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   ◆


康太はいそいそとカバンに書類を詰め込んだ。


残りの仕事は帰ってからやればいい。それより愛しの彼女が待っている。


「おっ今日も早くに帰るねー。デキる男は違うねー。」

先輩が皮肉っぽく言ってくるが、そんなことはどうでもいい。

「はい。彼女に1秒でも早く会いたいので。」

康太は満面の笑みで返した。


彼女のことを考えるだけで身体中が熱くなる。

愛しの、愛しの彼女。


目がきれいだ。

顔がきれいだ。

艶やかな髪の毛がきれいだ。

透き通る白い肌がきれいだ。

彼女は存在そのものが輝いている。

ああ、どうしたらこの想いを言葉にできるだろう。

貧困なボキャブラリーが憎い。

もっと、彼女にはぴったりの言葉があるはずなのに。


堂々と惚気た康太は、まだ何か言っている先輩をお疲れ様でしたと切って、足早にオフィスを出た。


愛しい、愛しい、俺の彼女が俺を待っている。

俺を、待っていてくれる。


康太は小さい頃から顔がよかったらしい。らしいというのは、自分では平均的な顔だと思っているからだ。

が、確かに小さい頃から女の人に可愛がられることは多かったし、学校でも女子にきゃいきゃい言われ続けてきた。


小学校高学年にもなると、女子のほうが成熟だ。

学生時代はバレンタインには紙袋持参で学校に行くほどにモテてきた。カバンに入りきらなかったのだ。


鬱陶しい、俺は男子と馬鹿やって騒ぎたいんだと思っても、どこでも追いかけられる視線。

いつの頃からか、諦めと共に、誰かの視線を感じても、焦らず、慌てず、ゆっくりと逸らすという技を覚えた。

いきなり視線を逸らしてはいけない。その急な動きに釣られたその人物が寄ってくるからだ。

もちろん、見つめ返すなんて言語道断だ。


みんなに公平に感じよく接してるが、『俺はそういうスタンスなんであなたが特別なわけではないですよ』という姿勢は崩さないようにしてる。

学生の頃の彼女には、『私のこと好き?』と聞かれたら好きだと答えていたが、そもそも好きとは何なのかは深く考えたことはない。

大人になって一番よかったと思えることは、相手に好きと言わなくても事足りるようになったことだ。



でも。

愛しの彼女。彼女は特別だ。

いや、特別で、一番で、最高で…あと、なんだ?とにかく、好きだ。

こんなに好き好き言ったのは人生で初めてだ。

どこが好きとかじゃなくて、もう、すべてが、好きだ。

キラキラと輝く笑顔。

ああ、早く彼女に会いたい。


康太はいつもの公園の前まで駆け足で行くと、止まって息を整えた。

今まではマスクをしていたので息苦しかったが、花粉の季節は去った。

新緑の匂いを思い切り肺まで吸い込むと、ふうと息をついた。

もうくしゃみも出ない。目も痒くない。今年も苦行が無事終わった。


「康太!」

花梨が駆け寄ってきた。


ああ、今日も綺麗だな。


「花梨!」

康太も駆け寄って、いつものように手を取り合って…


あれ?


いつものようにドキドキしない。


あっちもあれ?て顔をしてる。


なんだ?なにかおかしい?


花梨の手をぎゅっと握る。

いつものように、柔らかくて、スベスベな手だ。


康太は花梨の顔をじっと見る。


うん。いつも通り可愛い。


「あー…公園、行く?」

なぜか気まづさを感じながら、康太は聞いた。

「うん…」

花梨が微妙な顔をしている。


じゃあいつものように公園に…と行こうとして、はたと気づく。


いやいや、カフェくらい行こうよとカフェに。

なんで俺らはいつも公園に行ってたんだ。


「そこでお茶しようか。」

康太は公園の前のカフェを指して言った。

目の前にあるじゃないか。なんで行ったことがないんだ。

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