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   ◆


今年の春は少し様子がおかしい。


街全体がふわふわ、そわそわしてる。

恋の成分が舞い散っているかのように、いたるところで恋人同士が手を取り合い、見つめ合い、愛を叫んでいる。


街コン!

合同コンパ!

お見合いパーティー!

船上パーティー!


この春は出会いの場が多く開催されている。


『XX市は、街コンを毎日開催☆』

おそらく市の職員が作ったのであろう、手作り感が溢れているポスターが駅前に貼ってある。


「え、みんななんかはっちゃけすぎじゃない?」

「ここ数年で溜まってた分が弾けたんじゃない?」

「あー、確かに引きこもってたからね…」

「そりゃあ春だし外にも出たいよね、なんだったら素敵な恋人と手を繋ぎたいよね。」

「それねー。」

ポスターの前で足を止めていた女性二人が、笑いながら去っていった。


でも。

恋に終わりが来るように。花火は永遠に続かないように。今年の花粉症の季節も過ぎていく。


浮ついていた人々も、やがて通常運転に戻っていく。


   ◆


花粉症の季節が過ぎ、やっとメイクができる。愛しいあの人に可愛いって思ってもらいたい。


花梨は気合を入れて鏡の前に陣取っていた。


花梨は女子力高めと言われればまあそうかも、と自分でも思っている。

美容師一家の影響で、女は綺麗にしてなんぼという感覚で育ってきたからだ。

ネイルも、メイクも、それなりに頑張っている。でも自分の趣味でやっているだけなので、男ウケとかどうでもいい。

周りの女子がメイクをしてもしなくても、それはその人の自由だと思っている。


美容師の兄いわく、『いいか、顔の美醜は関係ないんだよ、いかに小綺麗にするかってことなんだよ。』らしい。


…それ暗に私が可愛くないと言ってる?


綺麗にするのは楽しい。メイクも髪型も可愛くなるとテンションも上がる。


美容師の母の手はぼろぼろだ。

シャンプー、ブロウ、パーマ液やヘアダイ。美容師の手は常に過酷な環境にさらされている。


『ママは綺麗にしなくていいの?』と小さい頃に聞いたけど、『ママはお客さんがきれいになればいいんだよ』と笑っていた。


祖父の代で開いた美容室で、花梨は育ったと言ってもいい。

小さい頃から毎日美容室にいたし、宿題もそこでやった。

おままごとで美容師さんの真似をするのが好きだったし、お客さんが明るい顔でお店を出るのを見るのが大好きだった。


彼氏はいたりいなかったりするが、恋に落ちるってなに?という問いに答えてくれる出会いは今までなかった。


美容室に置いてある雑誌の恋愛特集を読みすぎたのかもしれない。お客さんの恋バナもいっぱい聞いた。


恋に落ちる以前に、そもそも上がってないんだけど。

今の状態で落ちたら地獄くらいにしかいけなさそうなんだけど。


『要するに耳年増だな、お前は』と兄は笑う。



よし!いい感じにメイクできた!

鏡の前でにっこり笑って、花梨は家を出た。

今日は休日だから一日中彼と一緒にいられる。

彼のことを思うと、胸がドキド…ううん?あんまりドキドキしないな。いやいや、そんなことはない。だって私の愛しの彼だもの。



「康太!」

花梨は康太の元へ駆け寄った。結構近くに来るまで気づかなかったのは、久しぶりにコンタクトをしたからかもしれない。

花粉の時期は目がゴロゴロするので眼鏡をかけていたけど、愛しい彼の前では眼鏡は外していた。

目はそんなに良い方ではないが、彼のことはハッキリ見える。だって彼の周りは輝いているんだもの。


「花梨!」

康太が花梨の手を取る。その瞬間、花梨はドキッと心臓が…跳ねないな。ううん?


一瞬眉を顰めた花梨だが、気を取り直してにこりと笑うと、いつもの公園に康太と向かう。

いつものベンチに座って、今日も愛を語らう。


その頃には、違和感は完全に消えていた。

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