表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

5

「席取っといてくれる?」

「うん。」

康太は花梨がきょろきょろと周りを見渡して、席に座ったのを見ながら、オーダー待ちの列に並んだ。


「あっ!ねえ!ねえ!」

後ろで若い女の子の甲高い声が聞こえた。

「あっ!あれ公園名物の好き好きカップルじゃない!?今日はカフェなの?」

一応声のボリュームを押さえているらしいが、丸聞こえだ。


や、別に盗み聞きしているわけではなくて。


「なにそれ?」

もう一人が返す。

「公園でずっと好き好き言ってるんだよ、ずーーーっと。」

「そうなの?この…あの…前の人?」


くすくすと笑う声が聞こえる。


「最初はドラマの撮影かなんかかと思ったんだよ、だってかっこいいし、かわいいし。でもドッキリな感じでもないし、ずーーーーっと好き好き言ってて。周りに撮影してる人もいないし。」


「へぇ、そうなんだ。てかあれ?なんか駅にもそんなカップルがいるってお兄ちゃんが言ってたけど。ちょうど仕事帰りくらいの時間に駅のホームでずっと好き好き言ってるんだって。同じカップルかな?」

「バカっ!聞こえるって!」

話しているうちに声が大きくなったことに気づいたらしい。


きゃきゃきゃ

くすくす


………。


…俺らのことじゃないよな?まさかな?他の、どっか他の客だよな?


「…いらっしゃいませ!」

声が聞こえていたのか、バリスタが少し居心地悪そうにしている。

「あー…カフェラテ2つください。」

康太も気まずくなる。下を向きながらぼそぼそとオーダーをすると、康太はそそくさと移動した。


カウンターでオーダー待ちをしていると、女子高生だったらしい二人組が、チラチラとこちらを見てくすくす笑っている。


いや、ほんと。人違いです。


「ごめん。お待たせ。」

康太はドリンクを置くと、席に座った。

「ううん、ありがとう。あっお金。」

「いいよ。」

「ありがとう。」


二人は温かいラテを口にした。


「………」

「………」


沈黙がなんとも痛い。


   ◆


花梨はカウンターでドリンク待ちをしている康太を見つめた。

スラリと高い身長。ぴしっと伸びた背。小作りの顔は整っていて、周りの女性客の視線を集めていながらそれを涼しげに流している。

見られることに慣れている感じだ。


うん、かっこいい。

かっこいいんだけど…


キラキラしてないな。

普通の人って感じ。

や、普通の人なんだけど。

あれ?モデルとかタレントとかじゃないよね?

そんなこと言ってたっけ?

そんなこと話したっけ?


はて、と考えているところで、康太がドリンクを持って来た。


「ごめん。お待たせ。」

康太はドリンクを置くと、席に座った。

「ううん、ありがとう。あっお金。」

「いいよ。」

「ありがとう。」


二人は温かいラテを口にした。


「………」

「………」


なんか、あれ?いつも何話してたんだっけ?


共通の趣味とか?

…趣味の話なんてしたことないな。


好きな野球チーム?

…野球好きなんて聞いたことないな。


家族のこと?

…家族構成は知らないな。


仕事のこと?

…勤め先知らないな。


え。この人ダレ?


花梨はまじまじと康太を見つめた。康太は視線が定まらないようにそわそわしている。


ドリンクを飲み終わると、その日は気まずい感じで別れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ