短に、ということですので単刀直入に申し上げます。」そう言ってサラは息を吸う。そして要件を告げた。「インディペンデント警察のマーダーストーム連続殺人事件の捜査に圧力をかけた理由を教えていただきたいのです。」それを聞いたパークスマンの顔が固まる。デボンはサラの隣で冷笑を顔に浮かべてパークスマンを見つめる。

 数分の張りつめた空気が流れた後、パークスマンは口を開く。「なぜ分かった?サラ警部、あなたは優秀な警部だが流石に捜査本部が・・・」「議員、ご安心下さい。実はこれ、正式な捜査ではありません。私は今休職中なのです。」するとパークスマンはいきなり怒鳴る。「ふざけるな!何だね、あなたがたは単なる興味関心のために私にアポを取ったのかね?議員としての沢山の用事の中で私が時間を作った意味は何だ!!」しかしサラは動じない。「意味・・・ですか。」そして恐ろしく冷徹な声でサラは続ける。「真実を知るためですよ。マーダーストーム殺人事件という惨劇に関わる大切な捜査を議員が妨害した理由が知りたいんです。」

 「あ・・・」居丈高に怒鳴っていた議員は静かになる。サラの声は議員の怒鳴り声のような力は持っていなかったが、その裏にある怒りの感情を感じ取ったのだ。そしてものすごい怒りを浮かべたサラは立ち上がり、冷や汗を流して座りこむパークスマンを見下ろす。「議員、お答えください。なぜ捜査妨害をしたのでしょうか?」パークスマンは絞り出すように「脅された・・・」とつぶやく。


私を脅したのはとあるビデオ屋だ。そいつはな、違法ポルノや実際に殺人を行う様子を撮影した違法なビデオを売りさばく麻薬中毒のチンピラだ。名前か?本名は知らんが、バカ息子は「酔いどれディーク」って呼んでたな。それが奴の通称らしい。私はそんな奴には縁がないと思っていた。奴が接触してくるまではな。だがね、ディークが私にコンタクトを取って来た時に私と奴の世界に接点ができてしまったんだ。というか、私が認識していなかった接点が明らかになったと言ったほうが正しいだろう。そう、奴と私はそう遠い関係性ではなかったんだ。というのもな、私のバカ息子が・・・奴から違法のビデオを定期的に購入していた。私に隠れてな。随分と巧妙に隠したもんだ。ビデオ屋からその話を聞かされるまで分からんかったよ。そう、そいつはいきなり私に連絡してきたんだ。息子から聞いたのかも分らんがね、このデスクにおいてある固定電話の番号を知っていたんだよ。これで大体の話は読めたろう?想像通りだ。ビデオ屋は息子がいかがわしいビデオを購入していることをネタに私を脅してきたんだ。私は奴を金で追い払おうとした。チンピラは大抵金を求めているからな。だが奴はそうじゃなかったんだ・・・


 「奴は言ったんだ、金はいいからマーダーストームの事件を闇に葬って欲しいとな。麻薬常用者で違法ビデオの収集家。奴がマーダーストームで間違いないよ。奴を逮捕してくれていい。だがな・・・」そう言ってパークスマンは机の中から数枚小切手を取り出す。「息子のことは見逃してくれ!頼む。」小切手にサインをしたパークスマンはそれをサラのほうに差し出した。

だがパークスマンのその行為はサラの怒りを増幅させるものでしかなかった。「小切手で買収を!?残念ですが、息子さんは聴取します。同僚に連絡しますよ。」しかし、それを止める声がある。今まで黙っていたデボンが突如「もらっておきましょう。」と声を上げたのだ。サラは不愉快そうにデボンを睨む。「あなたはそうするでしょうね。ギャングのような連中から金を貰っているんですからね。」しかしその皮肉にもデボンは動じない。「警部・・・よく考えてごらんなさい。この議員はもとホワイトキャッスル関係者とだけあって影響力がありますよ。ワトスンを動かせるくらいですしね。今恩を売っておけば後々の捜査がやりやすくなる。そうですよね、議員?」パークスマンはすこしほっとしたように言う。「もちろんだ。追加の捜査員の派遣ができないか警察庁に確かめてみるよ。無論ワトスンに命じて捜査も再開させる。」だがサラは首を縦に振らない。「いいえ、ダメです。違法ビデオの購入は立派な犯罪ですよ。後ほど正式に捜査しますので、そのときはよろしく。」サラは立ち上がり、出て行く。

 「議員、申し訳ありません。彼女、頑固なもんですからな。しかし・・・」デボンはそういうと机の上の小切手を取る。「私が何とかしておきましょう。ただ、その代わり頼みがあるのですが・・・」「チッ、何だ、言ってみろ。」「警察内の監査の連中が僕に注目している。悪い意味で。それを何とかしていただきたい。」「ふう。分かったよ。監査の連中をどうにかできないかワトスンに聞いてみよう。」


翌日 インディペンデントシティ ウェストニューヨーク とある事務所

 「久しぶりだな。で、何の用かな?」ラテン系ギャング組織「タルコザ・ファミリー」のボスは御用達の情報屋である私立探偵リングビンを出迎えた。「ああ、顔を合わせるのは久しぶりだな。今日はな、大事なことだから直接伝えに来たんだ。」「ふうん、まあ言ってみろ。」「じゃあ、単刀直入に言うぞ。お前らは今日から警察と同盟関係になった!」その発表にボスも周りの幹部達も怪訝な表情を浮かべる。「どういうことだ?なぜサツが出てくる!?」困惑する幹部達に対してリングビンは冷静に説明を始めた。


とある警察幹部から連絡があった。かつて俺の属する派閥を率いていた爺さんだ。実はな、そいつは今デッド・ボーイズと関わり合いになって困っている。で、お前らの助けが必要だと感じたみたいだ。無論警察側もお前らを守るために全力を尽くすようだ。お前らの邪魔をする売人の逮捕、保管してある麻薬をお前らに安価で下ろす、さらには今検事に送検しようとしている二人の構成員も釈放するそうだ。いい条件だろう?で、次はお前たちの関心点について話そう。サツの幹部とデッド・ボーイズの間のトラブルだな。実は爺さんが今話題のマーダーストームについて捜査に圧力をかけた点についてデッド・ボーイズの追求を受けたようだ。爺さんはとある人物からの依頼で捜査に圧力をかけたらしいが、今はデッド・ボーイズに圧力をかけられている。無論サツに圧力をかけることができるほどだから、奴らには切り札がある。俺も爺さんから電話をもらったときに初めて知ったがな、サツは三代前の警察署長のときにデッド・ボーイズと裏取引したらしい。そしてその内容はサツの上層部しかしらない。だが、爺さんは随分と大胆だった。その取引内容をお前たちに流すように言ったんだ。どんな取引内容かだって!?今お前たちと結んでいるような内容だ。当時ここら一帯まで黒人街はあったろ?そこを支配していた「インディペンデント・メンズ」に当時の警察は手を焼いていたのさ。奴らは麻薬売買、違法風俗の経営、誘拐、強盗、恐喝、窃盗、そして殺人。あらゆる犯罪に関与していた。お前たちが進出してくる前の話だ。そこでだ、署長は新興勢力デッド・ボーイズに注目した。サツは黒人街の中に味方が欲しかったんだよ。実質的にデッド・ボーイズを援助することによってサツはインディペンデント・メンズを実質的に壊滅状態に追い込んだ。まあ、そのおかげでお前らラテン系の住む地区が出来たんだがね。でな、その裏取引は文書としてサツとデッド・ボーイズの両方がそれぞれ保管してある。ハイチ人どもはそれを使ってサツを脅したんだよ。いまやサツにとっての脅威はメンズじゃねえ。ハイチ人どもだ。そして、今度はお前らが馬鹿なサツを助けるんだ。


「てなわけで、サイン頼むぜ。」リングビンは一枚の紙を差し出した。目を細めてボスは紙に書かれている内容に目を通した。警察とタルコザ・ファミリーの同盟を表す取引内容が書かれている。それを見て笑みを浮かべるタルコザ・ファミリーのメンバーたち。「ほうほう・・・いいじゃねえか。締結完了だとサツの幹部に伝えてくれ。それと・・・」ボスは言葉を少し切ってから続ける。「デッド・ボーイズに対して戦争を仕掛ける予定だから支援を頼む、とな。」


二週間前 ニューロンドン コイスコット刑務所

 とある独房の鍵を看守が開ける。「お勤めご苦労さん。」という看守の労いの言葉に一礼して無精ひげを生やした細身の男が立ち上がる。静かに独房の外に出た男の背中を看守が押し、大きな手提げバッグを手に持った男は歩き出した。隣の独房の囚人が声をかける。「あんた、もう出所か?うらやましいぜ。」「あんたも後で出て来いよ。」と笑顔で返す無精ひげの男。収監されたときのことは分からないが、少なくとも現在は良い人柄であるようだ。

 

 「二度と来るんじゃんねえぞ!」という看守たちの声を背中に、男は迎えに来た車に乗り込んだ。運転席のモヒカンが声をかける。「ムショ暮らしは大変だったろう?」「ああ。だがお前らのことをいつも考えていたら耐えきれたよ。それにコイスコット刑務所は最も安全な刑務所だぜ。少なくとも軽犯罪者エリアではな。看守は皆俺らのことを大切にしてくれるし、他の囚人とのトラブルもなかったぜ。食事や作業は共同だったが、軽犯罪者区画の連中とだけの作業だ。全員とはいわねえが、皆俺のような経験をしていて、分かり合えた。皆道を踏み外し、後悔している。」「ああ、そうだろうな。あんたが強盗をしでかしたときは、俺もびびったぜ。」「ああ・・・すまねえ。心配かけたな。」その言葉に優しく笑うモヒカン男。「ああ、全くだぜ。だがよお、弁護士から聞いたぜ。」「うん?何をだ?」「お前は・・・殺す気なかったんだろう?動揺してピストル撃っちまったらしじゃねえか。」「ああ。だが結果として人間を一人殺してしまったんだ。出所したが、償えた気がしねえ。」「ああ・・・多分お前の背負う罪は重い。だけどな、償いをするにはまず・・・自分の生活を立て直せよ。過去の後悔も大事だが未来を見据えろ。」「そうだな・・・ありがとよ。まずは仕事を探すよ。」そう言う男の目には、深い決意が表れていた。


三週間後 インディペンデントシティ ハミルトン地区

 「あそこね。」ゴミ収集員の女は上司の命令を頭の中で反芻する。―いいか、マンモス・グリル前にあるゴミ収集場にこの包みを必ず入れておけよ。デッド・ボーイズの連中に殺されたくなければな。―

 女はゴミ収集車を止め、いつものようにトラックの荷台にゴミ袋を積んだ。「いいわね。」確認した女は助手席から包みを取り、周りを見渡す。「よし。」女は小さくつぶやいて包みを入れる。


 女が包みを入れる様子を路地裏から見ていたホームレス。「よしと・・・」といって立ち上がるホームレス。包みを回収するらしい。しかし、その目の前に立ちふさがる影。「金やるよ。」といって財布ごと投げてきたその男は凄んでみせた。「お前がハイチ人より受け取っているのよりも大きな額だろう。ああん?」「ああ・・ありがとう。」ホームレスは事情を知り、去った。


「よおしと・・・」デッド・ボーイズの幹部は二人の手下を従えて待つ。毎週恒例の「集金」だ。

 デッド・ボーイズは「ビジネスギャング」であり、様々なシノギを持っていた。バーやカジノ、ゲームセンターの経営。カーショップや不動産の運営。そしてゴミ処理場の運営。今日はそのようなデッド・ボーイズが関与している場所の関係者から金を受け取る日だ。

 この老幹部バラチクの担当区域はハミルトン地区。ゴミ処理場とカフェ数件があり、カフェに関しては全て集金してきたところだ。今はゴミ集積所の連中からの集金を待っているところだ。


 数分後、「旦那・・・」と声がして金の包みの運び屋であるホームレスが姿を現した。奴らは安く動かせる上、目立たないから便利だ。「ご苦労さん。」そう言って金に手を伸ばすバラチク。が、ホームレスは衝撃の行動に出た。

 「おりゃー!」いきなり叫んだホームレスの手にはナイフ。「こいつ・・・ホームレスじゃねえ!」異常な握力でボスの伸ばした手をつかんだホームレスは動きを封じ、ボスの頸動脈にナイフを突き立てた。「この野郎!」慌てた手下がピストルを取り出し・・・頭から血を出して倒れた。弾丸が頭を貫いたようだ。

 「ふん!」もはや本性を現したホームレスはもう一人の手下の腹を蹴り上げ、うめいたところに容赦なく弾丸を撃ち込んだ。手下は即死だ。

 「くそ・・・てめえ!」怒りの形相を浮かべる瀕死のバラチクの前で、ホームレスはぼろきれを外す。「何!?」バラチクは死ぬ間際にも関わらず、驚きの大声を上げる。ぼろきれの下からは立派な入れ墨。ラテン系ギャング集団タルコザ・ファミリーの印だ。「あばよ!お前の死はデッド・ボーイズ破滅の始まりにすぎねえことを覚えときな!あと、この包みはもらっていくぜ!」そう叫んだタルコザ・ファミリーのヒットマンは去っていった。


四日前 インディペンデントシティ インディペンデント警察

 いきなり入室してきたワトスン副署長の姿を見て、アシュリー警視は溜息をつく。また邪魔しに来たか・・・

 だがワトスンはアシュリーの向かい側の椅子に座ると予想外の話を始めた。「マーダーストームは偶然にもハイチギャングに喧嘩を売ったみたいだな。」アシュリーは動揺を顔に出さないように努めながら「ええ・・・どうやら違法風俗の女が狙われたようです。」と答えた。

 てっきりマーダーストームの捜査を続けるアシュリーをまた制止しに来たと思った。だが今回は捜査情報に関して興味を示している・・・何か裏がある。

 そして副署長はさらに気になる言動をした。「ハイチギャングを徹底的に追い込め!マーダーストームと同じくらい下劣だ。お前の部下が奴らの胸糞悪くなるような悪行を暴いたそうじゃないか。すまんが・・・もう一つ捜査本部がいるようだな。」アシュリーは頷きながらも、「組織犯罪取締課に連絡します。」と言った。暗に「殺人課はマーダーストームの捜査を継続する。」という態度を示したのだ。意外にもそれをきいたワトスンは大きく頷いた。「ああ。ギャングは組織犯罪取締課に取り締まってもらおう。だがな、場合によっては協力してもらうことになるかもしれん。」それだけ言うと返事を待たずにワトスンは部屋を出て行った。

 アシュリー警視は隣に座っていたラドクリフ巡査と顔を見合わせる。


昨日 インディペンデントシティ ウェストストリーツ

 「議員の悪行はこの捜査が終わってから明らかにしましょう。捜査には奴が役にたつかもしれない。」デボンは必死になってサラの説得を試みる。だがサラは言う。「あなたには裏があるでしょう?だけど私は違う。純粋に変態が嫌いなの。マーダーストームもしかり、パークスマンの息子をしかり、よ。ビデオ屋も、その顧客も裁きを受けてもらうわ。」それを聞き、思わず悪態をつきそうになったデボン。その激情を抑える。「あなたのためにパークスマンを利用しましょう。休暇中のあなたを復帰させてもらうのです!署長命令で渋々休暇を取得したあなただが、正直もう復帰したいでしょ?」サラはそれを聞いて少し心が動いたようだ。だがまだ決心は固い。「それはそれとして、議員の息子の違法行為は追及するわ。」デボンは仕方なく頷く。「ええ、しかしね、あなたは現状復帰が難しい。」「何故そう言い切れ・・・」「あなたは精神的苦痛を癒すために休暇が与えられたわけではないからですよ。上の連中はあなたの持つマーダーストームへの恨みが捜査に影響を与えると思っている。」「そうね。でもそれは当たり前よ。捜査に私情を挟んではいけない。だから私はあなたのようなならず者が主導する非公式の捜査に参加するしか・・・」「そうですね。だけどね、警部、もし上層部から許可が出るのなら復帰したいですか?」「もちろん!マーダーストームに報いを受けさせる。」「パークスマンを使えばそれが可能になる。」そう言いながらデボンはサラの目をまっすぐ見つめる。こうして圧力をかけるのだ。

 サラは折れた。「分かった。議員の息子についての件は一時的に先延ばしにするわ。いずれマーダーストームの口から語ってもらうことになりそうだけどね。彼に私を復職させて。」「ええ、お望み通り。」そう言うデボンの笑顔を不気味に思うサラであった。


8日後 インディペンデントシティ セント・ロイス地区

 緊急招集されたデッド・ボーイズの幹部集会。

 「諸君はもう気づいていると思うが、この場に一つ空席が出来ている。」とリーダーの幹部が言う。怒りのあまり震えるその指先は隣の席を差している。「そう、この場所にはバラチクがいないんだよ。」他の幹部達は緊張している。次に発表される嫌な知らせを予感していたからだ。「奴は殺されたんだよ。」一斉にもれるうめき声。その中には若き中ボスであるカルロスの声も混じる。

 「誰がやったかは大体見当がついている。おい、入れ!」その声と同時に血まみれのホームレスを引っ張った大柄な男が入って来た。手には大きな鉄のバットを持っている。男はホームレスの尻を蹴りつけ、怒鳴る。「俺のボスたちだ。さっき言ったことをもういちどこの方々に説明しろ。」「へい・・・」こうして血だらけのホームレスは自分がタルコザ・ファミリーの構成員から金を受け取って包みを渡したことを認めた。「そう、こいつの話でも分かるように南米人はホームレスにやらせていた運び屋のふりをしてバラチクに接触したんだ。」そう言うと合図するボス。大柄な男は「ほら、立て!もう戻してやる。だけど二度と俺らを裏切んなよ。」と言いながら戻っていく。そして、数分後銃声が聞こえる。運び屋のホームレスが始末されたのだ。

 「だとするとよお、戦争だぜ。」とカルロスの隣に座る幹部が口を開く。「もちろんだ。俺らは奴らのことが目障りだったが、今まで黒人街にも触れるウェストニューヨークに住むことを黙認してやった。そこでのヤクの取引も自由にさせてやった。南米人が来る前から、俺ら黒人のものだったその場所をな!」リーダーが高らかに吼えた。「だとすると・・・」とカルロスが口を開くとすかさず他の幹部が答えた。「仕返しだな。奴らの商売を邪魔し、そして・・・虐殺だ。」

 このようにして幹部会議の場はデッド・ボーイズの怒りが充満する殺伐としたものとなった。


四日前

 「サラ!」アシュリー警部はサラが入ってくると喜んで迎える。「戻ってきてくれたのね!嬉しいわ!頼もしい・・・」その喜び方は少し異常であり、アシュリーが精神的に追い詰められていたことを示していた。

 「警視、捜査の調子は・・・」「全然進んでいないわよ!ワトスンの邪魔が入るの。さらにね、最近は新しい問題が発生したわ。マーダーストームがデッド・ボーイズの違法風俗の女を殺害した。そのことによってデッド・ボーイズの悪行が明らかになったの。」「あら・・・」どうやら事態は複雑になっているようだ。しかしサラはマーダーストームの捜査を犯人逮捕までつなげる情報を持っていた。さらにワトスンが邪魔して来ないことも分かっている。「警視、少しお話を・・・・」

 

 「え?犯人が分かった!?」以外な情報にアシュリーは驚いているようだ。「どうやって・・・」当然の疑問がアシュリーの頭の中に浮かぶ。「ワトスンが捜査の邪魔をしているという情報があって調べてみたところ・・・パークスマン元交通大臣に行きついたの。」そしてサラは分かったころ全てをアシュリーに話す。


 「みんな聞いて!マーダーストームの正体については裏社会のビデオ屋だと判明しているわ!通称は酔いどれディーク。まずは資料を当たりましょう!」アシュリーから捜査の指揮を任されたサラの号令が会議室に響き、捜査員たちが動き始めた。捜査の手はマーダーストームに伸びている。


一週間後 インディペンデントシティ ウェストニューヨーク

 「ホーサイス雑貨店」と書かれた倉庫の中に二台の大型トラックが入る。いずれもホーサイス雑貨店のものだ。

 「いいぞ!ストップ!」倉庫の中にいた小太りの男の号令でトラックは停まる。運転手が下りてきてトラックに積んであるコンテナの扉を開いた。するとコンテナの中から箱を持った三人の男が下りてきた。運転手もコンテナの中にある箱を持ち、運び出した。

 運び出された箱は皆倉庫の奥に並べられ、太った男が一つ一つ箱を開けて中を覗いた。中身は皆銀色の包み。男は包みを開ける。中には粉が入ったプラスチック製のカプセルが四つずつ。

 そう、これは麻薬であった。ウェストニューヨークを支配するギャング「タルコザ・ファミリー」は麻薬の売買を商売の一つとしていた。かかわりが深い郊外の南米の難民グループを通じて南米のカルテルから麻薬を購入し、ウェストニューヨークに運び込む。運び込まれた麻薬は複数の倉庫に保管される。そのうちのひとつがホーサイスというメンバーが所有する倉庫だ。彼は表の商売として百貨店の経営をしているが、裏の顔は麻薬の管理人だ。


 さらに一台のトラックが到着する。今回はピックアップトラックであり、荷台に箱が積まれている。「よお、どちらさんかな?」倉庫の入り口にいたギャングが近づく。「ヤクを下ろしに来た。」と答えた運転手の顔を倉庫の男がのぞき込んだ瞬間、運転手がいきなり銃口を向けて容赦なく撃つ。さらに助手席の男が煙を上げる筒を取り出し、倉庫の中に四つ転がしいれた。

 運転手は倉庫内に突っ込み、混乱するタルコザ・ファミリーの構成員をはねた。そのあと助手席の男は数人の頭に弾丸を撃ち込みながら荷台に飛び乗り、箱を次々と落とす。慌てて銃を取り出すタルコザ・ファミリーのメンバーたちであったが、荷台に乗った男はいつのまにか特注のマシンガンを手にしていた。それを使ってトラックに近づくギャング達を次々と撃ち殺す。


 箱が全て地面にあることを確認すると、荷台にマシンガン男を乗せたまま運転手は車を発進させる。マシンガン男はにやり、と笑うと箱に対して銃をぶっ放した。すると箱が爆発し、大きな炎が生じる。「ふん!壊してやったぜ!だけどこれは序の口だ!」そう叫ぶ運転手は「デッド・ボーイズ」の入れ墨を腕に入れていた。

 

 

 


 

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