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   ◆


時は遡ること少し前。


康太はため息をついた。


花梨から連絡はない。こっちから連絡をしなくても、ぶっちゃけまた戻ってくるものだとタカをくくっていたのかもしれない。

確かに、一度会おうとは言われた。ただ仕事が忙しかったから断ってしまったのだ。それ以来、連絡は来なくなった。


どーしたもんかな。

康太はスマホでゲームをしながらつらつらと考えた。


「お兄!せっかく帰ってきたのにゲームばっかやってつまんない!デートしよ?」

妹が康太のスマホを取り上げて可愛らしく笑った。

妹は身内の贔屓目を引いても可愛いし、本人も可愛いことを自覚してる。


まあ家にいてもなあ、と康太は妹と出かけることにした。


妹に連れ回されて買い物に付き合い、もうそろそろ帰ろうと駅までの近道の裏道を歩いていると、『康太…』という声が聞こえた。


…花梨?

康太が声のした方を見ると、花梨が他の男と一緒にいた。

…誰だ。

「か——」

「ねえ、康太。早く行こ?お店入れなくなっちゃうよ。」

妹が康太の腕をぎゅっと引っ張ったので、康太ははっと我に帰った。妹にカッコ悪い姿を見せる訳にはいかない。その一瞬の戸惑いを察してか、妹は足が止まっていた康太を引きずるように花梨の方へ歩いてきた。


康太が近づくと、花梨は連れの男の後ろに隠れてしまった。


腹から迫り上がってくる怒り。頭に血が昇って、目の前が赤くなる。


花梨を引き寄せて——

だめだ


腕の中に抱き込んで——

だめだ


二度と離れないように抱いて——

だからだめだって!


人は怒りすぎると怒りが外に出ないらしい。


それは俺の女だ、離れろ、そう思うのに、平静な顔をして通り過ぎてしまった。怒りと同じ熱量の自制が、衝動的な行動を抑圧する。


康太は二人の方を見ずに狭い道を通り過ぎると、ほぼ駆け足に近い速さで駅まで突き進んだ。

「お兄!お兄!待ってってば!」

駆け足で康太の腕を掴んだ妹が息を切らせている。

「…ごめん。」

康太は気まずげに謝った。


「お兄、あの人元カノ?私のことすごい目で睨んでたけど。」

睨む?花梨が?俺とは目が合わなかったのに?妹の方は見たのだろうか。


「…気のせいだろう。」

「もしかして付きまとわれてる?私ドヤ顔しといたよ!」

「やめろよ、お前。」


はあーと康太は思い息をついた。

「悪い、俺うちに帰るわ。」

「えっ!ママが張り切ってご飯作ってたのに!」

「母さんにはごめんって言っておいて。」

康太は妹の返事を聞かずに歩き出した。


家までは電車で約30分。電車に乗る気にならなかった康太は、家まで歩くことにした。


俺がぐだぐだしている間に花梨は他の男と付き合うことにしたのだろうか。

だめだ、やっぱり今からでも追いかけて奪い返さないと。

だめだ、今二人を見つけたら何をするか自信がない。


落ち着け、落ち着け。たかが彼女だ。

正直なところ、康太が付き合おうと言ったらすぐにでも付き合いたいという女はいると思う。

でもだめだ。そういうんじゃないんだ。花梨は、俺の、運命の彼女だ。


花梨のことを考えると心臓がドキドキする。


ふと目の前を、花梨と同じ髪型の女性が通り過ぎた。思わず目で追ってしまう。

花梨に似た笑い声がして、振り向いてしまう。


花梨

花梨

俺の運命の人


もう遅いのだろうか。俺は、花梨の運命の人にはなれないのだろうか。

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