学習する侵入者
ジルに薦められてオークを召喚してから数日が過ぎたある日、俺は小さな違和感を覚える。
「妙だな……」
「……?」
俺がぽつりと呟くと、ジルは不思議そうに首を傾げた。
「いや、侵入者が思っていたよりも賢いように思うんだ。例えば宝箱の前に落とし穴を設置した場合、最初は素直にはまってくれていたんだが、最近は目に見えて罠のヒット率が落ちている。そのくせダンジョンの奥まで来るのかと思えば、いいタイミングで退却していくだろ? そのせいでせっかく配置したオークたちもまだ戦闘の機会がないし、もっと得られたはずのマナも逃してしまっている」
「そうですね……考えられるのは、侵入者たちも学習しているということでしょうか」
「学習?」
ダンマスにそんな仕様があっただろうか?
……いや、そういえば発売前の情報で、侵入者たちのAIを一から作り直したとかいう話があったような気がする。
確かに今までのダンマスシリーズでは、侵入者はいくつかの用意されたパターンに従ってダンジョンの奥を目指してくるので、そのパターン全てに対応できるようなダンジョンの構造を作り上げれば良かった。
まあその段階までダンジョンを発展させるのが大変であり、同時に楽しい部分でもあったのだが。
何にせよ侵入者が罠のパターンを学習するというのは、より人間的になったと言えるのかも知れない。退却に関しても、罠の配置などを覚えてから再度侵入した方が安全という判断なのだろう。
「ははは、面白いな」
ゲーム的に考えれば難易度が上がったと言えなくもないが、考え方を変えればそれは侵入者の裏をかいたりして騙す余地が生まれたということでもある。
従来のセオリーやパターンだけではなく、侵入者の心理を逆手に取ったダンジョン作りも可能になったと思えば、楽しみ方の幅が広がったと言えなくもない。
それは少なくとも俺にとって面白いと思えることだった。シリーズの良さを残しつつ、毎回新しい面白さを提供してくれるから俺はダンマスシリーズの虜になったのだ。
しかし侵入者がダンジョンのパターンを覚えてくるとなると、頻繁にダンジョン内の罠の配置を変更する必要が出てくる。今はまだダンジョンが一層のみで部屋数も十部屋とそれほど多くないので何とかなるが、そのうち俺一人では手が回らなくなる可能性があった。
さて、どうしたものか……と考えながら、俺はジルの方を見やる。
「アレス様、どうかなさいましたか?」
すると俺の視線に気付いたジルがそんな反応を返した。
この世界に来てからずっとジルとは話していたが、彼女は確かな知性を感じさせる優秀な従者だ。
ゲームの頃には「おまかせ機能」として従者がダンジョンに罠や魔物を配置してくれる機能も存在していた。さすがにそのままではあまり良いダンジョンとは言えなかったが、そのあたりは現実化した世界だ。
もしかしたらジルだって侵入者同様に学習することだって出来るかも知れない。
そう思った俺は、さっそくジルに問いかけてみることにした。
「なあジル……ダンジョン作りを手伝ってみる気はないか?」