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ゴブリン部隊

 出来たばかりのダンジョンはまだ誰にも知られておらず、特に警戒もされていない。ゲーム上では認知度、警戒度といった形で数値化されているが、現在はどちらも0だった。


 そんなわけでダンジョンにやってくる侵入者というのは今のところ、別の目的で近場を訪れた冒険者がたまたま入口を見かけたからといった場合がほとんどだ。


 今回侵入してきた男女二人組の冒険者も、どうやらそのパターンのようだった。


「こんなところにダンジョンが出来ているなんて……」

「ギルドでは何も言われてなかったから、もしかしたら出来たばかりなのかもな」

「……このまま進むのは危険じゃない?」

「でも誰も入ったことがないダンジョンなら、財宝も手つかずの可能性が高いんじゃないか?」

「それはそうだけど……」


 杖を持った女性冒険者は警戒心を露わにするが、剣を持った男性冒険者は奥に進みたがっているのが分かる。最終的に危なくなったら引き返すといった形で話がまとまり、二人は奥に進むことにした。


 細く入り組んだ通路を進んで行くと、すぐに開けた場所に出る。魔物の襲撃を警戒する二人だったが、特にそういった気配は感じられない。肩透かしを食らった様子で、次に男性が一歩踏み出した瞬間――。


「危ない!」


 女性の叫ぶ声と同時に、左右から毒矢が放たれる。男性はさすがの反応で前に跳んで回避に成功したが、その先には落とし穴が待ち構えていた。


 二段構えの罠になす術もなく落下した男性は、落とし穴の底に溜まる毒沼でダメージを受ける。


「ちっ、厄介な罠だな」


 男性は毒消し薬とポーションを少量ずつ使って体力を回復させながら、そんな風に悪態をついた。


「罠の方は思ったとおりに機能してるみたいだな」

「はい。さすがはアレス様、見事な罠の配置です」


 そんな冒険者たちの様子を、俺とジルはダンジョンコアの機能でモニタリングしている。


 実際この世界に多数存在するダンジョンには罠が付き物だったが、大抵の場合は単発の罠であることが多いらしい。


 俺が作ったこのダンジョンのように、片方の罠を囮にして別の罠を本命にするような形で罠が配置されていることはまず無いようだ。


 まあ罠に関しては、罠看破や罠回避に優れた盗賊系の職業の冒険者がいると活躍度はまた変わってくるのだが、今回は正統派な戦士と魔法使いのコンビらしいのでその辺りの心配はない。


 そんな風に、二人の冒険者は魔物と出会うことはないものの、罠によって確実に体力を削られていく。そうして削られた体力をポーションで回復して、また削られる。


 ダンマスでは冒険者がダンジョン内で流した血や消費した魔力もマナに変換されてダンジョンコアに貯まっていく。流した血というのはゲーム的に言えばHPに受けたダメージの総量であり、消費した魔力もそのままMPのことだ。


 もちろんそれにはポーションや魔法で回復した分のHPも含まれる。


「――つまりこんな感じでトドメを刺さないようにじわじわと体力を削り続けながら、回復する余裕を与えつつ長くダンジョンに滞在してもらうことで、冒険者一人一人からマナを搾れるだけ搾り取るのがこのダンジョンのコンセプトというわけだ」

「なるほど……どうして直接ダメージを与えるトドメ用の罠を配置しないのか疑問に思ってはいたのですが、アレス様はそこまで考えていたのですね」


 俺の方を見るジルの赤い瞳には、強い敬意が込められているように見えた。


 まだこの世界に入り込んで数日しか経っていないが、ジルがアレスのことを強く尊敬していることはすぐに感じ取れた。だからこそ打算なく献身的に尽くしてくれる。


 それがアレスとなった俺にとっても心地良いのは確かだった。であれば、そんな彼女の献身には結果を持って応えるべきだろう。


「お、そろそろ冒険者たちがゴブリンのいる部屋にたどり着くぞ」

「本当に大丈夫なのでしょうか? あの冒険者たちの実力であれば、ゴブリン程度の魔物は一撃で倒されるように思いますが」

「まあそれは見てのお楽しみだな」


 実際のところジルの懸念は正しい。人間の冒険者はゴブリンよりも基礎ステータスが優秀なので、普通に正面から一対一で戦ったらゴブリンは何もせずに倒されるのが常だった。


 ただそれは人間の冒険者が強いというよりは、雑魚の代名詞でもあるゴブリンのステータスがそれだけ貧弱だという話だ。


 何にせよ本来であれば一撃で倒されるレベルのステータス差を覆すのは難しい。数で襲い掛かっても、一体ずつ確実に倒されてしまうだけだ。


 ――ただし、それは本当にステータスの差があればの話だが。


「……ゴブリン? 罠の質の割に、しょぼい魔物だな」

「とりあえず確実に一体ずつ倒していくのが良さそうね」


 そうして男性は剣を構えゴブリンたちに突進していき、女性は魔法の詠唱を開始する。


 しかし次の瞬間、ゴブリンは目にも止まらぬ速さで男性の横をすり抜けると、短剣で女性を背後から斬りつける。


 その一撃で女性が戦闘不能に陥った直後、大きな木槌を構えたハンマーゴブリンに先手を取られた男性も、横殴りに吹っ飛ばされて昏倒した。


「やはり序盤はゴブリン部隊が鉄板だな」

「えっと……すみませんアレス様。一体今のは何が起きたのでしょうか?」

「簡単にいうと、ゴブリンにはゴブリン同士が集まると強くなる習性がある、って話なんだが……ジルはスキルって分かるか?」

「はい、それは存じております」

「今回部隊に編制したゴブリンはそれぞれ異なるスキルを持っていたが、全員が共通して所持していたスキルもあった。それが【ゴブリン族強化:5】というスキルだ」


 この【ゴブリン族強化:5】というスキルの効果は「同じ部隊にいる自分以外のゴブリン族のステータスを数値分強化する」というもので、HPとMP以外のステータスを実数で強化してくれる。


 つまり今回部隊に編制したゴブリンの戦闘時のステータスはこうなる。


――――――――――

ゴブリン

種族:ゴブリン族

レベル:1

HP:10

MP:0

攻:3 (+25)

防:3 (+25)

速:6 (+25)

知:1 (+25)

スキル:【回り込み】【ゴブリン族強化:5】

――――――――――


 これは他のゴブリンたちも同様で、全員に他の五体から【ゴブリン族強化:5】の効果がかかっているのでステータスには+25の補正が乗っている。


 こうした実数での強化は、序盤のレベルもステータスも低い時期ほど効果が高いというのがダンマスでのお約束だった。逆に「10%強化」みたいな割合での強化は中盤以降、ステータスが上がってきてから本領を発揮するタイプとなる。


 ゴブリンは自分以外のゴブリンを強化する。だからこそ数合わせで適当に編成するのではなく、一部隊にまとめて編制するのが効果的なのだった。


「まあ編成の自由度はなくなるし、そのうち普通にステータス負けするようになるから使えるのはしばらくの間だけだが、マナが足りない時期だけをしのげれば充分だからな」

「まさかゴブリンにそんな使い方があったなんて……私もまだまだ勉強不足でした。アレス様のお役に立てるよう、もっと頑張らなければなりませんね」


 ジルは俺から刺激を受けたのか、そんな風にやる気をみなぎらせていた。


 俺からすればスキルの効果を見れば一目瞭然のことに思えるのだが、どうやらこの世界ではそういった部隊編成に関するセオリーというものが確立されていないらしい。


 あくまでも魔物の個の力で強さを測っており、部隊となった場合も単純な足し算でしか判断していないようだ。


 そして反応を見る限り、それは侵入者である冒険者側も同様だった。であるならば、もっと色々な遊び方が出来るだろう。


 最新作から新しく追加された魔物も出来れば使ってみたいし、やってみたい編制もまだまだたくさんある。


「そういえばアレス様、冒険者たちの処遇はどうしますか? 殺しますか?」

「いや、ダンジョンの外まで運んでやれ。このダンジョンの存在を、街で広めてもらわなければならんからな」

「かしこまりました」


 マナを効率的に稼ぐには、まずダンジョンの認知度を上げる必要がある。認知度が上がればそれだけ多くの冒険者が訪れるようになり、ダンジョン内ではより多くの血が流れる。


 ダンジョンコアが自然産出するマナの量は固定なので、より多くのマナを手に入れるには冒険者から搾り取る他ない。


 まあそれだけリスクも上がりはするが、警戒度が低いうちはそうそう危ないこともないはずだ。


 ということでしばらくはダンジョンの認知度を上げるために、地道に活動を続けていく方針で俺はダンジョンを運営していく。


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