表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

28

「カップスープがありましたよ。俺らの非常食っす。どうぞ。」

真島は2人の前のコーヒーテーブルにコーンスープを置いた。ほかほかと立つ湯気に誘われるように、花梨はカップをそっと持ち上げた。


あったかい。手、冷えてたんだ。


花梨はカップを両手で持つと、ふーふーと息を吹きかけた。顔に蒸気が当たって気持ちいい。

「ありがとうございます。いい匂い。」

「花梨。」

康太が花梨を制して首を振った。

「あっ!変な物は入ってないっすよ!ただのインスタントのスープっす。俺の好きなメーカーのやつ。」

真島はキッチンからコーンスープのパッケージを持ってきて2人に見せた。その様子をじっと見た康太は、俺が先に飲むから、とスープを口にした。

飲んで、微妙な顔をする。

「…どうしたの?」

花梨は心配げに聞いた。

「ごめん、俺、もしなんか入ってても違いが分かんないわと思って。」

花梨は思わず笑った。

「大丈夫。私もきっと分かんないから。せっかくだから頂こう?」

花梨はスープをそっと口にした。クルトンがサクサクしている。


うん、私はコーンよりクルトン派。美味しい。甘塩っぱい味が、喉を通り抜けて体の中に入っていく。


2人はしばらく無言でスープを飲んだ。


1人掛けのソファーに座った真島は、2人の様子を穏やかに見ている。


「じゃあ、手当てしましょうか。」

2人がカップを置いたのを見た真島は、救急箱から消毒液、湿布、包帯を取り出した。

「まずはその額ですね。血は止まってますね。よかった。」

「あっ!私やります!手洗ってきます!」

花梨は慌てて立ち上がった。

「廊下の手前側のドアが洗面所っすよー。」


はーい!と返事をした花梨は、洗面所の前に立つと、自分の顔の酷さにびっくりした。

髪はボサボサ、目の下にはくっきりとクマができていて、当然と言えば当然だが、残念なことにおでこも鼻もテカっている。

ファンでは見る影も無いほどにヨレているし、散々泣いたからかアイライナーが目の周りに滲んでいる。


…サイアク。ひどい。命の危険から帰ってきたにしては小さい悩みかもしれないけど、この姿はひどい。無事でいられて嬉しいけど、人間の悩みは尽きないものね。


花梨はとりあえず手を洗うと、どうしたものかとため息をついた。


こんな姿で康太の隣にいたなんて。笑顔でいればすこしはマシに見えるかな?


花梨はにっと口角を上げてみた。途端に、ぴりっと唇の皮が裂けた。


「いったい!」

唇が乾燥していたらしい。下唇の真ん中から血が出てきた。


やらなきゃよかった…


「ゆっくりで大丈夫っすよ。俺、手当て得意なんで。戸棚の中に女の人が使うっぽい、いろんなもん入ってるんで、テキトーに使ってください。」

真島の声が廊下に響いた。

「ありがとうございます!」

花梨も大きな声で返した。

花梨は戸棚を開けると、中を漁らせてもらった。女性用メーカーのトラベルキットがある。化粧水、保湿液、洗顔フォーム、クレンジング。


どうしよう、すごく顔が洗いたくなってきた。洗顔フォームを見たからだ。幸い、カバンのポーチにはメイク用品は入っている。


こんなことしてる場合じゃないのに、と思いながら花梨はクレンジングのパッケージを破いた。

疲れてる時って、妙に細かいことが気になるもんよね。

他人事のように思いながら、花梨は状況の改善に努めることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ