表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

06 桜が咲くころ(四)


 結局、その日、居残り練習は、十九時過ぎまで続き──。



 帰り道、二人は駅までの道を、一緒に歩いた。




 まだ少し冷たい四月の風が、練習終わりで熱を帯びた二人の身体を優しく冷やす。


 生来無口な一二三ひふみと、生来おしゃべりだが、緊張で口を利けない八重やえ

 当然の如く、会話は途切れがちになる。




 そんな中、一二三がぽつりと呟いた。

 

「しかし、朝霧さん、すごいね」

 八重は、え? という感じで一二三を見上げた。


「こう言うと失礼かもしれないけど、まさか朝霧さんが、一週間後も部員として残っているとは思わなかったよ。だって、いかにも今時の、キラキラした女子高生! って感じなんだもん。スカートも短いし、お化粧もして、お洒落にしているし」


 そう言う一二三の制服は、校則どおりの着こなしで。一切の化粧をしていなかった。


 一二三を見上げる八重の目には、一二三の“素の美しさ”が眼も眩くらむようなまばゆいものに思えて仕方が無かった。

 と、同時に着飾らなければ、輝けない自分を強く恥じ入り、八重は言葉を返すことが出来ないでいた。



 その後、会話が盛り上がることもなく、駅に着き……二人は別々の電車を待つことになった。


 すぐに八重の方面の電車が来たが、それには乗らず、八重は一二三の電車が来るのを待つことにした。

 

「別にそんなことしなくていいよ。昔のスポ根漫画じゃないんだから」

 そう言って一二三は笑ったが、八重はどうしても、一二三を見送りたかった。


 やがて一二三の方面の電車がやって来て、乗り込む彼女に、八重は深々と頭を下げた。

「お疲れ様でした! 今日はありがとうございました!」


 一二三が苦笑しながら、言葉を返す。

「朝霧さんも、おつかれさま。また明日ね」

 そう言って、一二三は小さく手を振った。


 反射的に、八重も右手で、手を振り返す。

 左手で右胸のポケットの部分を、ギュッと握りしめながら……。



 憧れの先輩が、徐々に遠ざかり、小さくなっていく様を、八重はなんとも言えない感情で、いつまでも見送り続けた。



 

 翌日から、八重はスカートを校則どおりに長く戻し、髪も黒くし、化粧もやめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ