03 桜が咲くころ(一)
──四月十五日(月)
今年の女子レス部への入部希望者は、五十五人だった。
その中に雫石一二三の目を惹く、一人の女の子がいた。
──朝霧八重という女子だ。
特別、痩せても太ってもいないが、女子レス部への入部希望者にしては、線の細い、小柄な子だった。
クリクリとした大きな瞳が印象的で、芸能人のようなキラキラとしたオーラを放っている。
一二三はその新入生を見たとき、可愛い子だな、と思うと同時に、こんなオンナノコ、オンナノコした子が女子レス部でやっていけるのだろうか? という素朴な疑問が頭に浮かんだ。
だが、自分の目が節穴であったことに気づくのに、そう時間は掛らなかった。
──時間は遡り、四月七日(月) 入学式。
聖なろう学園の白く輝く校舎を背景に、さくら色の花びらたちが、鮮やかに宙を舞っていた。
多くの新入生がそうであるように、八重は期待と緊張に胸を膨らませ、この日を迎えた。
そして、運命は訪れた。
入学式が滞りなく終わり、新入生は各自、既に割り振り済みの教室へと、移動の最中であった。
八重が一人で教室を探しながら、廊下を歩いていると、前方に人だかりが見えた。
その人だかりの中央には、明らかに人目を引く、背の高いモデルのような美人がいる。
彼女は周囲に“美のオーラ”としか表現のしようがない、圧倒的な美しさを振り撒いて、輝いていた。
彼女を一目みた瞬間、八重の身体に電流が流れ──。
「綺麗……」
素直な言葉が、漏れていた。
八重はこの女性を一目見て、憧れた。
この人のことが知りたい。この人と話したい。この人と仲良くなりたい。そんな気持ちが泉のように心の奥から滾々と溢れ出てきて、止まらなかった。
その後、八重がその女性の名前やプロフィールを知るのに、さして苦労はしなかった。なんせ、取り巻きが出来るほどの、学園随一の有名人だったのだから。
気が付けは、八重は女子レス部への入部届けを出していた。
やったことはおろか、どんな競技なのかすら、よく知らないというのに……。
そして、女子レス部に飛び込んだ八重が、そこで見たものは……一二三の意外な一面だった。