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   ◆


「さ、着きましたよ。」

ぼうっとしながら道を歩いていたはずの康太と花梨は、真島の朗らかな声にはっと意識を取り戻した。

「あれ、いつの間に。」

花梨は立ち止まってぱちりと瞬きをした。辺りを見渡すと、いつも見慣れた光景が広がっていた。

灰色の高層ビルが立ち並ぶオフィス街。通勤ラッシュの時間なのか、スーツ姿の人々が同じ方向に足早に通り過ぎていく。車のエンジン音、交差点の音、人々の足音。嗅ぎ慣れた排気ガスの匂いは、今まで歩いてきた不思議な空間の空気とは違うものだ。街の中に戻ってきたのだ。

花梨はほっと肩を撫で下ろすと、手で目元を覆って辺りを見渡した。明るい朝の日差しが目に眩しい。

「体がびっくりしないように少しづつ界を移動したので、ちょっと疲れてるかもしれませんが、大丈夫。時差ぼけみたいなもんすから。さ、オフィスで手当てをしましょう。」


真島は二人を年季の入ったマンションに案内した。一階はコンビニで、その脇にマンションに上がるエレベーターがある。ゆっくり動いてガコンと止まったエレベーターが重たそうにドアを開けた。少々安全性に疑問が残るそれに乗って7階に着くと、真島は角部屋の前で立ち止まった。ドアには『マジックセーフティー』と書かれた薄いプラスチックの表札が、やる気のない感じでぶら下がっていた。

「マジックセーフティー…ですか?」

明らかに怪しいだろう、という気持ちを込めて康太が聞くと、

「あー、なんかそんな感じのペーパーカンパニー的な?俺もよくわかんないっすけど。」

と真島がポケットを漁りながら気もそぞろに答えた。

鍵、鍵…あれ?どこやったかな。真島はポケットというポケットに手を突っ込むと、胸ポケットからお目当ての鍵を引っ張り出した。

「あ、魔の安だからですか?マジックのセーフティーですね。」

花梨が、ひらめいた!と嬉しそうに聞いた。

「そうらしいっす。公式ではないとはいえ、お役所みたいなもんっすからねー。ネーミングセンスは昭和で止まってるらしいっす。」

真島はドアを開けると2人を先に通した。お邪魔します、と玄関で靴を脱ぐと、康太と花梨は部屋の中に入って行った。

「すみません、スリッパとかなくて。」

真島は大きなガタイに似合わず細かい気配りができるタイプらしい。


部屋は一般的なマンションだった。廊下の突き当たりがリビングダイニング兼キッチンだ。南向きの大きな窓からは、今日は気温が上がりそうだと感じさせる日差しが入ってくる。

ソファーにダイニングテーブル、シンプルな白地のカーテン。人が暮らしているにしては殺風景すぎるし、かと言ってオフィスかと言われるとカジュアル過ぎる。

真島は窓まで突き進むと、窓を開けた。少し空気がこもっていたのだ。

「どうぞ、ソファーに座ってください。ここは俺らの休憩所とか避難所みたいなもんなんすよ。張り込みとかしてて家に帰れないときとかにここで寝たりします。あ、お茶…お茶なんかあったかな?」

真島はキッチンをごそごそと探し出した。

「あ、お構いなく。」

花梨はソファーから立ち上がって手伝おうとしたが、一度座ってしまうと体が鉛のように重いことに気づいた。ソファーに体が沈んで動かない。腕を動かすのすら億劫だ。


疲れた…なんか、ほんと、すごい疲れた。

一日中海の中を泳いだら、こんな感じになるのだろうか。まだふわふわと体が揺れている気がするし、何より朝日が眩しい。朝日…朝日…


…うん?朝日?

ちょっと待って。私があの妖魔に会ったのってサリナさんのお店から出た後だよね?ってことは夜だよね?

今、朝。

え、朝?

…そりゃ疲れてるはずわ。


花梨はどっと体の力が抜けた。今度こそ、本当に立ち上がれる気がしない。

この訳の分からないことを、夜通しやっていたのだ。

メイクは完全に崩れているだろう。シャワーも浴びていないし、歯も磨いていない。

てか、お腹すいた。

でも、お腹は空いているけど、限界を通り過ぎているからか食べる気もおきない。

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