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10話 温かさと少しの重み





「……うーん、今日はここまでにしようかしら」

「お嬢さま、お茶をどうぞ」

「ありがとう、マリア」



手元にある光魔法の専門書を閉じて背伸びをすると、

隣に控えていたマリアがそう優しく微笑んでお茶を出してくれる。

マリアが出してくれたお茶を一口飲むとここ数日のことを思い返す。




「本当に殿下って……メインヒーローよねえ」




王宮図書館を初めて訪れたあの日、

殿下が去った後すぐに父が迎えに来てくれたのだが、

その際に本を借りてよいという許可も殿下が取り付けてくれていたことを知った。



(ああいうのスマートにできるのって、本当に凄い)



殿下のお陰でカメリアの魔法に対しての勉強はかなり進みが速く、

両親や優秀な兄たちも感心するほどでなんだか嬉しく感じより励むようになった。



「お嬢様、朝からずっと根詰めてお勉強なされたのですから、

 少しお庭にでて息抜きをされたらどうですか?」



お茶と共に出されていたクッキーの最後の一枚を食べていると、マリアがそう提案してくれる。




「確かに。太陽の光でも浴びてくるかしら」



そう言って立ち上がると、私の足元で眠っていたフェリクスも背伸びをして起きて足へ擦り寄ってくる。




「ここ最近、フェリクスとも遊んであげられていなかったものね」




私の言葉に答えるように鳴くフェリクスを抱きかかえて部屋を出て庭へと向かう。

私の腕から降り立ったフェリクスが早速蝶々を見つけて追いかけたり、芝生の上を寝転がる様子を眺める。

楽しそうなフェリクスを見て癒される度に動物が好きだなぁと改めて思う。




(もし、このまま嫁がなければ行き場のない動物達の保護活動をするのもありかも……)




そんなことを考えながら木陰になっている所を見つけて光魔法でふわふわした光の玉を作る。

それをフェリクスの視界に入るようにちらちらと動かすと、

先ほどまで寝転がっていたフェリクスが尻尾をふりふりしながら光の玉を狙う体制にすぐさまなる。

そんな様子のフェリクスが可愛くて思わず笑ってしまいながらフェリクスと遊ぶ。




「お嬢さま、魔法の扱いがうまくなりましたよね」

「あら、クライヴ」



指先で光の玉を動かしながらクライヴの方へ顔を向ける。

クライヴの腕の中には、沢山の洋書が抱えられており誰かのお使いか手伝いの途中のようだった。



「メルリお兄様かお父様のお手伝い中なの?」

「ええ。どなたかのために書斎のスペースを作るために色々やっているんですよ」

「え?」

「今日の晩餐の時間を楽しみにしておくといいですよ」



私が目を大きく開くと、クライヴはイタズラっぽい笑みを浮かべウィンクする。



「わ、私の?」

「ここ最近、魔法の専門書は勿論ですが他のお勉強でも色々と本を読まれているでしょう?

 なので、お部屋の本棚だけでは足りないと聞いた主人さまが書斎の一角をお嬢さんのためのスペースを作ってやれと」



確かに最近淑女としての作法は勿論、侯爵家としての知識なども魔法を勉強しているのと平行して勉強しているのは事実だ。

猛勉強した理由にはあと4年後に会えるオリヴィアの役に立てるためというのもあるが、

単純に知識を得ることがとても楽しく感じるのだ。



「嬉しいけど、お誕生日でもないのにいいのかしら……」



書斎には今の時点でもぎっちりと本が納められている。

そこを新たに私のスペースを増設するとなると大変なはずだ。

もうすぐローエン兄さまのデピュタントの準備などがあって大変な時期なのにと少し申し訳ない気持ちになる。

そんな私の気持ちを汲んだのかクライヴは首を横に振る。


「お嬢さんは気にせずに喜んでくださいよ。

 俺からしても、最近のお嬢さんは本当に努力しているなと思いますし、

 こうして少しはお嬢さんのお役立てるなら嬉しいものですよ」

「……ありがとう」



私が感謝の言葉を述べるとクライヴはにっこりと笑みを浮かべる。



「そう、それでいいんですよ。

 その笑顔と言葉で、こうやってお役に立ててよかったと俺たちは思うんですから」

「やだ……なんだか恥ずかしいじゃない」

「ふふ、そうですか?」



そう真っ直ぐ見つめながらいわれるとなんだかむずかゆい気持ちになる。

思わず顔を伏せると、クライヴはくすくすと笑うのだった。



「さ、お嬢さまの照れた顔が見れたところで仕事に戻ります」

「もう……!」


意地悪なことを言うとクライヴは踵をかえして書斎の方へと歩いていくのだった。




……




クライヴと別れた後、また暫くフェリクスと庭で遊んだのちに部屋に戻ることに。

書斎は改修中だとわかっていたのでメインホールを通って部屋に帰ろうとしたらフェリクスが誰かに気付いて私の手から飛び出した。

フェリクスが向かった先には、丁度玄関から出て行こうとした殿下の元だった。

殿下は、控えている護衛を制しして、走り寄ってきたフェリクスを抱き上げる。




「今日も、カメリア令嬢もフェリクスも元気なようだな」

「殿下、いらしていたのですね。フェリクスがまた失礼しました……!」



私が殿下に慌てて淑女の礼をすると、殿下は首を横に振った。



「気にするな。私もこいつのことは気に入っているんだ」

「僕もいるのに、フェリクスは本当に殿下のことが好きなようですね」




殿下のとなりにいたメルリお兄さまが少し口を尖らせてさびしそうに呟く。

そんな様子を気にともせず殿下は、フェリクスの顎下をしばし優しく撫でて穏やかな笑みを浮かべる。

その優しい手つきと笑みに、殿下もきっと動物が好きなのだと感じる。

そんな様子を見ていると、こちらに視線をばちりと目が合い少しどきりとする。



「そうだ、カメリア令嬢。以前悩んでいた呪文の構築はうまくいっているのか?」



あれから時々だが、こうして殿下に屋敷や王宮図書館で声をかけていただくことがある。

恐縮する気持ちがあるものの、気さくに声をかけてもらえることは嬉しく感じる。

色々と魔法のことは勿論、他の勉強のことでもアドバイスをしてくださり、本当に殿下には頭が上がらないと思う。



「は、はい。殿下からアドバイスをいただいたおかげで」

「いや、私は些細なことしかいっていない。

 あれだけで解決したのなら、カメリア令嬢の理解力とセンスだな」

「殿下にお褒めの言葉をいただけるなんてリリよかったね」

「……ありがたき言葉、恐れ多いです」


暫くそうしてメルリお兄さまと殿下と話していると、

殿下の後ろに控えていた護衛の方が殿下に耳打ちをする。

耳打ちをされた殿下は頷くとフェリクスを私の腕の中へと返してくれた。



「……さて、そろそろ私は帰らねばならないらしい」

「お忙しい中、呼び止めてしまい申し訳ありません」

「いやいや、謝らないでくれ。私にとってここへきてメルリ卿やカメリア令嬢と話す事は生き抜きになっているんだ」



申し訳なさに思わずまた謝ってしまうと、殿下は笑ってフォローしてくれる。



「殿下、馬車までお送りします」

「ありがとう、メルリ卿。ではいこう」



殿下は、メルリお兄様の言葉に頷く。



「殿下、ごきげんよう」



私はここで見送りをするため、殿下に淑女の礼をする。すると、



「ああ。……またな、カメリア令嬢」



その言葉と同時に自分の頭に少し温かさと重みを感じた後、

殿下はメルリお兄さまと玄関先へと踵を返していった。

殿下たちの姿が見えなくなってから、頭を撫でられたということに気付く。



(て……天然の女たらしだ……!)

(私が、モブだと自覚しているからよかったものの、こんなことされたら普通では惚れているに違いないわ)



触れられた場所を思わず片手で触れながら、少しドキドキしていた気持ちを落ち着かせる。

片腕の中のフェリクスは、そんな私の気持ちも知れず、上機嫌そうに喉を鳴らすのだった。








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