-騎士ごっこ-
部屋を出て階段を降りたり廊下を進んだりしているうちに食堂の近くへ辿り着いた。中からは賑やかな声が漏れている。
しかしドアを開けるとその声はピタリと止み、貴族街へ出たときのような視線がユアンへと刺さる。
歓迎はされていないことはすぐに感じ取れた。
気にしないようにしようと食堂のコックへと食事を注文し、出された物を席まで運ぼうとした。
「おい」
席についてフォークへと手をかけたとき、数人の男が囲んで話しかけてくる。
「なんですか?」
「なんですか?じゃねぇだろ!食堂にオレがいる時は挨拶するのが決まりなんだよ」
「…初めまして。これでいいか?」
適当にあしらわれたのが癪に触ったのか、1人の男が顔を歪め近づけてくる。
「言っておくが、女だからと言って容赦はしねぇぞ」
もはやユアンにとっては騎士時代を思い出し懐かしいまであるこのやり取りに、ため息をついて立ち上がった。
「喧嘩がしたいのなら他所でやってくれないか。王国の騎士なら、節度をもって行動するべきだろう」
「っ……下町の小娘が!!生意気にオレに説教か!?」
ユアンが下町から来たという噂は既に広がっていて、それをよく思わない騎士がたくさんいるようだ。沸点の低い男がユアンの胸ぐらを掴むと、周りまでもが観客の如く盛り上げようと野次を飛ばす。
「やれやれ!」
「痛い目あわせてやれよ!」
「わからせてやれー!」
好き放題言われる中ユアンの心配事は一つ、これは問題になるのだろうか。騎士時代はこういった問題が起こると団長が連帯責任といって何かしらのペナルティーを与えらえたものだ。下手に騒ぎを起こしてペナルティーでももらおうものなら、この男はただではおかない。そう思いながら静かに睨みつける。
「何が元騎士だ?途中でママが死んで逃げ出したお子ちゃまがよ!」
その無神経な発言に、一瞬頭に火花が散るような怒りが走るがユアンはまだ冷静だ。
胸ぐらを掴む手を外し、捻り上げただけなのだから。
「いでででで!」
「私はお子ちゃまで腰抜けかもしれないが、騎士ごっこをしているお前達よりはマシだ」
握力でミシミシとなる腕に焦り始めた男は、渾身の力を振り絞って反対の拳をユアンに突きつけるが、もちろん華麗に避けられた。その拍子に離された腕を抱えて蹲る。
「何が気に食わないのか知らないが、私は呼ばれて来ただけだ。文句があるなら国王陛下に謁見の申し出をしてくれ」
「っ、クソガキがああ!」
見下して言い放つユアンに、男は再度殴りかかろうとして避けられる。何度も何度も腕を振り回しては避けられ続け、ついには疲れて動けなくなった。
「もういいかな」
「待て……!まだだ!」
「おいやめとけって!あいつやべぇよ」
「本当に女かよ」
息切れ一つしていないユアンを怪奇な目で見てくる取り巻きに居心地が悪くなり、結局何も食べぬままユアンは食堂を去った。怒りと疲れで腹の虫は何も言わなくなっている。
自室に戻ろうと足を進めていると、今度は誰かが後ろをついて来ている。すぐに気がついたユアンは先ほどの取り巻き連中かと思い、呆れながら振り向いて睨みつけた。
「あ、ちょっと待って!」
後ろにいたのは眼鏡をかけた好青年。自分が怪しまれたと察して、両手を前にやり否定をしてみせる。
「何か?」
「えっと、俺はディル。……さっき、格好よかったよ。あいついつも威張ってて頭にきてたんだ」
ディルはそう言い終わると、背の後ろに隠していたサンドウィッチを取り出す。
「これ、よかったら食べてくれ。コックに貰ったから」
「君が貰ったんじゃないの?」
「いやコックが君に、って。コックも食堂で騒ぎを起こされるの嫌ってるから」
思い返して見れば、食事を受け取った時から奴らのことを睨んでいたような気がする。それを思い出し、ユアンは気が抜けて笑った。
「じゃあ頂こうかな。ありがとう」
「こちらこそありがとう!良ければまた話そうよ」
「ああ、今日は仕事もあるし今度声をかけるよ」
「ナスカ様の護衛だっけ?すごいな、いつもは竜騎士が付くくらいの御子息なのに。ユアンはそれくらい強いってことだろ?」
「買い被りすぎだ。ただ昔、騎士だったというだけだよ」
「そうか、元騎士だもんな。そりゃ強いわけだ」
納得したディルは、お互いに頑張ろうと手を振って去っていった。
「……名前、教えたか?」
自然に名前を呼ばれたものだから気がつかなかったが、ユアンは一度も名乗っていない。しかしきっとどこかで聞いたのだろうと特に深く考えはせず、ナスカの元へと歩き出す。




