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ヒロインではなく、隣の親友です  作者: 月島ミサト
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7話 ローエンお兄様



「いい調子ですね。あとはそこを縫えば終わりです」

「……ふぅ。ありがとうございます、ファンティーヌ先生」



刺繍糸を切り、出来上がったハンカチを改めて見る。

ファンティーヌ先生に教わりながら、ちくちくと刺繍を縫い付けていたそれは、今までのものから比べるとマシな出来上がりだ。



「ローエングリン卿もお喜びになるでしょう」

「そうだといいのですが」



前世の記憶を取り戻してから、私に勉強を教えてくださるように家庭教師をお父様にお願いしてやってきたのが子爵家の令嬢ファンティーヌ・レンダスターだった。

ゲームの中では出てこなかったが、この数週間勉強を教わったことでわかったことはファンティーヌお嬢様は、とてつもなく人格者で優しい人だということ。

教えることがとても上手で、褒め伸ばしが私にあっているのかとても楽しく学ばせてもらっている。

私が一番苦手である刺繍も先生の力でどうにか何を縫われているのかわかる程度に成長した程だ。



「大丈夫ですよ。妹から贈り物をされるというのはとても嬉しい事ですから」



私の不安を他所に優しくそういってくれたファンティーヌ先生の言葉に背中をおされる形で

玄関ホールまでお見送りをした後そのままローエンお兄様の部屋までやってきた。



「ローエンお兄様、渡したいものがあるのですが今良いですか?」

「ああ。入れ」



短くもよく通る声の返答が聞こえて、一呼吸をした後に入らせてもらう。

ローエンお兄様は、本を読んでいたようだがすぐに本を閉じた後こちらへ歩みよる。



「リリ、渡したいものとはなんだ?」

「えっと……」



勇気が出ず、しどろもどろになる私の様子に眉を寄せるローエンお兄様。

ファンティーヌ先生が脳内で頑張れーと言っている映像が流れ、私は勇気をだして勢いよくハンカチを差し出す。


「……これは?」


差し出したハンカチをローエンお兄様は、凝視する。

そう渡したハンカチは、先ほど私がファンティーヌ先生に教わりながら刺繍したハンカチだ。

我がヴォワトール家の家紋とローエンお兄様の好きな剣をデザインしたものなのだが、正直へたくそだ。

だが、これでも幾分上手くなったもので最初はもう何を書いているの変わらないし、指は刺しまくるわで壊滅的だった。

それをどうにかまだ何が縫われているかわかる程度まで成長できたのはファンティーヌ先生のお陰だ。



「我がヴォワトール家の家紋と剣を私が刺繍してみたんです……」

「どうしてそれを俺に?」

「もうすぐデビュタントでしょう? それのお祝いで何か贈りたいと思って」



そうお金で買えるものは私が買っても意味ないと思い、自分でお祝いしたいと思って縫ってみたのだ。

ローエンお兄様は、暫くじっとハンカチを見つめた後懐へと入れてくれた。



「……大切にする」



普段は、まっすぐなローエンお兄様の口元が狐を描いた気がした。




……




「普段あまりお話ししてくれないけれど、きっと喜んでくれたんだと思うの」

「にゃぁん」



あの後、デビュタントの準備に忙しいローエンお兄様の部屋を後にした私は、

フェリクスを連れて中庭にある大きな樫の木の根元に座っていた。


「ローエンお兄様は、無口だけど本当は兄弟の中でもいちばんやさしいと思うのよね」

「にゃん」

「ふふ、フェリクスもそう思うでしょう?」



前世の記憶を思い出す前の私は、ローエンお兄様が無口で表情も硬いため少しわからなくて怖かった。

けれど、前世の記憶を取り戻した後はなんだかんだローエンお兄様の優しさに気づくことが増えていった。

何処かに出かけるといつも私たち兄弟にお土産をくれたり、病気をすればそっと夜お見舞いに毎日来てくれていた。

表情は、変わらなくて目じりが少しやわらかくなるところ。

引っ込み思案だった私ではわからなかった小さな優しさを気づけた後は、ローエンお兄様をとても好きになった。



(フェリクスともたまに遊んでくれているのも本当は知ってる)



中庭に遊びにいっていたフェリクスが誰かとリボンで遊んでいたらしい形跡をみたことがある。

それが髪の長いお兄様が髪を結うのに使っているものだと気付いた時には実の兄に胸キュンしたくらいだ。



「さーて、勉強しますか」

「にゃ」



一度背伸びをした後私は魔術の基礎の本を開いた。



この世界では、火・水・風・闇・光の5属性で魔術は使われているが、大体の人物は一つの属性の魔術しか使えない。

そして魔力の量もその人で違うが、全くない人や大量に持っている人がいる。



私は、光属性を扱え魔力は平均より多い方だと言われたが、

魔力の安定するまでは魔法を使うのを推奨されなかったのでまだ小さな玉を作り灯りを作る位しかやったことはない。

魔力を安定するには、精神の成長が必要だそうでとりあえず独学で座学から最近始めだした。



「でも、うちの本は光属性について詳しいものはないのよね」



何故だかうちの家系は、水と風と闇の属性を扱える者が多く生まれていたようで、光属性についての詳しい本がなかった。

というか、光と闇の属性を扱える者はそもそも少ないらしく本自体もあまり出回っていないらしい。



(何かあった時に、使えると思うからもっと学びたいんだけどな……)

(魔術に関しては、まだ年齢的に学ぶタイミングでもないけど光属性の魔法を扱える人を探すのも大変なので難航しそう……)


そこまで考えると目を伏せて息を吐く。

ゲーム本編でも盗賊や悪役令嬢事件やらなんやら色々事件があった。

その中で陰ながらフォロー出来たらいいし、魔術を巧みに扱えるというのは憧れるので

学びたいと思う気持ちがあるために前途多難な気がしてがっくりしてしまう。



「どうしようかなー……誰か持ってないかな」

「何を悩んでいる?」

「いや、大したことじゃ――って……え?」



周りにはフェリクスしかおらず、独り言をいっているつもりが誰かに声をかけられてドキリとする。

あまり聞きなれない――といっても前世で聞き覚えがあるテノールの耳障りのよい声に伏せていた目を開け見上げる。

私の目の前には、もうしばらくは話すことはないだろうと思っていたランベルト殿下が立っていた――……。



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