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マーダーストーム  作者: エッグ・ティーマン
1/10

猟奇殺人

1982年 アメリカ共和国 インディペンデントシティ メラニアホテル

 女は顔をほてらせてバーから出てきた。鼻歌を歌いながら携帯電話を開く。「もう済んだかな?」というメッセージ。「ええ、終わったわ。やっぱり馬鹿男どもの話はつまらない。」と送って待つ。すぐに返事が返って来た。「今見えるよ。向かい側にあるダンスホールの駐車場にいる。」それを読んで女はほほ笑み、道を渡った。

 車に乗り込むと男が言う。「さてと・・・ここは人目に付きやすいぞ。あんた、ヤるんだろ?」女は酔ってノリがよくなっている。「ええ、あんたも期待してるんじゃないのよ!どこか行きましょう。」「分かったよ。」と言って男は車を出す。


10分後 インディぺンデントシティ ブルノ―埠頭倉庫群

 「ここは・・・随分静かね。」と女。「そうだな。だけど、俺らの秘密だな。」と言って男はズボンのベルトを外し始める。女もブラジャーを脱ぎ始めた。「始めましょう!」「そうだな・・・」

 女も男もあえぐ。車が大きく揺れる。「あ・・・」「おう!」そうやってしばらくあえいだ後、静かになる。「ああ・・・楽しかったわ!」「俺もだよ!」「ごめん・・・でも疲れた。もうおしまい。送ってくれたらお金は安く・・・」その途端男の態度が豹変する。「ふん!やっぱり金儲けかよ!」そして女の「やめて!」という悲鳴と男の狂ったような笑い声。女の悲鳴は大きくなり、いきなり止まった。


翌日 

 昨日男女が夜のお楽しみをした車の周りには規制線が張られていた。

 顔をしかめながら鑑識班が女の遺体を調べている。そこに年配の刑事がたどり着き、様子を聞こうとして・・・絶句した。「おい・・・こりゃ酷いな。」女は裸の状態で助手席に座って死んでいた。全身裸であるため、残酷な仕打ちをされたことが顕著に表れている。女は乳首と性器を鋭利なもので傷つけられていた。おまけに目がない。女の目は抉り出されていた。


二時間後 インディペンデントシティ インディペンデント市警

 サラ警部はラドクリフ巡査がもたらした話を信じられない思いで聞いていた。「それは・・・確かなの!?」「ええ・・・非常に残念ではありますが・・・アンドリューさんからご遺体のご確認をお願いしたいと・・・」それを聞くと「嘘・・・嘘・・・」と言いながら彼女はふらふらと立ち上がり、走り出した・・・「エリザベス!エリザベス!」と叫んでいる。ラドクリフはそんな彼女の後姿を見つめ、辛そうな顔でつぶやく。「ああ・・・可哀そうに・・・まさか”マーダーストーム”の魔の手が娘さんにのびるなんて・・・」


 「こちら・・・娘さんで間違いありませんか?」と言いながらアンドリュー検視官は白いシーツをめくる。シーツの下にあった女の遺体を見てサラ警部は崩れ落ちた。「そんな・・・嘘よ!これは夢よ!」サラ警部の悲鳴が検死室にこだまする。


同日 夜中 インディペンデントシティ バー「ホムンクルスの戦場」

 「よお、よく来たな!」という店主のだみ声と卑猥な曲を歌う若者アマチュアバンドの声にデボン巡査は顔をしかめる。それでも彼は無理やり笑顔を作る。「やあ。」そうしてカウンター席に座ると「いつものくれ。」と頼む。その後に彼はこっそりと店主に聞いた。「あんたのボスは来ているかな?」店主は言う。「あいつはいつも遅れてくる。気にするな。」肩をすくめるデボン。


5分後

 「よお!」と大声がして顔中入れ墨だらけの大柄な男が入って来た。「お疲れさん!」と曲をとめたバンドリーダーが言う。「ああ、続けてくれ。俺はそういう単語が出てくる曲は好きだぞ!」と言って下品な笑い声をたてるとその男はデボンの隣に座る。「よお!デボン、元気か?」「ええ、元気ですよ。」と一言答えてデボンは酒を飲む。「同じの頼む!」と店主に声をかけてから男は封筒を取り出す。そして凄みのある声でデボンに尋ねる。「ブツはあるか?」「ええ、ございます。」と答えてデボンは持っていたスーツケースを男に渡す。男は「おい!」と叫んでテーブル席で飲んでいた二人のチンピラを呼ぶとスーツケースを預けた。「ありがとさん。」男はそう言うと封筒をデボンのほうに滑らせた。「いつも助かるぜ。」と男。「え、こちらこそ。」と会釈するデボン。「中を確認しても?」「ああ。」デボンは封筒の中身を見て満足そうに頷いて封筒を仕舞った。

 「待たせたな!カルロス!」店主がボスの目の前に安物のカクテルを置いていく。ボスはそれを飲みながら少し体をデボンのほうに傾ける。「最近な、連続殺人鬼マーダーストームが話題だろ?」「そうですね。うちの殺人課の連中が血眼になって正体を突き止めようとしてますが全くね・・・」「ああ。あんたの前で言うのも何だが、インディペンデントシティ警察の奴らは無能だな。」デボンは笑う。「完全に同意しますね!」「ハハハ・・・だから俺はあんたに言おう。」「・・・何をです?」「実はな、うちの女が3人ばかり殺されたんだ。」「・・・何ですと!?」「マーダーストームが異常者であることはあんたも知っているだろうが、奴は本当に理性というものがないらしい。俺らの商品を傷つけやがった。」「何と!?カルロスさんのシマにまで・・・死体はどこに?」「捜査されても色々と困るから泣く泣く処理業者に頼んで処理してもらったよ。」「・・・」デボンは黙ってしまった。殺人鬼はギャングにも喧嘩を売るようだ。

 カルロスが話を続ける。「統治委員会は俺に殺人鬼を見つけてくるように言った。そいつを委員会メンバーの前で殺してほしいらしい。そして、それが出来なければ・・・俺は委員会メンバーから下り、ここら一帯の統治権を失う。」デボンは頷いた。「協力しましょう。俺は麻薬取締課ですが、殺人課の連中で何人か買収できそうな奴がいます。」「ああ。報酬は言い値にしよう。買収した連中にも払う。」そう言ってカルロスは立ち上がり、店を出た。デボンは溜息をつくと、店主にお代わりを注文した。


翌日 インディペンデントシティ インディペンデント警察

 「申し訳ないんだけど、あなたは捜査から外れてもらうわね。悔しいでしょうけど、分かって欲しいわ。捜査に私情を挟んではいけませんからね。」というアシュリー警視の言葉をサラ警部は唇を嚙みながら聞いていた。予想していたことではあったが、娘の命を奪った卑劣漢を逮捕できないのは悔しかった。


 うなだれて入って来たサラを見て部下達は目を伏せる。警部の憔悴は明らかだった。おずおずとラドクリフが言う。「警部、署長が来ておられます。」ラドクリフが指し示す来客用のソファに署長のレンブラントが座っていた。彼はサラを見て眉をひそめた。「やあ、サラ。」と署長。「こんにちわ、署長。」元気のない声でサラが挨拶を返す。「寝ていないだろう。酷いクマだぞ。」「心配かけて申し訳ありません・・・何しろ・・・娘が・・・」と言ってサラは泣く。署長はそんなサラに静かに話しかけた。「サラ警部、あなたの怒りと悲しみは私には想像できないほど深いものだろう。だからこそ、私は君に休んで欲しい。署長命令で有給休暇を与える。これは命令だ。明日からしばらく休め。」「署長・・・お気遣いありがとうございます・・・」そう言ってサラはがっくりと椅子に座った。署長は頷くと、「ではまたな。」と言って立ち上がる。


 その様子をデボンは見ていた。「彼女の娘が・・・」「そうよ。殺人鬼に娘を殺されたみたいね・・それに、その娘さんね、母親に黙って夜の仕事をしていたみたいなの。」デボンは興味深そうに頷きながら「署内一の噂好き」事務員ホワイトの話を聞いていた。心の中でデボンはこう考える。(ホワイト、なかなか役に立つな。サラは使えそうだ。)


二日後 インディペンデントシティ ウェストストリーツ

 カウンセラーが帰った後、サラは横になる。しかし全く休めない。娘の笑顔を思い出してしまうのだ。

 殺されたエリザベスは長い間彼女の唯一の家族だった。仕事に忙殺される日々での唯一の癒しだった。亡きボーイフレンドの面影が残るその顔はとても整っていた。そう、あのハンサムな間抜け男は当時バイトをしていたレストランで強盗に撃たれて死んだ。一時期サラは悲しんだ。絶望し、誰も寄せ付けなかった。しかしそんな彼女を生かしていたのは腹の中の娘の存在。間抜け男との間に生まれた子供だ。サラは娘のために生きようと決心した。高校生なのに勝手に子どもを作ったことによって両親から見捨てられても生きようと思った。性交が露見し、いじめを受けるようになっても生きようと思った。育児の準備をしていたせいで高校を退学になっても生きようと思った。彼女は娘に救われたのだ。だから愛情を注いで育てた。沢山甘やかした。甘やかしすぎたのかもしれなかった。夜の仕事をこっそりやるという非行に走ったのもそのせいだろうか。しかし娘は表向きには最近まで礼儀正しく育っていた。サラは信じていた。エリザベスの父親が亡くなった話と、その出来事がサラを警察官として運命付けた話を毎日娘に聞かせていた甲斐があったのだと。しかし・・・

 サラのネガティブな思考の流れはアパートのインターホンの音によって止められる。サラはおっくうそうに起き上がる。「誰かしら・・・」

 

 「はあい?どなた様でしょうか?」疲れたようなサラの声。デボンは答える。「サラ警部、お悔やみを申し上げます。麻薬取締課のデボン巡査です。」インターホンの向こうからは応答がない。


 サラは混乱していた。怪しい奴が来たものだ。それもサラとはあまり関わりのない奴が。というかサラは関わりを避けていた。なぜならば、デボンと関わると厄介事に巻き込まれそうに思われたからだ。奴には黒い噂が沢山あった。署に入る前はバイカーギャングに属しており、当時その集団から賄賂をもらっていた警察幹部が採用したという噂。同僚の婦警に対するセクハラが問題となったが愛人などのスキャンダルを使って有力者を脅してもみ消していたという噂。盗難課にいたとき、容疑者に金を要求して釈放していたという噂。若い女の容疑者に対しては、体で払うように求めていたという噂。違法カジノに通い詰めていたという噂。そして一番有力な噂は麻薬取締課にいる現在、押収した麻薬を売人に売りさばいているという噂。どうも芳しくない男なのだ。

 「あの・・・何の用かしら?」するとデボンは答える。「あなたがマーダーストームを捕まえたいのでしたら、僕が協力しましょう。」


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