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転移~旅立ち

 何処かわからない荒野の真ん中に店ごと飛ばされて一か月。


 バイク屋エグザップは今日も絶賛開店休業中。


 私はエレナ。

 日本人。女、15歳。

 名前に漢字はあるけど非公開です。

 禁則事項です。そのうち気が向いたら教えてあげる。


 両親には小さいころに死に別れて、おじいちゃんが育ててくれた。

 中年や初老のおじさま達(お客さん)に囲まれて育った結果、今時さが欠片もない女子高生が出来上がったよ。

 みんなにはバイク屋の若女将と呼ばれていたよ。


 そのおじいちゃんが急死して1週間。

 生前に店の在庫として注文していたという新車のR25が届いたその日、突如として荒野にワープしてしまった。


 お店と一緒に。


 え?R25って何かって?

 あー。ヤマハのYZF、R25だよ。今人気の250ccスポーツバイクね。うちはヤマハ系のショップだから。YSPでもなんでもないけど。80年代から祖父がやってた街のバイク屋。新車も中古車も細々と、ね。

 いやもう、何が何だかわかんなくて悲しんでる暇もないよ。誰か文句を聞いてくれよ、まぢでっ!



 乾燥した荒野だった。最初にドアを開けた時は途方に暮れた。5分くらいはドアノブを握ったまま固まっていたよ。

だって日本の都市の外れ、都会でも田舎でもないアーバンな場所に建つ、雰囲気のあるバイク屋だったのに、目の前にあるのは何処までも何もないアウトバックだったんだもん。

 あるのは乾きかけた灌木と砂のようなさらさらな土。それと荒れた道路がまっすぐに一本だけ。目の前から見慣れた景色が吹っ飛んで消えてしまったみたいに何にも無くなっていた。さっき地震があったせいで、近所の店や家が倒壊したのかとか思ったよ。そんなはずないんだけど。跡形もなく消え去るなんて有り得ない。

 いや、もちろん、うちのお店が空間転移したとか、もっと有り得ないと思ったんだけどさ。けど、信じるしかないじゃない。というか、もう理性では否定しつつも目の前の出来事に対処しようとして混乱していたというか。

 もちろんすぐにスマホで地図を確認しようとしたよ。まずね、電波が無い。だからネットに繋がらない。ネットに繋がらないからグーグルマップが使えない。まあ、それは想像してた。

けどね、何故かGPSが拾えないんだよ。スマホ故障してるのかな。古い機種だし、故障かな。故障だと思いたいな。せめてここは地球の上だと信じたいな・・・


 最初は砂漠かと思っていたけど、10キロくらい行ったところに川があった。

店から出る勇気が出たのは二日目だった。一番出しやすくて、すぐに動かせたのがマジェスティCだったから、そのままそれに乗って走りだした。

 免許?持ってないよ。乗り方は知ってるけど。でも、誰もいないし、日本であるかすら疑わしいから。緊急避難と言うやつだね。

とにかく、店の2階から見渡せる範囲には何も無かった。乾いた土地、砂と土、時々灌木。ほぼ黄土色の景色。道路はまっすぐに東西に伸びていた。あ、方位磁針が指す方角があってたのなら、だけど。

 2階にあったアウトドアの雑誌によれば、2階のベランダから見渡せる距離はおおよそ8キロ弱。西にかすかに緑っぽい景色が見えたような気がして私は確かめずにいられなくなった。店の備蓄は充分にあったけど、このままでは行き詰ってしまう。水や食料を確保するのは絶対に必要なこと。

 マジェスティCの燃料計を確かめ、充分にガソリンが残っているのを確認して走り出した。マジェスティCは言わずと知れたビックスクーターだから運転は簡単。操作自体は原付スクーターと変わらない。ただデカいだけ。私の身長だと足がつま先しか着かないけど、こんななんにもない直線道路だと、あんまり関係ない。

 道路はアスファルト舗装だった。

 ただアスファルトは相当傷んできていて、スピードを出すとバイクが跳ねて危険。40キロくらいの速度で気を付けて走る。路肩はところどころで割れてきている。路面にひびがあったり、急に小さい穴があったりする。けれど、完全に誰も通行しなくなってしまったという感じではなかった。

 ま、わかんないけど。

 荒野の感じからすると雨はあんまり降らなそうだし、年中気温が高くて一定とかなら、案外傷んでこないのかもしれない。

 8キロくらい走ると林っぽい景色が見えてきた。少し下り坂になって、そして川が見えた。川幅は30メートルくらい、けっこう大きな川だ。

太陽の光が水面にきらめいて、少し涙が出た。

道路は驚いたことに川に橋を架けて越えていた。林も道路を侵食し始めていたけれど、なんとかバイクの1台くらいは通過出来る状態だった。


水はとても綺麗だった。荒野を流れる川は泥水だと祖父に聞いていたけど、水が綺麗でおいしくてラッキーだった。

 え?いきなり飲んだのかって?

 飲んだよ。がぶ飲みはしなかったけど。毒ではなさそうだったし、たとえそうだったとしても、いずれその水が飲めなきゃ死活問題だし。まあいいかと。


 あれから1か月。


 

 今日はマジェスティCで水を調達してきた。


空のペットボトルをメットインの中に詰めるだけ詰め込む。リアシートにはポリタンク。水発見後、3日に一回、ここへ水を汲みに来てる。一回で60リットルくらいを運べる。さすがビックスクーター。おじいちゃん、中古のマジェスティを在庫してくれてありがとう。大切にエレナが使いますね。天国のおじいちゃん、見てくれてますか?いきなり日本じゃないところに飛ばされたっぽいけど、見てくれてるとうれしいな。


水は大事だ。人間は一日2リットルくらいの水分を摂取しないと生きていけないらしい。それもこの1か月で知った。祖父の店の二階は住居スペースで、大量のキャンプ用品とアウトドアの本が溢れていた。

サバイバルの知識はバイク屋の二階で学んだよ。

飲料、料理用の他に顔を洗ったりお風呂に使ったりしてるので、三日で水が無くなるという・・・

マジェスティCの他にも新車のR25以外に、おじいちゃんの愛車BMWのR100RSや、私のバイク、ホンダのJAZZ(おじいちゃんが練習用に用意してくれた宝物なんだよ)、店の在庫のCBRのスーパーブラックバードを含めて10数台。

 ガソリンは店の地下に備蓄があって、当面は大丈夫。もちろん無駄遣いは出来ないけど。不思議なことに地下の燃料タンクは店と一緒に転移してきたらしい。助かったけど。

 食料は災害用の非常食や、インスタント麺を食べていたんだけど、アウトドア本を読んで狩りに出かけた。で、うさぎを見つけたんだけど、捕まえられず・・・水を汲んでる川で釣りをして、なんとか。あとは川辺の木に食べられそうな木の実があって、それもマジェスティCで大量に運んだ。2階の本や図鑑で調べたけれど木の実の名前はわからなかった。赤い実でリンゴの半分くらいの大きさ。食感はトマトっぽいけど、味はバナナっぽい。まあ不味くは無い。

 電気は屋根の上に太陽光発電パネルがあって昼間は問題なく使えてる。問題は夜で、バイクの廃バッテリを利用した蓄電システムなるものを祖父が手作りしていたのだけど、部屋の電器をつけるので精いっぱい。オール電化のキッチンで料理なんかしてると途中で電気が無くなってしまう。なので料理は昼間にまとめて。どうせネットも繋がらないし、大量にあるサバイバル本とかバイク雑誌とかを読むくらいでやることもない。


 なんとか生活してはいる。

 カラ元気なのもわかってる。これからどうしたらいい?

不安過ぎて目を背けたくなる。今は川の水と木の実と運良く釣れる魚でなんとか生きていける。でも、その先はわからない。

 ネットもない。世界について何も情報がない。この世界が何処で、川の向こうには何があるのか。地図さえないこの世界に。

調べるなら今のうちだ。

季節があるのかわからないけど、木の実だって1年中実ってくれないだろう。マジェスティだってガソリンが無くなれば動かないわけだし。



 だから、私は旅に出ることにした。

1か月、店に訪ねてくるものはいなかった。店にいる時はシャッター開けて営業中の札も出していたのに、だよ。

というか、私の知る限り、この道を通るものさえいなかった。自動車やバイク、自転車も、歩行者も、リアカーも、インラインスケーターも、猫さえ通りかからなかった。

待っていても、ここには誰もやって来ない。

お客は自分で見つけるもの、とおじいちゃんも言っていた。

だから、私は旅に出る。


 調査旅行だよ。


誰か人間に会いたい。


物資補給とか、とにかく何かを見つけないと長くは生きていけない予感がする。


それに?さみしくて死んじゃうかも?


 まずは5日間くらいの旅だ。


 店の前には荒野を貫く一本の道がある。マジェスティで走ったのは店から西に10キロくらい、東が30キロくらい。西に10キロくらいのところに川と緑が少し。東に30キロくらいのところに丘程度の森があった。そこにはウサギがいた。

 捕まえられなかったけど。


 あとは荒野が広がるばかり。原野ですらないよ。荒野だよ、荒野。乾いた砂の世界だよ。川があって良かったよ、本当に。なかったら、たぶん、もう死んでた。


とにかく世界を知りたい。ここは何処で、私はどうしたらいいのか、それを探す旅だ。

道がある、ということは文明があるということだ。そう信じたい。道路はアスファルトに似たもので舗装されていた。

アスファルトだと思う。たぶん。

簡易舗装で傷みも出ているし、所々は穴ぼこが開いていたりはするけれど、舗装されているなら車輪のある乗り物があるはず。この目の前の道路にも、かつては通行していたんだと思う。

それならば、きっと・・・



 旅に出るなら用意は万端に。


 日本でさえ一人で遠出したことなんか無かったのだけど、2階には大量のキャンプ本とかツーリング雑誌とかサバイバル教本があったので、それを参考にする。


 荷物がたくさん載るし、楽だからマジェスティで行こうかと思っていたのだけど、道路が荒れていて、車高の低いマジェスティはメインスタンドをガリガリと地面に擦ってしまうことが多く、さっき確認したらエンジンの下側にダメージを発見した。今すぐ壊れるわけではないけど、一応舗装のある道路でさえこんな状態なので、遠く離れた場所で何か起きたら怖いかも。


 おじいちゃんのBMWは重すぎるし、同じ理由でスーパーブラックバードも却下かな。


 スーパーカブ・・・ま、確かにこれは最強かもしれない。日本を走っても実燃費でリッター50キロ以上の実力に加え、やたらと頑丈な作り。

 燃費は50キロ以上だから、往復1000キロくらいを走るつもりでも20リットルのガソリンを持っていくだけで済む。

20リットル携行缶といっても、小さいサイズのスーツケース並みの大きさがあるのだ。マジェスティで同じ距離を走るには40リットルは必要になってしまう。リアシートに積んだらさすがにバランス悪そうだ。

スーパーカブの問題はスピードが出ないことだけど、道路が荒れすぎていて、むしろスピードを出したら危ない。40キロくらいで走るのならスーパーカブでも充分。



 ただ・・・


 うちの在庫のスーパーカブはポンコツなんだよな。

 おじいちゃんが売り物にするために半分ばらしちゃった状態・・・もっと言えば、整備しなきゃならないほど傷んでいたとも言う・・・たぶんメーターは3回転くらいしてるんじゃないかな・・・


 あーいい案だと思ったのに。

 他にスーパーカブの在庫無かったかな・・・


 と、店内を見渡していたら、私のJAZZが目に入った。

 おじいちゃんが私のためにきっちり整備をしてくれたホンダJAZZ。50ccだけど、正統派チョッパースタイルのアメリカンバイク。3/4スケールのハーレーダビットソン。

 私が初めて乗ったバイクで、内緒で近所を走っていたバイク。

 実はエンジンはスーパーカブ由来のものだし、燃費も同等だ。原付にしては大きめの車体は長距離でも疲れにくいかも。車体も軽いし、構造もシンプル。修理の練習もこれでしたし・・・

 むしろ、これで行かなくて何で行く?的な?


 あらためてJAZZを眺めてみる。私のJAZZはフラットバーハンドルタイプがベース。ウインカーの位置をずらして、左右に手作りの大型の木製サイドケースが取り付けてある。これは荷物を積むことを考えたというよりも、私が練習で倒してしまってもバイクが傷まないように、だ。今となってはとっても有難い。

 エンジン前方には鉄板でフレーム補強されている。排気管のガードの役目がある。それから電装は12V化済。JAZZのオリジナルは6V電装なのだけど、現在の事情だとパーツを探すのが面倒になってきているからだとか。これで配線から電源をとってUSB充電器が使える。まるで荒野を旅するための仕様みたいだ。

 おじいちゃん、孫娘がこんなことになることを予見していたのか?まじすげー。とか一瞬思った。

 右のサイドケース、傷あり。左のケース、うん、こっちも傷あり。両側倒したね、うん。記憶ある。いや、倒すよ。いくらJAZZが普通のバイクの半分くらいしか重さがないとはいえ。だって小学生だったもん、初めて乗ったのは。


 うん。バイクは決まった。


 次は持ち物だ。


 サバイバル本によれば、絶対必要で、まず最初に用意すべきものがあるらしい。


 ナイフだ。

 サバイバルナイフが1本あれば料理も出来るし、道具を作ることも、狩りも出来るし、万が一の時には身を守る護身具にもなるらしい。


 そうか。

 ナイフか!


 確かおじいちゃんの部屋に何本かあった気がする。後で見てこよう。


 それとテント。寝袋。LEDのライトと応急手当セット。

 ガソリン携行缶。水が10リットルくらい。食料も5日分。それとガスストーブ。ストーブっていうのは調理用のガスコンロね。携帯用のコンパクトなやつ。アルミ鍋。コップ。


 かなりの荷物だな。ガソリン携行缶が大きい。これをシートの後ろに立てて、そこにテントと寝袋を縛り付ける。両サイドバッグにはインスタント食品。ガスストーブやコップも入れていく。

 

 出来上がったバイクは荷物てんこ盛りだった。

 後ろから見るとタイヤの付いた荷物だった。


 JAZZに跨ってみる。気合を入れてバイクを立てる。スタンドを払う。うん、知ってるJAZZの重さじゃない・・・ガソリンだけでも相当重いからね。その上、飲料水が15リットルくらい。もうそれだけでかなりの重量だった・・・。たぶん荷物が50キロくらいあるね。たぶんライダーの私より荷物の方が重いね。


 ガラス戸を開ける。

 傾きかけた日がくたびれたアスファルトを揺らしていた。今日も暑かったね。店の中はエアコン効いてるから涼しいけど。

 店から出してエンジンを掛けてみる。

 JAZZのスタートはキックペダルのみ。スタンドを立てて、キックを踏み下ろす。それほど重いキックでは無いけど、踏み外すとめちゃくちゃ痛いから慎重に・・・

 スーパーカブのそれより少しだけ低い単気筒の排気音。うん、いい調子だ。


 ライダー含めて100キロ強。それでもJAZZは普通に走った。

 まあ、考えてみたらそうだよね。太った人が乗っても普通に動くように出来てるはずだし、スーパーカブなら、そこに荷物だって載せるんだろうし。なんならリアカーとか曳いちゃうかもしれないもんね。うん、走れる、走れる。

 これなら旅に出られそうだ。

 今夜は早く寝よう。出来るだけ朝早く出掛けて、暗くなる前にキャンプの用意をしなくちゃ。あ、テントの建て方、覚えとかなきゃ。



 目が覚めた時、まだ外は暗かった。

 荷物はバイクに積んである。あとは出かけるだけだ。眠たい目をこすり、顔を洗った。

 うん、なんか気分いい。

部屋の時計を見上げる。

9時を指していた。

だいぶ前から気付いてはいたけど、どうやら一日は24時間ではないらしい。おおよそ25時間くらいっぽくて、時計の類はほとんど意味がなくなっている。あえて使い道があるとすれば、ストップウォッチ機能で昼間の時間を計っておくことかな。そうすれば日没までの時間がわかるし。

でも問題は・・・・ここが地球の上ではないということだ。

少なくとも21世紀の地球じゃない。なんかの本で読んだけど、何億年後かの地球の1日は25時間くらいになっているみたいなこと書いてあった。

タイムスリップか・・・

異世界か・・・

モンスターとか出てきたらどうしよう・・・

ドラゴンとかが空飛んで追いかけてきたら逃げ切れるのかな・・・


頭を振って忘れることにした。

太陽の位置でなんとなく日没までの時間はわかるし。うん、うん。そうだそうだ。

コンパス(方位磁石)とノート、それとボールペン。道路が分岐した時や走行距離、方角をメモするのだ。首からコンパスを下げる。バイクは鉄の部品が多くてハンドルとかに取り付けても正しい方向はわからないからね。

ところで、異世界だけど方位磁石は使えるんだろうか・・・


防水のジャケットを羽織る。普通のコートに見えるデザインだけどバイク専用ジャケットだ。色もベージュっぽいナチュラルな色。ヘルメットはジェットタイプをチョイスした。異世界っぽいから要らないかも、と思ったけど今時のヘルメットは通気性も高いから、むしろ被っていたほうが日射病対策的にも、日焼け対策的にも、シールドで風から顔を守ることで疲労対策的にも効果が高い。

 一日走り続けるかもしれないから、ここはあえて被っていくことにした。

 グローブはワークマンで買ったやつ。本当は作業手袋。背抜きになっていて涼しいから。下はジーンズ、靴はアウトドア用のスニーカー。道路から降りて歩くことも多いだろうから。


 店のシャッターを開けた。

 東から太陽が昇ってくる。空は一面の雲。雨が降りそうな程ではない。黒い雲に朝焼けがオレンジに染め上げていく。何も遮る物の無い荒野に、大空いっぱいの感動が広がっていく。黒、グレー、オレンジ、赤、ブルー・・・地平線が360度で見渡せる世界。視界の下半分は荒野で、上半分はアートを纏った空だ。夜明け直前の朝焼けが空一面を染め上げていく。


 ああ、私は一人ぼっちだ。


 あまりに壮大な景色にしばらく立ち尽くす。詩人になれそうだ。


 JAZZを店の外へ引っ張り出して戸締りをする。その間に東から太陽が昇り始めた。

 エンジンをかける。一気にキックペダルを踏み下ろす。軽快な単気筒エンジンが目覚めた。音の無かった世界にJAZZがビートを刻み始めた。

 チョークを戻し、アクセルを軽くあおる。手を離し、しばらく待つ。


 1速へ。ペダルを踏み下ろすと、コトンという衝撃とともにギアが入る。そうっとクラッチを放しながら、ゆっくりとアクセルを回す。JAZZはゆっくりと動き始めた。

 砂を踏む音。

 店の敷地から道路へ上がる。道路は周りの土地より少しだけ高い。

 薄暗いアスファルトを慎重に走り出す。

 クラッチを切り2速。続いて3速。

 スピードは40キロ。エンジン音だけが聞こえる。薄暗く黒い道路、灌木、そして光輝き始めた空。

 4速、トップギア。40キロを少し超えたあたりで巡航する。

 

 体を吹き抜けていく夜の名残。

 朝の冷たい空気と湿った風が指先から冷やしていく。


 ドォルゥルゥルー・・・軽い乾いた排気音が沈黙と暗闇に満たされた世界を目覚めさせていく。地平線にいくつものオレンジ色の光の柱が立ち上る。紫色の雲の切れ目から太陽の光が差し込み天使の階段が下りてくる。


 異世界だね。

 

 いや、きっと地球の何処かにも、これに似た景色はあるのだと思う。

 二階にあったアウトドア雑誌にも、北海道ツーリングの写真や、オーストラリアの荒野の夜明けなんかがあった。

 でも、そういうんじゃない。

 

 私の知っている世界の夜明けじゃない。

 地平線に向かってまっすぐに進んでいく。

 トップギアに入れたまま、聞こえるのはJAZZの乾いたエンジン音だけだ。


 これから何が起きるのかわからない不安。

 何かが見つかる期待。

 見たこともない景色。

 明けていく空。


 まだ走り始めたばかりだけれど心は踊っている。


 何処までも走り続けて行くよ。

 きっと誰かに出会えるよ。

 

 きっとそれは素敵な出会いになるはずだよ。

今のところ、不定期更新ということしておきます。


ちょっと時間に余裕が無いのですが、出来るだけ頑張って続きを書きたいと思います。


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