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   ◆


「大丈夫っすか?なんか、大変そう。」

真島が康太を同情の眼差しで見ながら言った。額の処置はもう終わっている。右肩の打撲はアザにはなりそうだが、折れてはいなそうだ。そうではない。体が熱いのだ。

康太は声を出さないようにしながら首を横とも縦とも言えない角度に振った。わずかな刺激でも声が漏れそうになる。

「なんか薬物やってます?」

「やってないですよ!」

康太はびっくりして答えた。何言ってるんだ、コイツは。


なんかヤバいな、とは薄々思っていたのだ。花梨を助けるまではそちらに気がとられていたからあまり気にならなかったが、2人で手を繋いで歩いて帰ってきているうちに、どんどん体が熱くなってきた。花梨の手を握りつぶさないように注意しながら、言葉少なげに歩いた。体が熱いんじゃなくて下半身が熱いんだと気づいたのはソファーに座ってからだ。思わず前屈みになってしまう。花梨が席を外すと張り詰めていた息を吐いた。


「うーん、魔女の家でなんか触りました?」

「魔女の家だったんですか!?あー、なんか手当たり次第にいろいろ投げましたけど。」

必死だったからなあ。

てか魔女って。

「その中に薬草とか液体とかありました?」

「液体はなかったけど草っぽいのはありました。あと、小麦粉みたいな粉?かな。床にぶちまけたんですよ。それ吸ったらカッとなりましたけど。」

「あー…多分それかな。俺はその辺のことはあんまり詳しくないっすけど…精力剤かな、多分。」

「精力剤?確かにその後、力が強くなった気がしますね。」

その後力一杯投げた椅子で壁が揺れたのだ。

その時のことを思い出しているうちにもどんどん熱くなっていく。主に下半身が。

「うーん…どうしたもんかな。鹿の角かな。キノコ類かな。他の界のヤバいやつじゃなきゃいいんですけど…時間が経てば消えるのか、どうにかしないと収まらないのか分かんないっすね。」

真島は花梨がいる洗面所の方を遠慮がちに見ながら言った。

それはあれだよな、処理すれば収まるかっていう話だよな。

「あー…それはなんとも…」

康太は曖昧に濁した。今ここでどうにかする、という選択肢はない。この男は法を守る側の人間らしいが、だからといって花梨をこの男と2人っきりにするわけにはいかない。


「よし!虎の子を出しましょう。」

真島は勢いよく立ち上がった。

「虎の子?」

「はい。俺らの最終手段。秘密兵器。万能薬っす。」

真島は冷蔵庫から100ミリリットルほどの液体が入った瓶を出してくると、康太の前に置いた。

液体は透明で、コルクの栓がしてある。ゲームのポーションが入っていそうな瓶だ。


「…なんですか、コレ?」

「聖水っす。聖女の。」

「………」

妖魔に、魔女に、今度は聖女かよ!盛りすぎだろうが!まともな人間はいないのかよ!

それとも、俺が世間知らずなだけか?世の中にはこんなわけが分からん存在がうじゃうじゃしてるのか!?

康太は胡散臭げな目で聖水を見た。手に取る気には到底なれない。

「効き目は保証します、と言いたいところなんすけど、俺は飲めないんで実験台にはなれないんすけど。でも魔安の中ではピカイチの薬っすよ。すげー高いらしいし。」

「なんで飲めないんですか?」

「ちょっとかくかくしかじかで。飲めないって言うか、お前はやめといたほうがいいって言われてるっていうか…でも女の先輩がこっそり飲んでるの知ってますけど、肌ぷりっぷりっすよ。」

…まったく参考にならん。

康太は頭を抱えた。


カタン


ドアの近くで音がした。

「あの、化粧ポーチ取りに来て。えっと、康太、大丈夫?頭痛いの?」

花梨が戸惑いながら康太に近づいてきた。

「大丈夫!なんでもない!大丈夫だから!」

康太は慌てて手を振った。こっちに今来られたら困る。

「大丈夫っすよー。康太さん、今頭痛薬飲んだんで。そのうち効いてきます。」

真島がのんびりと答えた。真島の声は穏やかで、空気が緩む作用があるようだ。花梨は納得してポーチ片手に洗面所に戻った。

「…ありがとうございます。」

康太は気まずそうに頬を染めた。ガキじゃねーんだから。あんなに慌てたらなんかあったって言ってるようなもんじゃねーか。

恥ずかし紛れに康太は聖水のコルクを抜くと、一気に飲み干した。味はない。ただの水。まあ『聖』の『水』だからな。

特に劇的な変化はなかったが、気の持ちようということもある。

効け。効け。

康太は念じながらゆっくりと息を繰り返した。

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