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「うぜえ。しつこい。この国の男はあれか、粘着質なのか。むっつりなのか。自分のものだと思うとエサもやらないくせに、人に奪われそうになると追っかけてくるんだもんなー。都合のいいこって。」

腕を組んだ男がぞんざいに言い放った。

「うるさい!花梨を返せ!花梨!花梨!」

康太は腹の底から大声を出して花梨を呼んだ。この男に構っている時間はない。


「お前の花梨ちゃんはお前に会いたくないそうだよ。私のことを放っておくような男はキライ!だそうだ。」

「花梨はそんなこと言わない。」

「へえ。知った口をきくな。俺の妖にかかっただけのただのニンゲンが。」

「妖…?なにを馬鹿なことを言ってるんだ。花梨を返せ。」

康太は眉をひそめた。

「俺はな、妖魔なの。楽しいことをするのが生きがいなの。お前が花梨に発情しているのは、俺の妖が見せたただの幻想。別に花梨じゃなくたってよかったんだ。お前は、他の女だろうが男だろうがジジイババアだろうが赤子だろうがタイミングが合えば発情してたんだよ。お前らが言う『恋』の正体なんて、そんなもんだ。ただの発情。体が子孫を作れって命令してるんだよ。」

「そんなことあるかよ!俺は花梨が好きだ!発情なんかじゃねえ!」

康太は叫んだ。それと同時に、目を忙しなく動かして花梨を探す。


男は康太をまじまじと見た。

「それ。それなんだよ。ニンゲンってのはほんとに不思議だよな。お前らまだヤってないだろ。俺は発情する妖をかけたんだけどな。今頃至る所で盛ってるはずだったんだけどなー。お前ら手握ってるだけだったしなー。見ててもつまんなかったよなー。」

「俺らのこと見てたのか!お前何者だ!」

康太は男に焦点を合わせた。

「だから妖魔だってば。聞いてた?俺の話。」

「妖魔なんて存在しねーよ!この厨二病野郎!花梨はどこだ!?」


よし。このバカと話している間に息は整った。あいつを殴る。

康太は拳をぎゅっと握りしめて駆け出した。


「自分に都合の悪いところは見て見ぬ振りってゆーのもニンゲンの面白いところだよな。まあいいさ。お前の女が食われるとこ見てろ。」

男が上から康太を見下ろした。一歩踏み出した康太は、ぽかりと開いた黒い穴に落ちていった。


ドサン!

「っ!」

数メートルはゆうに落下した康太は、全身を床に叩きつけられた。とっさに受け身を取ったので内臓は守られた…と思う。右肩から先がジンジンする。

「ハッハッハッ」

ズキズキと痛む体で短い呼吸を繰り返しながら、康太は息を整えた。呼吸をするたび、全身がビリビリする。


くそっアイツ、覚えてろよ。


康太は痛む体を縮こまらせて、痛みの波が過ぎるのを待った。大きな波が過ぎたところで、康太はなんとか起き上がるとあたりを見渡した。いや、見渡そうとした。だが、左右を見ても、落ちてきたはずの上を見ても、下を見ても、何も見えない。暗い、真っ暗な、なにもない空間。本能的に恐怖を覚えた康太は、地面をぐっと押した。また床が抜けたら困る。康太は手が届く範囲の周りの床を押して地面がフラットなことを確認すると、おそるおそる立ち上がった。


キラリ

…なんだ?


立ち上がると、遠くに白い光が光った気がした。光を求めて、康太はそちらに向かって歩きだした。

一歩一歩、慎重に進む。真っ暗な中を歩くのは想像以上に怖い。平衡感覚が狂って、くらっと眩暈がする。

それでも康太は光が見えた方向に進んだ。この先に花梨がいる、だから頑張れ、と自分を励ましながら。


チラチラと遠くで光っていただけの光が、どんどんと大きくなっていった。ビー玉くらいだった光はバスケットボール並みになり、やがて窓と同じくらいの大きさになった。眩しさに目を顰めながら光の方を見ると、そこはどこかの部屋に繋がっているようだ。ぼんやりと部屋の輪郭が見えてくる。壁、窓、あれは…ファンか?天井から何かが吊り下がっている。次第に慣れてきた目で手前側を見ると、花梨の頭が見えた。

「っ!花梨!花梨!」

康太は痛む体を引き摺りながら花梨の方へ走って行った。手を伸ばそうとして——

ガンッ!

手が思い切り弾かれた。

「いってえ!」

突き指をした。


「花梨!花梨!」

光のある部屋に行こうとすると、体ごと弾かれる。

「なんだ…ここ?」

康太はそっと手を伸ばすと、恐る恐る光の方へ手を近づけていった。


ペタ

ペタ

ペタ


「…壁?ガラスか?」

透明なガラスのようなものに阻まれて、康太の手はそれ以上前には進まない。光の端まで手を置いても、上下の高低差をつけても、抜け穴のようなものはない。一面がガラス張りのようだ。

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