表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

最弱の魔王

 このゲームの主人公であり、今の俺の姿でもあるアレスは、この世界では「魔王」と呼ばれる存在である。ちなみにこのゲームにおける魔王とは魔界に領地を持つ魔族の総称であり、それなりの人数が存在しているという設定だった。


 アレスは魔界の辺境に領地を持つ魔族で、他の魔王からは「最弱の魔王」という蔑称で呼ばれていたりもする。


 ゲームのストーリーとしては、アレスたちが住む魔界では長年に渡る魔王同士の覇権争いの結果、「マナ」と呼ばれる特殊なエネルギーが不足状態になっていた。


 マナは魔法を行使する以外にも様々な用途で使われており、魔族が生きていく上で必要不可欠なものである。


 マナ不足は辺境の領地ほど深刻な影響を受けており、それはアレスの領地も例外ではなかった。このままでは領民の生活を維持することが困難と考えたアレスは、一大決心をして人間界にダンジョンを作り、マナを出稼ぎする計画を実行に移すことになる。


 人間界には世界樹「ユグドラシル」が作り出す無尽蔵のマナが存在している。人間はマナをあまり消費しない工業を発達させており、また使用する魔法も魔族と比べればささやかなものなので、人間界には常にマナが有り余っているのだ。


 ただし魔界と人間界の間には、太古の女神が作ったとされる結界が存在しており、強大な力を持つ魔族やその軍勢の行き来を不可能にしていた。


 唯一の方法は、自身の魔族としての力の大部分を封印して結界を超えることだが、当然それには大きなリスクを伴う。多くの魔族は自身の強さにこそ絶対の信頼を置いている。魔王と呼ばれる存在であればなおさらだ。


 だからこそ自分の強さを捨ててまで人間界に渡ろうと考える魔王というのは、間違いなく異端だった。しかしリスクに見合うだけのリターンが人間界には存在しているのも事実であり、過去にも多数の例があったりもする。


 そうした背景もあり、アレスは領地の統治を父の代から仕えている執事ミュンヒハウゼンに任せると、従者のジルと共に魔族の力を封印して人間界に渡った。


 ――全てはマナ不足に苦しむ領地を救うため。


 こうして名実ともに、アレスは「最弱の魔王」となったのである。




「アレス様、まずは魔物を召喚するためのゲートを設置していただけますか?」


 ジルは当然のように、俺に対してそんな要求をする。


 ダンジョンマスターシリーズは基本的に、ダンジョンの最深部にあるダンジョンコアの防衛を目的とするゲームだ。ダンジョンコアは存在するだけでマナをその土地から産出するが、ダンジョンの存在は人間にとって脅威であるため、攻略しようと冒険者や傭兵、騎士団など様々な人間が攻略を目論んで侵攻してくる。


 しかしそうして侵攻してきた人間がダンジョン内で流した血や消費した魔力はマナとなって、産出したものと同様にダンジョンコアに貯めこまれる。


 そのマナを使って魔物を召喚したり、ダンジョンにトラップを仕掛けたり……様々な手段を駆使してダンジョンを防衛しながら大きくしていく。ダンジョンが大きくなればダンジョンコアから得られるマナも多くなっていくので、より強い魔物を召喚したり、強力な罠を設置したりといったことが可能となる。


 ダンジョンを大きくすればマナの産出が増える。しかしダンジョンが大きくなると人間の警戒も強まり、侵攻してくる敵も強くなる。そうした敵からダンジョンコアを守るために、様々な魔物や罠などをダンジョン内に配置して防衛していく。


 これらを繰り返し、安定してマナを得られるダンジョンを作り上げるのがこのゲームの目的だ。


 なんにせよ魔物を召喚して防衛兵力を整えないことには始まらない。その魔物を召喚するための施設がゲートなのだが……どうやらそれを設置できるのは魔王であるアレス、つまり俺のようだった。


 しかし困ったな。ゲームだったらシナリオパートのテキストを読んでいたら勝手に設置が終わっているものなので、どうすればいいのか分からない。


 ジルに訊けたら早いのだが、アレスなら出来て当然のことを突然尋ねられたら、さすがに怪しまれるだろう。


 数秒悩んで、とりあえず適当にイメージしながらやってみることにした。失敗したなら、そのときにジルには相談することにしよう。


 俺は玉座から降り、壁際に近寄る。そうして門をイメージしながら、壁に触れる。


 すると――。


「――出来たか?」

「はい。さすがはアレス様です」


 壁には異空間に繋がる門が完成していた。やはりまだよく分からない部分も多いが、実際にやってみた感覚としては、結構大雑把なイメージでも何とかなるようだ、


 そうして俺は一旦玉座に戻る。玉座の後ろには大きな宝石の原石のようなものが、淡い光を発しながら宙に浮かんでいた。これがダンジョンコアだ。


「ダンジョンコアとゲートの接続に成功しました。以降はダンジョンコアの機能で魔物の召喚および管理が可能となります」


 ジルが確認事項といった雰囲気でそう言った。


 これが実際のゲームであれば、この後にダンジョンの管理を行う基本画面が開き、各項目の説明を含めたチュートリアルなどが行われるのがシリーズの慣例だったが、さすがにその辺りはゲームとは違うようで、チュートリアルなどはなかった。


 まあダンマスは長年続いているシリーズなので、そこまで大きな変更点もないはずだ。俺は早く魔物を召喚するように訴えかけるようなジルの視線に耐えきれず、さっそくダンジョンコアの機能を使ってみることにした。


 現実世界でゲームをやっていた頃の基本画面をイメージしながら目の前に手をかざす。するとそれだけで目の前に半透明のパネルが浮かび上がり、そこには見慣れた配置の画面が映し出されていた。


「……なるほど」


 設置できる罠や召喚出来る魔物は新しく追加されていたり細かい性能の変化はあるが、やはり根本的な部分でのルール変更は行われていないらしい。


 これならおそらくは過去作のセオリーがそのまま使えるはずだ。そう考えると、少しずつワクワクしてくる自分がいた。


 俺自身がゲームの世界に入り込んでしまったこともあって、さすがに細部は異なるだろうが、やはりこれは俺がプレイを待ち望んでいたダンマス最新作に違いないのだ。


 だったら楽しまなきゃ損だろう。


 ただゲームのようにセーブやロードが出来る気配はないし、ゲームオーバーになったときにどうなるのかも分からないという心配はある。


 とりあえずは慎重に、堅実に確実な形で堅牢なダンジョンを作り上げ、安定したマナ基盤を確保するのが良さそうだ。


「アレス様、最初はどの魔物を召喚されるのですか?」

「そうだなぁ……」


 俺は召喚出来る魔物のリストを見ながら、悩む。そういえばこうして悩んでいる時間が楽しいゲームだった。


 実際に現実でゲームをしていた頃は、召喚出来る魔物の能力を眺めているだけで何十分も過ぎていたこともよくあった。ただ今はジルが待っている。あまり時間をかけるのも悪い気がした。


 とりあえず最序盤の鉄板構成となるシリーズおなじみの魔物が見つかったので、さっそく召喚してみることにしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ