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7. シャール公爵の素顔


「では、ロゼ嬢。こちらへ」

 泣き叫ぶミルネを追い払ってシャール様は私の手を取った。シャール様が魔法で着替えさせてくれたドレスはとても美しく、周りの招待客たちが口々に私の服装を褒めているのがわかった。

「正直、君が姉の婚約を破棄させてまで俺を求めてくれたと思っていたから……その少し残念だ」

「ごめんなさい」

「いや、いいんだ。君は婚約者を姉に取られ、俺のような人間を押し付けられた。だろう?」

 シャール様は屋敷を出た後、馬車までの道をゆっくりと歩きながら言った。

「でも、なぜ俺との婚約を?」

 シャール様の方を見てみる。しかし、背の高い彼の顔はベールで覆われていてほとんど見えない。

「信じてくれたのは……シャール様が初めてだったからです」

 私は立ち止まって彼を見ながら言った。ずっとずっと虐げられてきた私を、彼はあの瞬間、姉よりも祖父母よりもあの場にいた大勢よりも「私」を信じてくれた。

 婚約を決めるのなんてそれで十分だった。

「俺の顔が醜くても?」

「えぇ、関係ありませんわ」

「ほぉ、これを見てもか」

 月明かりに照らされたシャール様はフェイスベールをはらりと剥ぎ取った。美しい黒い瞳、すらっと高く男らしい鼻。薄い唇はきゅっと真一文字にむすばれている。

 どこがおかしいのだろうか。

 むしろ、かなりの色男だ。

 私が首を傾げると彼がクワッと口を開けて笑った。綺麗に揃った白い歯の両端にはひときわ大きい犬歯が2本。

「恐ろしいだろう? これは魔歯。俺が生まれ落ちた時から生えていた大きく邪悪な歯だ」

 人ならざるもの……の象徴である大きな魔歯はこの国では忌み嫌われるものである。シャール様は剥ぎ取ったベールを付け直すと私の方に向き直って言った。

「これを見ても、貴女は俺を選んでくれるのかな」

 彼がベールの奥で笑ったような気がした。悲しく、切なさに溢れたその乾いた笑いに私は何も言い返すことができなかった。

「さて、こうして君をあの屋敷から連れ出してきたのだが、困ったな」

「へっ?」

「君の祖父母は没落貴族になった。あの姉は俺の知っている男に嫁いでもらう。ヒンスには激戦区へと配置換えをと、それで君の気は晴れるかな、レディ」

 皮肉めいた笑いをして、シャール様は私の手を再度取る。

「今日から俺の屋敷に来ると良い、君の荷物は少ないだろうからすぐに家臣たちが運び終わる。運が悪いな、君という人は」

「どうして……?」

「俺は……子供を欲しいとは思っていないんだ。君にはお飾りの妻になってもらうことになるだろう。君は物分かりがいいからきっと俺の意志に従ってくれるだろう。本当に君を愛して、子を成すことはできないんだ」

 シャールはベール越しに魔歯を触りながら、静かに言った。あぁ、この人は幼い頃から苦労してきたのだわ。

「家族から解放されたシンデレラは、意地悪な王子のお飾りになるってね」

 シャール様は少しだけ楽しそうに目を細めると私を馬車の中へとエスコートした。

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