ゴブリンと罠
「とりあえずはゴブリンからだな」
「ゴブリン、ですか? 使えるマナに限りがあるとはいえ、数合わせでももう少しマシな魔物はいるように思いますが……」
「確かにそうかもな」
俺がゴブリンを召喚すると言ったら、ジルは率直な意見を返す。おそらくこの世界においてはジルの見方が一般的なのだろう。
ダンマスでは前衛三体、後衛三体の計六体までの魔物を一部隊に編制出来る。
序盤に侵攻してくる冒険者はソロやペア、多くてもトリオがせいぜいなので最初から六体全部を無理に埋める必要はないが、基本的には六体揃えた方が強い部隊となる。
なのでマナが足りないときの数合わせとして、少ない消費マナで召喚出来る弱い魔物を部隊に編制することも基本的な戦略だった。ちなみにゴブリンは一番安い魔物だったりする。
そのまま編成するとただの弱い魔物でしかないゴブリンだが、しかし特定の編成に置いてはかなりの活躍をする魔物でもある。
六体で一部隊。ゴブリンはこのゲームにおける編制の重要性を教えてくれる、序盤の鉄板ユニットだった。
「とりあえず召喚、っと」
そういってダンジョンコアの機能を使って目の前に浮かんだパネルを操作し、ゲートからゴブリンを召喚する。
ゲートから現れたゴブリンは背の低い小鬼で、手には短剣を持っていた。
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ゴブリン
種族:ゴブリン族
レベル:1
HP:10
MP:0
攻:3
防:3
速:6
知:1
スキル:【回り込み】【ゴブリン族強化:5】
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ダンジョンコアに蓄えられている初期のマナは1000しかないが、ゴブリンは10マナで召喚出来る。
ちなみにダンマスでは同じ種類の魔物は一体しか召喚出来ない。だからゴブリンだけひたすら召喚したりといったことは出来なかったりする。
「……やはりどこか頼りないように思えます」
ステータスを見ると、確かにジルの言う通り弱い。単体の性能としては最弱クラスだ。
どれくらい弱いかというと、最初から召喚出来る魔物で最強の性能を誇るドラゴンは各ステータスの平均が30を超えている。特に攻撃力に至っては50を超えており、範囲攻撃も持っているなど一体で戦況を変えられるユニットだった。
ただしドラゴンは召喚に800マナ必要なので、最初に召喚してしまうと、他に出来ることがかなり制限されてしまう。もちろんそういったプレイでも攻略できるのがダンマスシリーズの良い所ではあるのだが。
不安そうなジルを見ながら、俺は次々に魔物を召喚していく。
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ハンマーゴブリン
種族:ゴブリン族
レベル:1
HP:13
MP:0
攻:6
防:2
速:2
知:1
スキル:【クリティカル】【ゴブリン族強化:5】
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シールドゴブリン
種族:ゴブリン族
レベル:1
HP:15
MP:0
攻:2
防:6
速:2
知:1
スキル:【防衛】【ゴブリン族強化:5】
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アーチャーゴブリン
種族:ゴブリン族
レベル:1
HP:7
MP:0
攻:4
防:2
速:5
知:1
スキル:【遠距離攻撃】【ゴブリン族強化:5】
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マジックゴブリン
種族:ゴブリン族
レベル:1
HP:6
MP:12
攻:1
防:2
速:3
知:6
スキル:【魔法攻撃】【ゴブリン族強化:5】
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ヒーラーゴブリン
種族:ゴブリン族
レベル:1
HP:8
MP:10
攻:1
防:3
速:2
知:5
スキル:【部隊回復】【ゴブリン族強化:5】
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「……って、ゴブリンばかりではないですか!」
「ははは」
ジルがそう言って大きな声でツッコミを入れたので、俺は笑って誤魔化す。それまではクールでセクシーな印象だったジルだったが、どうやらこういった砕けた調子でも接してくれるらしい。
「じゃあこの六体で部隊を編制して、ダンジョンコア前の部屋に配置」
ゲームをプレイしていた頃と同じ要領でパネルを操作すると、ゴブリン達は即座に指定のエリアに配置された。
「アレス様、いいのですか? そのような重要な場所をゴブリンなんかに任せてしまっても」
「問題ない。浮いたマナでその分、罠を充実させるから」
ゴブリン達は安上がりだったので、まだダンジョンコアには900マナ以上残っている。
ちなみに初期状態のダンジョンは入口からまっすぐに部屋が三つ並んでおり、そこを抜けるとダンジョンコアというあまりにもシンプル過ぎる構造だったりする。これでは迷宮なんて呼べたものではない。
安全のためにも早い段階でダンジョンを拡張したいところだが、それには多くのマナが必要だった。ダンマスではとにかく何をするにもマナが必要なので、俺はマナを稼ぎやすいダンジョンを作る方針で罠を設置していくことにした。
そうしてまずは入口から入ってすぐの部屋に罠を敷き詰める。壁には毒矢が飛び出す罠を設置し、回避した先には落とし穴。落とし穴の中には毒沼といった形で、罠同士でそれぞれを補い合うようにシナジーを形成する形で配置していく。
そうしてあっという間に一部屋分の罠が完成した。
「……アレス様」
「ん、何だ?」
「何といいますか、恐ろしいくらいの手際の良さですね。ダンジョン作りが初めてとは思えません」
「そうか? ……まあ、それだけ真剣ということだ」
「なるほど、さすがはアレス様です……それでは何か分からないことがあればお聞きください。魔界にいる間に、ダンジョンに関する書物は一通り目を通しておりますので」
「ああ、ありがとう」
素直に俺はジルに礼を言う。
なるほど、今作のアレスはダンジョン作りに関する知識がないので、ジルが知識面をサポートするという関係だったのか。
まあ実際のところ俺は過去作のプレイ経験があるのでダンジョン作りの知識はかなりあるのだけど、それでも最新作での変更点や追加要素などが出てきたらジルに尋ねてみるのが良さそうだ。
ただ最初の段階ではそういった場面も特になく、俺のダンジョン作りはさくさくと進んで行く。
そうして二つ目の部屋にも罠を設置し終えた俺は、ジルに感想を求めることにした。
「とりあえずこんな感じになったのだが、ジルはこのダンジョンをどう思う?」
「そうですね……毒を中心とした罠でじわじわと侵入者を追い詰め、弱ったところを魔物で狩るという基本的な戦略に忠実なダンジョンだと思います。ただ肝心の魔物がゴブリンというところで、逆に狩られないかだけが心配ではありますが――」
「ははは、まあ見てなって。ゴブリンにはゴブリンなりに、使い道があるんだよ」
そんな風に少し心配そうにしているジルの不安を取り除くように、俺はあえて自信満々な風を装ってそう言った。
それから数日が経ち――ようやく最初の侵入者がダンジョンに現れるのだった。