桃から生まれた・・・。チーン。
翌日は早朝からお爺さんは付き合いで山のゴルフ場へ芝刈りという名のホール巡り(ゴルフプレー)に、お婆さんは河口付近へ気晴らしにクルーザー乗りに出かけた。
サングラスを掛けたお婆さんが河口付近でクルーザーを停泊させて、人目が無いのを良いことにデッキでサンオイルを塗ってアウトドア用ベンチに俯せになってしばらくすると喉の渇きを覚える。
そこで、缶ビールを冷やした網を途中まで引き上げると、何やら見覚えの無い大きな桃がいつの間にやら網に入っているのを見つけた。
「おや? こんな桃なんて入れた覚え無いんだけどなぁー。
ま、いっか。爺さんが帰ってきたら喰わせてやれば喜ぶかも♪」
喜んだお婆さんは、川から桃を引き上げるようとウィンチでクルクルと巻き上げてクルーザーへ入れてしまった。
「まあ、私の船に入れた以上は、コイツは私のものさね。」
ニヤリと笑うと、船先の向きを180度切り替え、そのまま34ftエンジン200馬力x2台付きのクルーザーを時速33ノット(約60km程)まで上げ、上流の自宅の船着き場まで戻った。
◆
その頃、取引先とのコース巡りも終わり、爺さんは運転手付きのリムジンに揺られて家へ向かっていた。
「おう、婆さんや、返ったぞぉー!
今日も余裕だったわぁー 海山商事の磯六社長悔しがってたぞー!!」
ゴルフ焼けで健康的に見える爺さんが、ゴルフバックと記念品片手にはしゃいでる姿は、まだまだ老いを感じさせるものでは無かった。
「そうかい、良かったねぇー
私もでっかいお土産があるのさ。」
「でっかい土産?」
「ああ、二人がかりでも食べきるのに何日かかるか分からない代物さ。」
「・・・大丈夫なのか?」
「見た感じは大丈夫そうだったよ?
今ウォークイン冷蔵庫で冷やしてるのさ。」
「そっか、それじゃメイドのフランソワに運ばせるには重すぎるかな?
ジョン。」
「ハッ!」
名を呼ばれると素早く若くて凛々しい執事が登場した。
「婆さんが冷やしてるという品を持って来い。」
「畏まりました。」
恭しく一礼すると、執事は地下室へ向かった。
◆
「おい・・・コリャあ・・・。」
「でっかいだろ?」
「ああ・・・遺伝子操作でもされてるんじゃないか・・・?
食っても大丈夫なモンかいな?」
「まぁ、切ってみりゃイイんじゃないかい?」
「それもそうか。フランソワ。」
「ハイ。」
名を呼ばれた見目麗しいメイド姿の少女が、鮪包丁と呼ばれる日本刀のような細長い包丁を持って進み出た。
「では。」
凛と鈴の音が鳴り渡るような美しい旋律を纏った声で告げると、巨大な桃へスゥっと刃を入れた。
すると。
「わっ!?
ちょっ!!
待ったっ!!
ストップ! ストォーーープっ!!
切れちゃう、マジで切れちゃうからっ!!
お願い、止めてくれぇぇぇぇぇぇええっ!!」
巨大な桃の中から少年と思しき声がした。
「はて? 爺さんや何か言ったかね?」
「いいや。婆さんや、お前さんこそなんぞ言ったかぁ?」
「アタシゃなぁーんも言ってないよ?」
「そんなら・・・この悲鳴は誰のじゃろうのぉう・・・?」
なおも手にした刃をノコギリの様にギコギコと巨大な桃に付き立てるメイド少女の姿に、二人の老人は首を傾げるばかりだった。
「ちょっ!
マジでヤバイからっ!
切れっ・・・
あぁっ・・・・
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!!」
哀れ、少年は誕生前に絶命してしまいましたとさ。
この物語はこれでお終い・・・。
めでたしめでたし。
一応(?)まだ続くかと。
こちらもよろしければどうぞ(`・ω・´)ゞ
『妹がヤンデレ過ぎて怖い件について』
https://ncode.syosetu.com/n0825fd/