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魔法剣士少女とサイボーグお兄さんの便利屋稼業  作者: 大槻亮
1ロマンのかけらもない魔法
3/3

03 サイボーグお兄さんとマフィア

 目覚めるとロボットのクーはそこにはおらず、手術台の上にはグレーの襟付きシャツとベージュの細身のパンツが畳んで置いてあった。そしてその上には、俺のものではないスマートフォンも。


「おい、これは俺のなのか?」


 起き上がりつつ、近くの部屋で何かをガチャガチャいじっているクーに呼びかけた。


「そうよー。シアちゃんが今朝早く、ヒジリしゃんにって持ってきてくれたんよー」


 とりあえず着てみる。サイズはぴったりだ。しかし、首に違和感がある。触ってみると、首の根元付近に金属の感触がある。しかも一周している。


「ここって鏡とかねえのかー?」

「そげんもん、なかよー。ロボットには必要なかけんね!」


 まあそりゃそうだ。機械いじりが終わったのか、クーがこっちに出てきた。今気づいたが、クーの脚の裏にはキャスターがついているようで、二足歩行ではなく床を滑るように移動している。


「ああ、首んとこば気になるったいね。そこは生身と機械の接合部やけん、そげんなるんよ。チョーカーばしとうみたいでかっこよかよ?」

「ここだけ金属丸出しって、かっこ悪くねえか?」

「今から樹脂ばつけたら、どげんしてもしゃんとせんけん、そのままのほうがよか。それに、その部分だけ劣化も早うなるとよ」


 なるほど、合理的な理由があったわけか。


「あと、そのスマホはヒジリしゃんのもんばい。そこには、とりあえずシアちゃんの連絡先があるけん、電話してみんしゃい」


 今さらだが、このロボットいい奴だな。声も柔和だし、表情も簡単とはいえ豊かで、よく笑顔を表示させている。仕事とはいえ俺にも優しくしてくれるし。


「ありがとな」

「いやー、こっちも貴重な手術ばできたけん、嬉しかったばい。それにしてもヒジリしゃん、あんた口は悪かばってん、いい人やね。シアちゃんもやけんど、なーんで殺伐とした仕事ばしよんね?」


 他人から「いい人」なんて評価を受けたのは初めてだった。


「ま、俺の場合は他にできることがなかったから、かな。お前だって、医療ロボットとして作られたんだから医療以外のことはできねえだろ?」

「言われてみれば、そげんたいね」


 クーはそれで納得してくれた。殺し屋としての生き方がダメだとかどうとかは、言ってこない。それはロボットだからなのかもしれないが。


「シアはどこに行ったんだ?」

「多分、家ばい。ヒジリしゃんもそこへ住まわせちゃるち、言うとったよ。よかったね、自分で家ば借りんでよかよ」


 ロボット的にはそんなメリットしか思い浮かばないようだが、それはちょっとまずいんじゃねえかな。相手は10代の女の子なんだし。


「世話になったな、クー。とりあえず連絡して帰ってみるわ」

「気をつけんしゃいよ、出口はあっちやけんね。ここ地下やけん、階段ばずーっと上がっていったら地上に出るばい。こまめにメンテばしに来んねー」


 クーは笑顔で手を振ってくれた。

 俺はようやく、真っ白で配線と配管に覆われた、奇妙な地下病院から出ることができた。



 とりあえずスマートフォンを使ってみる。一件だけ登録された番号に電話をかけた。


『やあ、やっと病院から出たようだね』


 相変わらず、年齢にも声にも似合わない口調だ。


「ああ。今から帰るから、家の場所教えろよ」

『クーのところを出たばかりなら、東門街だろう? うちはそこから見える神社の反対側だよ。ライブハウスの隣に大きなマンションがあるから、そこの65階だ』

「あーあーあー、お前、あのマンションに住んでんのかよ。通ったことあるわ」


 この街は、ビルとビルの隙間に細い道路があり、ビル同士も連絡通路で、まるでクモの巣のように立体的につながっており、そのビルからは看板などが突き出して、さらにその隙間をホログラム広告やホログラム標識が埋めている。

 空も、それらの隙間からしか見ることはできないが、生畑(いくはた)神社の上だけは、空を切り取るものがない。

 その西側にあるライブハウスは、神部で一番有名なところだ。いろいろあったが、100年以上も存在しつづけている。そしてその隣にあるマンションは、まだ新しいが手頃な値段らしく、人気だ。

 シアの奴、あの歳で分譲マンションに一人暮らしとはな。



 さて、場所も分かったことだし出発、と歩き出すと、正面から黒いスーツの男が2人、怒号をあげながら走ってきた。通行人を押しのけて、全力で来る。

 まさか俺か? しかし見たことない奴らだな。

 とりあえず、反対方向になるが坂を上がっていく。

 走っていて気づいたが、普段よりめちゃくちゃ速い。しかも坂道なのに疲れない。後ろを振り返ってみるとかなり引き離していた。


 これは、もしかしたら……。

 そう思って、試しに坂道を全力で下って、右側の男にそのまま飛び蹴りしてみた。

 すると、普段では考えられないことだが、男は吹っ飛んで坂を転がり落ちていった。

 呆然とする左の男を両腕で思い切り突き飛ばしてみた。

 男は車道を挟んで反対側にある店の壁に激突した。


 こうなったら、もう怖くない。そのまま坂を走り下りていると、細い脇道から黒い車が飛び出してきた。助手席に、ピストルをこっちに向けた奴がいた。

 俺は、路上駐輪されていた大型バイクを片手で持ち上げ、フロントに投げつけた。

 ガラスはもちろん、ボンネットもルーフもめちゃくちゃだ。俺はその車のトランクを手でこじ開けた。


「おっ、いいもん発見。つーか、常にカチコミの準備してんのか、この組は」


 トランクで発見したのは、サブマシンガンとグレネード2つ。借りていこう。マガジンもついでにもらっていこう。

 シアに電話してみよう。こいつらのことも知ってるかもしれないし。


「よう、なんか知らねえ奴らにいきなり襲われてるんだけど」

『ふむ、それは多分青龍会の奴らだろう。北口を殺されて、君を恨んでいるのさ』

「ああ? じゃあお前のミスの後片付けじゃねえか。こっち来いよ、家からもこの騒ぎ、見えてんじゃねえの?」

『無理だ、今手が離せん。それくらい、君一人でなんとかなるだろう』


 電話は切れた。

 いやいや、一人でなんとかなるかどうか、せめて現場を見て判断してもらいたいもんだが、どっちにしろ協力は望めない。なんとかするしかない。


 ちょうどよく、坂道の上からさっきと同じ車種の車が下ってきた。俺が手を振ってみると、スピードを上げた。

 俺はその車に向かって走り、真横を通り過ぎる瞬間に体を捻りながら跳んで、車の屋根の上に着地した。

 そして、屋根の上からフロントを覗き込むようにして、両手の拳でガラスをたたき割ってみた。


「ひゃああああ!」


 運転席の男は悲鳴を上げ、混乱してブレーキを踏んだ。

 俺はそのまま、フロントから助手席へ滑り込んだ。


「お前、青龍会のもんか?」

「は、はぃい」


 パニックで無関係を装うこともできなくなったようだ。


「じゃあ、事務所まで案内しな。そしたら、殺さないでおいてやるよ」


 男はタイヤを鳴らして急ハンドルを切り、鯉水筋のほうを上がっていった。

 俺が何をしに行くのか訊く余裕もないようで、それはありがたいが、こいつはマフィアには向いてないな、と思った。


 男は坂の途中で車を止めて、ここです、と叫ぶように言った。

 なんと今どき珍しい、金看板掲げた自社ビルだ。この街は警察が機能していないから、全然取り締まれていない。


「よし、ありがとな。お前はできるだけ逃げろよ」

「に、逃げるって……」

「この場からも、マフィアからもさ」


 俺はそれだけ言って車を出た。

 持ち物はサブマシンガンとグレネード。マシンガン持ってるとはいえ、わざわざ正面から行くのも面倒だ。


 向かい側のビルの非常階段に侵入し、ちょうど青龍会側の窓と同じ高さの段に立った。

 グレネードのピンを抜いて、大きく振りかぶって投げ込む。


「おじゃまします!」


 俺がそう呟くのと爆発は同時だった。

 当然、ビル内は大騒ぎになっていて、何人かはビルの外に飛び出してきていた。

 しかし最近の建物は、グレネード1発では吹き飛ばない。2個目はついでに、最上階の窓に投げ込んだ。

 俺は非常階段から飛び降り、外階段で降りてくる奴らを乱れ撃ちにした。


「よーし、帰ろう」


 銃をその場に捨てて、走ってシアのいるマンションまで帰った。やっぱり疲れなかったし、なんなら車より速かった。



「早かったな」


 シアは、家にいた。その額には、VRゴーグルがついていた。


「手が離せねえって、一体何してやがったんだよ」

「鍛錬さ」

「VRでできる鍛錬なんかあるか! つーか、何のか知らねえけど練習なんか時間ずらせばいいだろうが。人が命かけて戦ってるときに――」

「かけていたのかね? 命」


 さも意外そうに言う。


「いや別に命がけってほどじゃなかったけどな、俺にとっては」

「そうだろうとも。サイボーグ化による人体の性能向上は生半可なものではないからね。今日はそれを君に実感してもらうため、敢えて一人でやってもらったのだよ」


 めんどくさいからゲームを優先したに決まっているが、これ以上水掛け論をしても楽しくないのでやめた。


「つーかよ、俺って公式に死んだことになってんだろ? なんでいきなりバレてんだよ」

「ああ、それは私が教えたからだよ」


 は? なんて言った? このガキ。


「任務失敗で殺されない見返りに、犯人が翌日、東門街に現れるという情報を、昨日のうちに流しておいたんだ。そうしたら、君は暴れて、事務所を壊滅させるまでやると思ってね」


 つまりこいつは、俺の体も俺自身も、簡単に売る女だ、ということだ。


「全部計算通りさ。ふふん」

「このガキ……」


 だが、俺は殴り掛かったりはしない。紳士的だからではなく、殴ろうとしてもムダだからだ。

 俺のその判断すら、シアは満足げに見下して笑っている。いつか一発殴ってやる。

 今はそれより気になることがある。


「……そのゲーム、俺もやりたい」

「うむ。そう言うと思って、君用のゴーグルとコントローラーもすでに購入済さ」


 シアは満面の笑みで、ゴーグルとコントローラーを手渡してきた。







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