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花梨が走り去った後、康太は呆然と公園のベンチに座っていた。
…恋じゃない?なんの話だ。
いや、本当は分かってる。花梨の言う通り、俺たちは確かににおかしかった。
あんなにアホみたいに好き好き言うなんて、10代のガキじゃあるまいし。
はあー。
康太は重いため息をついた。
おかしかったけど、俺が花梨を好きだと思ったのは本当で。
それだけじゃだめなんだろうか。
それとも、ただの口実?花梨はあの男と付き合ってるのか?
腹の底が煮えたぎった。
だめだ。花梨は渡さない。
でも…でもなあ。
しつこい男は嫌われるぞ、と冷静な自分が突っ込む。
このご時世、加減を間違えたら即ストーカー扱いだ。
いや、相手が嫌がってることをするのは絶対だめなのはだめなんだが。
康太はもう一度ため息をつくと、煮え切らない思いを抱えたまま立ち上がった。
ぶるっと身震いした。
どうやら、ぼーっとしている間にずいぶん時間が経ってしまったらしい。
日中は暖かかったが、夜は冷える。
安定しない天候に毒吐きながら、康太はあてもなく歩き出した。
周りからの視線を感じる。いつものことだ。
声をかけてきそうになる人を避けて、康太は足早に繁華街を抜けた。
こういうのも、花梨と恋をしてる間はまったく気にならなかったんだけどな。
世界が輝いて、煌めいていたあの時間は、終わった。
ふと横道に目をやると、花梨の髪の毛が見えた気がした。
髪の先だけ見て花梨だと思うなんて俺も相当重症だな…
自虐的に笑った康太だが、気になって仕方がなかったのでそちらに歩いて行った。
花梨…?
花梨らしき女性の後ろ姿が見えた。その目の前には背の高い外国人風の男。笑いながら花梨に手を差し伸べている。
「っ!」
だめだ、あの男はだめだ。
康太の直感が告げた。
「花梨!」
康太は大声で叫びながら花梨を呼んだ。
「花梨!花梨!」
周りの人が驚いて振り向くくらいの大声なのに、花梨には聞こえないようだ。
男は花梨の手を取ると、花梨の腰を抱いて歩き出した。
チラリと男が康太の方を振り向いて——
ニヤリと嘲り笑った。