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サイハテノハテ  作者: そるとん
-序章-
9/9

-友の死-

城でテロが勃発した際、レイト・チェスター率いる騎士団は王国反乱軍の本拠地付近に足を踏み入れていた。これは王妃の命令だった。

王妃の人が変わってからというもの、国の秩序は乱れ、他国との貿易も滞り平民たちの怒りは頂点に達している。反乱軍が生まれるのも当然の事であった。

遠く続く荒地の更に奥、そこにレイトの部下が見つけた本拠地がある。今からそこに乗り込み、反乱軍を壊滅させるのが今回の任務。いつもは国からの命令は絶対で、戦争に対しては特に冷酷な一面を持つレイトだが、この時は妙に腑に落ちない気分でそわそわしていた。


「隊長、どこか具合でも悪いのですか?」


部下の1人であるバッカスが浮かない顔のレイトを見て心配するので、慌てて取り繕う。


「大丈夫だ。」


「しっかりして下さいよ。反乱軍なんて初めてで、皆緊張してるんですから」


バッカスの言う通り、今まで王国に反する者は歴史上存在もしていなかったため、同じ国の人間を処罰する任務はほぼ無いに等しい。皆その事実を信じたくもなかった。

レイトから見た王妃は誰よりも戦争を嫌う温厚な性格で、いくら反乱軍だからとはいえこの命令を下すのは不可解だった。どうしようもない不安に駆られ、思わず胸に手を当てて深呼吸をする。


国からの任務は必ず遂行する。俺は騎士だ。迷いは捨てろ。


レイトはほとんど無理矢理言い聞かせるようにして不安を拭い去り、立ち上がる。


「皆、聞け。」


部下たちはその声に背筋をピンと伸ばし、話を聞く体制に変わった。


「今から敵の本拠地を包囲する。銃撃部隊は西から北半分にかけて、魔導師部隊は東から南にかけて包囲網を張れ。俺と共に来る部隊は正面であろう北から待ち構える。大人しく投降するようであれば攻撃はするな。城へ連行し処罰する。」


「は!」


一斉に返事をした全部隊は、レイトの指示通り荒地を進む。時刻は午前2時を過ぎ、反乱軍も少数の見張りで回している時間帯で警戒を怠るだろうとされていた。全部隊が配置につく。レイトが右手を上げればそれが合図となり、銃撃部隊から牽制のための攻撃が開始されるのだが辺りは静まり返ったまま。


「隊長?」


「……待て」


何か、音が聞こえる。金属音と、呻き声。これは、まさか!


バッカスにかけられた声など気にも留めず、レイトは全部隊に「下がれ!」と叫んだ。その瞬間、本拠地からいくつもの銃声が鳴り響く。予想していた合図とは違ったためか部下の動きは一瞬鈍り、何人かはその銃弾の餌食となって倒れた。レイトの指示はなくとも全員が剣を抜き、銃を構え、魔法を唱える。しかし本拠地の中から出てきたのは、体をフラフラ揺らした足元のおぼつかない人間ばかり。武器は持っているものの、その様子からは精気を感じられない。


「止まれ!死にたいのか!」


静止の声に耳も貸さず、歩みを寄せてくる異様な人間達を力尽くで止めようと、1人の部下が斬りかかった。


「うわあああ!」


先に恐怖と痛みに悲鳴をあげたのは部下の方だ。だが相変わらず闘気の感じられない瞳は、真っ直ぐレイトだけを見ている。1人だけではなく、全員がレイトにだけ向かってくる。


「俺が狙いか。」


力強く地面を蹴り一瞬で間合いに入った。抜刀で斬りあげるが剣で受け止められてしまい相手は遠くに吹っ飛ぶ。すると弾かれるようにして周りの人間が剣を構え、レイトに突っ込んできた。進軍させまいと他の騎士が斬りかかるも返り討ちにされどんどん倒れていく。瞬く間に1人、2人、3人と戦える者が減っていく中、レイトは自分の剣を見つめ別のことを考えていた。


酷く気持ちの悪い剣の交わりだった。禍々しいオーラからは、金属音と共に悲痛な叫びが聞こえてくるようで、最悪の気分だ。あの瞳からは自らの意思が無いことが感じられる。間違いなく、操られている。

そう確信したレイトは禍々しいそのオーラを振り払いながら、再び構え戦場に突っ込んだ。


それから少しの時間が経った。レイトの部下は全員血を流して倒れており、もう命はそこに無いことが見て分かる。相手の人数は後20人程で、既に片腕を飛ばされたレイト1人で敵う量ではない。


「ここまでか」


立ち煙と血生臭いぬるい風に吐きそうになった途端、フラフラとしていた人間たちは足の力を無くしたかの様に崩れ落ち、辺りは不気味なほどの静けさに包まれた。

レイトは足に踏ん張りをきかせて立ち上がり、生死を確かめるべく近寄る。首元に手をやり脈取るが動いていなかった。死んでいる。ホッとして力の抜けたレイトの目線は、ある一点で止まった。バッカスの死体だ。

バッカスはレイトにとって部下であり、右腕であり、親友だった。時に不真面目な時はあったが、常にレイトの隣で支えとなっていた。


「……ありがとう、バッカス。」


その言葉をかき消すように大雨が降り注ぐ。地面に当たり大きな音を立てるほどの雨粒は、レイトの肩にも重く伸し掛かった。その重圧に耐えきれず膝を折り、バッカスの死体を片腕で抱きしめる。どうせ雨で聞こえない、とレイトは大声で泣いた。遠くで紫色の雷が落ちたことにも気がつかないほど。


暫くして、片腕を失い血を垂れ流しても未だ死なない丈夫な自分の体を嘲笑う。バッカスから離れ、歩き出そうと足を動かすも片腕が無い体に慣れず、よろけては何度も地面に膝をついた。


ああ、俺はもう死ぬのか。


言うことを聞かない体にやっと死を悟ったレイトは、意識を投げ出そうと目を瞑る。


「まだ、死んではなりません」


しかしその時、頭上から聞き慣れない声がして飛び起きた。修道院の服を着た緑色の髪の女性が、レイトを見下ろしている。


「誰だ?」


「私は神の使いです。お告げによるとあなたを死なせてはならないようなので、私と共に参りましょう」


「神の、使い?」


血の不足で回らない頭を必死に回転させても、女性の言葉の意味は到底理解できない。思考の間に女性はレイトの腕を止血し、慣れた手つきで包帯を巻いた。更に考える隙も与えず女性が片手を上げると、1人の男がどこからともなく現れレイトを立ち上がらせる。


「ちょっと待ってくれ!なんなんだ君たちは!」


「神の使いですよ。」


その一点張りで通され何も言えなくなるレイトは、大きくため息を吐いて諦めて身を任せることにした。

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