ああああん。女神さまっ
リアルで多忙につき、リハビリを兼ねた一ヶ月以上ぶりの稚拙文章でございます。
生暖かい目で見て下さると幸いでございます。
そもそもの始まりはこうだ。
曾祖父の骨董趣味が高じて、何時しか実家の敷地内に無駄にでっかい蔵が建った。
まるで欲深き栗鼠の如く、頬袋にパンパンに詰め込まれたそれら骨董品は、手に入れた瞬間忽ちに興味を失う曾祖父によって、結局は半世紀以上もの年月を埃と共に過ごす事になった。
片田舎の豪農であり、塩商家として広大な土地と巨大で無尽蔵な資本を持っていた筈の”稲熊家”は、曾祖父の代でその財の大半を失った。蔵に納められた、数多の骨董品と引き替えに。
そんな無駄遣いのボケた糞野郎が、半年前に老衰で死んだ。
古い家だったせいか、ウチにはアホみたいに分家がダース単位で存在する。
揉めたね。
もうホント、大揉め。
財産の大半を失ったとはいえ、田舎には山が4つに、視界いっぱいの広大な田んぼがまだあるそうで。
まぁ、それも所詮片田舎の土地。銀座の一等地とは比べるべくもなく、坪単価なんかそれこそ二束三文。
面倒事を嫌い、相続放棄する賢明な分家も中にはいたそうで。まぁ税金とかどう考えても損だし、その判断は決して間違ってないと俺は思う。
それでも、『貰えるモンは何でも良いから寄越せ』……なんて強突く張りが、ウチの親戚には多いんだ。
だから、無駄に揉めた訳で。
で、二束三文の土地は諦め、曾祖父の集めたコレクション……蔵の中のがらくたの中に本当に”お宝”があれば良いな。と、まぁそうなる訳で。
某”なんでも○定団”とかの出張願ってみたりしたと。
結論から言えば、大半はがらくただったが、中にはお宝もあった。国宝級の奴もあったし、歴史的大発見も本当にあったらしい。
それでも当時のレートで言っても、大半がぼったくりだったのは間違い無かった訳で。所詮、学術的な知識がこれっぽっち無く、ただ単に目に付くモノを見境も無く片っ端から集めてきただけの曾祖父は、間違い無く家族泣かせのド屑だったのだから、ホント笑えない。
祖父が先に逝った稲熊家直系の俺の実家には、無駄に築年数を重ねただけの木造のボロ屋と、ほぼ空になった蔵と、相続税でほぼ完全に足が出る山と、田んぼだけが残った。
そして没落して久しい、何処にでもいる農家の跡取り(予定)となったこの俺、稲熊大地の手元には、知らぬ間に怪しくも禍々しき異国色の強い仏像(?)があった。
◇◆◇
「う~ん……」
実家での片付けを粗方終わらせ、築年数20年近いアパートに戻ってきた。
見てるとだんだん不安になってくる印度的な仏像(?)は、恐らく元々は黄金色に輝く神秘的な像だったんじゃないかなと思われる。
左右中央それぞれ三つの異なる表情を浮かべた顔があり、左右合計六本もの腕には、それぞれ剣やら槍やら独鈷杵やら戦輪やらの武器が握られている。不安感を煽るのは、首に提げられたネックレスと呼ぶには余りにも凄惨な文字通りの首飾り。首がたーくさん並んでやんの。
まぁ、簡単に言ってしまえば、色んな武器を構えたおっかない”アシュ○マン”だ。
ああ、訂正。”マン”ではなかった。
男性ではあり得ない豊か過ぎる胸肉……じゃねぇ、乳房があるから、このお方はどうやら女神様? らしい。
話は少し逸れるけれどさ、女神の事を女神って言うと、急にエロく感じね? 俺だけかなぁ…?
……話を戻すわ。
像の見た目は印度っぽいけれど、インド神話に”アシ○ラマン”みたいに頭部に顔が3つもある女神はいたっけか?
所詮俺の偏り過ぎたオタク知識なんて、女神○生で覚えた程度のにわかでしかないから断言できる訳じゃないけれど。
印度的なおっかない女神なら、例えばカーリー辺りか? 女神転○だと中盤から後半に差し掛かる辺りで結構活躍してくれる鬼神ってーか闘神だ。でもまぁ、印度神話なんて、大半が同一人物による自作自演(暴言)だし、何とも言えんかぁ……
気軽にブンドドできる様な軽い素材じゃなさそうだし(持ってて腕が痛くなってきた)、一回下ろそう。
出自が不明で、経年劣化のせいか金箔が剥げ落ち埃で煤けて、見た目が呪われるんじゃないかって思える程に怖すぎると逆に処分費用を請求された曰く付きの像が、曾祖父の形見なのかと思うと、本当に笑えてくる。
俺だって未だ開封せずに部屋の片隅に堆く積み上げられたガ○プラの塔があるから、全然人の事は言えないのだが。死蔵戦士ガ○ダム……なんちて。
それでも、家の財産を切り売りしてまでも、それこそ家族を泣かせてまでも集めたいなんて神経は解らないし、解りたくもない。趣味なんてのは、自分の小遣いの範囲内でやるもんだ。
しかも無理した挙げ句に、結局はその成果の大半が”ゴミ”ときた。
曾祖母がこの事を知ったら嘆いただろうか? それとも、それ見た事かと大笑いしただろうか……あれより先に逝った今となっては、もう解らないが。
「ま、洒落って事で引き取ってみたが…これをRGユニコー○の隣に置くってのもなぁ……」
女神像の持つ痛そうな武器の一つに、指を向けて呟く。
それが間違いだった。
鋭い痛みと共に、一気に血が出てきた。どうやら本物の刃物だった様です、本当にありがとうございました。
うええ。見た目の傷口の割には、結構深く切れてしまったらしい。血が止まらない。
慌てて指の根元を抑え、絆創膏を探す。女神像にたっぷりと血が掛かっちゃったけれど、そんなの構ってられるか。ある程度埃は拭ってはみたが長い事蔵の中にあったモノだし衛生面で考えてもかなりヤバいかも知れない。先に消毒が必要か? 色々とやらなきゃいけないだろう事柄が頭の中を駆け巡る。
瞬きの間に視界を失う程の目映い光が射したのを認識したと同時に、俺の意識は途絶えた。
◇◆◇
「これ。これ。暢気に寝ておるでないわ、目ぇ覚まぬか、タワケめ」
「うぅん……あれ……? 知ってる天井だ……」
オタクならば、何時か言ってみたい台詞。
その上位に来るであろう”例のアレ”に僅かだけ掠る言葉が思わず口から出た。うーん、惜しい。
「まだ寝ぼけておるのかや? おーい、主さまや。妾の言葉、解るかぁー?」
未だ朦朧としてはっきりしない意識のまま、俺に語りかけているであろう声のする方へと視線を向けてみる。
そこには褐色銀髪碧眼の、この世の者とは思えぬ程の美女が、俺の顔を覗き込んでいた。
もう一度真正面に目を向ける。
そこは間違い無く俺の住むアパートの天井。だから、ここは天国ではないはず。てーか、俺は天国ですらも安普請のアパート住まいしかできないとか、ホント笑えないし。
で、もう一度美女に視線を向けてみた。
まじまじと俺の顔を見つめる澄んだ碧い瞳から避ける様に、少しだけ視線を下に向ける。目を見て話すなんて、陰キャにゃ無理だからね。うん。おっぱい。なんてーか、褐色おっぱい。
はい、視界いっぱいを占有するこんな大きくて素晴らしき物体を適切に表現でき得る語彙なんて、俺の貧相な脳の中にはありません。ああそうだよ。所詮三流農大在学中(しかも一浪)の身ですからね、コンチキショー。
……いやしかし、本当にスゲー。なんてーか、スゲー。ちゃんと隠さなきゃならない所はしっかりと隠れているけれど、艶めかしき褐色のお腹とか……彼女の衣装はまるで創作物にありきたりな”踊り子”っぽい服で、露出度はめちゃ高い。
彼女の呼吸に合わせて、僅かながらも上下左右にぷるっと揺れるおっぱい。当然、俺の視線は釘付け。年齢=彼女いない歴の童貞にゃ、こんな性の暴力。あまりにも刺激が強すぎるヨネ-。思わず鼻息が荒くもなるってもんだ。
「……はぁ。後で好きなだけ揉ませてやるで、まずは起きて妾の話を聞いてくれぬかや、主さまや?」
「マジでっ?!」
思わず飛び起きる現金な俺。嫌いじゃない。
◇◆◇
「……つまりは何だ? お前さんは本当に女神様って奴なのか?」
「正確に言えば、妾は精霊の類いじゃろな。それにこの姿は、仮の物だわいな」
彼女曰く、世の人間の間で”信仰”という形で”伝承”される特異な力……”概念”によって、世界に満ちる見えないエネルギーに干渉し、意味を、形を、意思を与えるのだそうだ。
それが、精霊であり、神なのだと。
「お前ではない。妾の名は、”スジャータ”じゃというておろうが」
スジャータと言えば、あそこのコーンポタージュって、ホント美味いよね
「それは妾の名を使ぉた日本のブランドじゃろがい!」
スジャータとは、厳しい断食行で疲弊した釈迦に乳かゆを与え悟りへと導いたという娘の名だ。決してそこに転がる物騒な仏像とは一切の関連が無い、筈だ。
「まぁ、妾がその娘本人……という訳ではないがな。色々な伝承が混ざり混ざって、結局大本が良く解らんモノになったのが、妾じゃ」
……本人も自分が良く解らんらしい。自分探し、する?
民間伝承なんてモノは、結局征服した民族の王の手によって都合の良い様に改変されて組み込まれてきた訳だし、何時しか色々と違うモノへと変質してしまうのは仕方の無い話だ。日本でも大和朝廷に逆らった民族の”神様”は、”土蜘蛛”やら”まつろわぬ神”として変質したし、西洋でも”悪魔”となった訳だしな。
「ま、そんな訳で、色々な”概念”が複雑に混じってしもぉたせいで、一時期の妾ってば、思い返せば本当にヤバ過ぎる精霊での? 時の霊能力者共に、そこな邪神像に封じられたという訳じゃ」
おいおい。この人邪神って言っちゃったよ-。呪われそうな怖い見た目の像は、見た目通りだったのかい。
「で、妾の封印を解いて下さった貴方様は、正に妾の主と呼ぶに相応しき御仁。じゃから、主さまの願い、何でも一つだけ叶えてやろうぞ」
「……へぇー」
「薄っ。何じゃその薄いリアクションは。主さまよ、もしかして妾を疑ぉておるのかや?」
「いや。余りに現実離れし過ぎてて、俺の理解がおっつかん」
こんな褐色銀髪碧眼おっぱい美女に、”主”とか何とか言われて、舞い上がらない男はいないよ? でもさ、何でも一つだけ願いを叶えてやるって、流石にこんな美味すぎる話、何か裏があると思えない? 願いを叶えてすぐにお前の魂貰うぞ……みたいなハニートラップとかさ。
「妾はそんな騙し討ちみたいな事はせぬわ、タワケめ。所詮人間の寿命なんぞ、妾にとって瞬きと変わらぬのじゃからな」
「つまりは、それって……?」
「……まぁ、主さまが死んだら、魂は遠慮無く貰ぉてやるがの」
「結局俺魂失うんじゃんかっ!」
◇◆◇
スジャータには、願い事の返答をしばらく待ってもらう事にした。
一度叶えた願いは死ぬまで有効……等と言われても、死後の世界なんてあるのかどうか、死んだらそこで終わる儚き命の人間なんだから、その後が解らん以上、気軽に言える訳も無い。
でも褐色銀髪碧眼の絶世の美女が、自業誰得のオタク趣味のせいで手狭になった1LDKのアパートの一室に鎮座してるという正にこの浮世離れした光景に心弾む訳で。
おはよう。から、おやすみ。まで。
いってきます。から、ただいま。まで。
必ず、スジャータの笑顔がある。
女っ気も無く、正に”砂漠”と形容すべき潤いなぞ皆無であったこれまでの俺の童貞人生がまるで嘘の様だ。
……まだ、童貞だけどさ。
彼女は、家事全般が完璧だった。
そりゃ、彼女はあのお釈迦様に手製のおかゆを振る舞った人物の伝承を一部引き継いでいる存在なのだから、当たり前と言えば当たり前の話なのかも知れないけれど。
言葉遣いがちょっぴり婆臭いし、尊大だけれど。
半歩後ろに控え、俺を立ててくれる気立ての良さもある。
一緒にテレビを視て笑ったり、ゲームで対戦しては、激しく罵り合ったり。
二人で外出する時は、手を繋いで歩いて……
心が通いあってる。そう感じた。俺の中にある貧相な”理想のお嫁さん像”に、彼女はバッチリ当て嵌まっている訳で。
惚れてまうのは、至極当たり前に決まっとるやないけ。
『人の一生なぞ、瞬きに過ぎぬ』
そう言い切った彼女にとって、共に暮らした半年というこの時間は、本当に何でもない、それこそ瞬きの間だったのだろう。
でも、俺にとっては、彼女と共に暮らしたこの半年という時間は、人生の全てを捧げても良い。そう思える程に、穏やかで、それでいて激しき胸の内を焦がした至極の一時だった。
だから……
「スジャータ。待たせてごめん。俺の願い、ようやく決まったよ」
求愛の言葉は、飾らずに、単純であればあるほど良い。
無駄に言葉を並べては、伝わる気持ちも伝わらなくなってしまうんじゃないかなと、個人的には思う。
世の女性達は、どう思っているかは知らん。
知らんが、少なくとも俺はそう思っている。
例えそのお相手が、所謂”人外”……精霊(?)的な、現代社会の常識では到底説明のつかん、ナニか未確認的存在の様なモノであったとしても……
「スジャータ。貴女の様な美しい人に、ずっと側に居て欲しいっ!」
「……主さまよ、本当にその程度で良いのかや? それでは、今までと何ら変わらんではないか」
「それで良い。いや、それが良いんだ。俺は、貴女が……スジャータが居てくれれば、それで良い」
彼女のいない生活は、もう絶対に考えられない。
だから、俺はこれを願う。
死んだ後なんぞ、もう知るか。俺はスジャータの……彼女の全てが、欲しいんだ。
「……うむ。あいわかった。主さまのその願い、妾の全力でもって叶えてやろうぞ♡」
ほら。
単純が故に、俺の気持ちが伝わった。
俺の真剣な気持ちが伝わった。
愛って本当に素晴らしいよね。やっぱり最後に愛が勝つのさ。
愛で地球が救えると、救いきれない馬鹿が言う。
……なんて、そう思っていた時期が、俺にもありました。
でも、どうだ?
ちゃんと相手の目を見つめて、誠意を、真心を込めて愛の言葉を紡げば、必ずこの胸の奥に宿る切なき想いは伝わるんだ。
こうして、俺は恋人……いや、生涯を共に歩む最愛の嫁を、迎える事ができたんだ。
ああ。素晴らしき哉、人生っ!
「……して、主さまよ。妾の加護を希うとは、なかなかの慧眼よな。妾は闘神、破壊神の側面もあるでなぁ。主さまに敵対する全ての存在を悉く滅ぼし尽くしてくれようて♡」
……あれぇぇぇぇ? 失敗した?
単純過ぎたが故に、どうやら必要な言葉が足りなかった模様です。
これから二人で歩む長き(長いと良いな。長くなきゃマジ困る)人生の間に、必ずや、この想いを彼女へと伝えてみせる所存でございます。
誤字脱字がありましたらご指摘どうかよろしくお願いいたします。
評価、ブクマいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。