回想と期待
俺は黒崎創真。地元の大学に通いながらバイトをする日々を送るどこにでもいる大学生。
器用貧乏で、色んなものに平均以上の結果を出すことが出来るのが俺の長所だと思っている。中学のテニス部では地区優勝を何度か経験している。けど、県大会になると勝ち上がれない。そんな感じで、広く浅くな才能を持っている。
高校には部活の推薦で入学。特にスポーツに力を入れていて、全国的に有名な部活もあるいわゆる強豪校に、地元で近かったことと、偏差値が高くはないことが理由で選んだ。テストはノートを丸暗記すれば平均80点は固いから、別段苦労することなく好成績を残した。
授業聞かなくてもノートとってればいいじゃんということに気がついてからはとにかく授業中の暇つぶしに精を出した。
ルービックキューブから始まり、マジック、ユニット折り紙、ミサンガ作り、絵描き、謎解きなど、あらゆるものに手を出しては習得していった。元々の器用さと集中力がこんな形で生かされるとは思っても見なかったけど。大学は学業推薦で試験をパス。昨日まで普通の生活を送っていた。
俺の紹介はここまでにしておいて、今はこれからどうするかを考えるべきだな。
「新一年生の皆さん、入学おめでとうございます。」
母校の小学校の入学式に、入学生として座らされている俺は校長の話を聞き流しながら今後のことについて思考を巡らせていた。
(19歳の俺のままでいけば確実に怪しまれるだろうしな...)
目立って頭がいいわけではないけど、小学校低学年の内容を考えれば神童として騒がれるかもしれない。折角の機会なんだからエリートとしてもてはやされたいという気持ちもなくは無いけど、実際俺より頭の良い小学生はいる。
10歳で漢検1級合格する子とか、算数オリンピックなるもので小学生の子達が凌ぎを削るイベントもある。ある分野に絞れば神童は意外とゴロゴロいるわけだ。バイトもしてるから、大人の対応とか言葉遣いとかそういうので負けるつもりはないけど、それで勝っても怪しまれるだけだ。
それに、マスコミとかが嫌いだというのが大きな理由だ。テレビでは無神経な質問なんかを平然と遺族に投げつけているシーンをよく見る。仕事にしたってよくやるなと思う。なので、目立った行動は控えるようにしよう。面倒事に巻き込まれたくないからな。
ここまで考えがまとまり、校長の話の長さはピカピカの新一年生にも容赦ないなと益体のないことを思いながら、今更ながら大切なことを失念していることに気付いた。
メガネの少年探偵とは違って時間自体が戻っているんだから、クラスメイトとか先生とか、当時付き合ってたあの子とか全部記憶にある通りになるのか?それ予知能力も同然じゃん!最高かよ!
と1人入学式そっちのけで感動に浸っていた俺は、入学生起立のタイミングで1人だけ座っていたため、赤っ恥をかいた。