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   ◆


育む愛か。

素敵だな。高坂さんと杏さん。

私も康太とそんな風になりたかった。

…なれるのかな。でも、もう遅い。


私は逃げたかっただけなんじゃないだろうか。

いや、逃げたんだけど。

康太に『誰だコイツ?お前なんて好きじゃない』と言われるのが怖かった。

振られる前に振ってしまえなんて、サイッテー、私…


恋が冷めても、その先に愛があるなんて考えたこともなかった。


やっぱりもう一回連絡して。

—— 今さら何を言うのよ。


ごめんて謝って。

—— 都合良すぎでしょ。


勝手にいっぱいいっぱいになって、一方的に別れようなんて。

やっぱり二人できちんと話し合うべきだった。


メンドクサイ。私、メンドクサイ女だったんだ。今までわりとあっさり別れて引きずらない方だったんだけど。


「だー!メンドクサイな!お前は!」

「きゃ!」


後ろから叫ばれた花梨は、びっくりして後ろを振り返った。そこには自称妖魔の男がいた。


「メンドクサイ。まじて、メンドクサイ。ウジウジしてウザい。」

「なっ、なによ!いきなり来て!」


「いきなりじゃねーよ。この前言っただろう。お前は俺の妖にかかった数少ないニンゲンなんだよ。そりゃ観察するだろうが。」

「虫の観察みたいに言わないでよ!」

花梨は後ろをチラリと後ろを見た。逃げられるだろうか、この明らかに怪しい男から。


「ほんとにつまんねーな。テンション低すぎなんだよ。もっと派手に、ぱーっといこうぜ!せっかく俺がシンセツシンでいろいろやってやったのに、もう元通りのテンションだもんなー。萎えるよなー。」

妖魔はわざとらしく肩をすくめる。

「そっ、そんなことしてくれなんて頼んでないでしょう!」

「なんだよ。ショウシカ?なんじゃないのかよ。番わねーと子供はできねーんだよ。だからここら辺一帯を発情しやすくしてやったんだろーが。さっさと番えよ。なにジメジメしてんだよ。腐るぞ。」

「堅実なの!私たちは!」

「いいじゃねーか、燃え上がる恋ってやつ。破滅する様を見たかったのに。」

妖魔はさもおもしろそうに笑った。


「たかが恋で殺し合ってたら社会が成り行かないでしょうが!」

「とか言いつつ、そのくせお綺麗でロマンチックなものを求めるんだもんなー、てめーで動けよっつーハナシだ。」

「そ、それは…周りのこととか考えて…迷惑になったらいけないでしょう。」

「けっ。結局自分が傷つくのが怖いだけじゃねーか。どんだけ自己愛に溢れてるんだ。」

「………」

花梨は俯いた。


傷つくのは怖い。

人を傷つけるのも怖い。

私が何かを言って、何かをして、もしその人の人生が変わっちゃったら。

…そこまで自分の言動に影響力があるなんて自惚れてるわけじゃないけど。


人の心の中に一歩踏み出すのは怖い。

拒絶されたら?いやだって言われたら?

もし、自分が嫌になって途中で放り投げてしまったら?


そんなことをぐるぐる考えて、一歩も動けない。


「…なあ、花粉の妖、お前にやろうか?」

「え?」

花梨は顔を上げた。

「あの妖があれば、お前の男もまたお前に惚れるぞ。好きだって、愛してるって、いくらでも言ってくれる。」

「そ…そんなの…おかしいよ、だめだよ。だめ…」


だけど…

康太がまた好きって言ってくれる?お互いしか目に入らなかったあの頃に、戻れる?


ダメダメ。それはだめだって思ったから別れたんだもの。


「きれいだって、可愛いって、ずっと一緒だって、いくらでも言ってくれるぞ。」

「………」


かわいいって思われたい。きれいだって言われたい。あなたのためだけに、きれいになりたい。


「浮気もしない。」

「っ!」


あのかわいい女の子。あの子は康太の妹だったけど、康太がモテるだろうなってことは知ってる。

次に見るのは、ほんとに新しい彼女かもしれない。


「別に今すぐ使わなくてもいいんだ。手元に持っておけばいい。使いたい時に、使いたいだけ、使いたいやつに使えばいい。来い。」

花梨はぼうっとした頭で、差し出された手を取った。

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