駄犬(シロ)のせいで話しが進まない件について①
一行に沙緒莉さんを加えて、僕たち三人は、次なる目的の人物である『雉』に接触することにした。
サオリさんが居るかもしれない場所を知っていたのだ。
「いいかい、アンタたち。
これから行く先は、一瞬でも気を抜いちゃ生きては行けない場所だからなっ!」
一体どんな修羅場へ連れて行かれると言うのだろうか・・・。
僕は一抹の不安を感じながら、『雉』がいると言う場所へ向かった。
◆
沙緒莉さんに連れて来られた場所は、僕の想像をはるかに軽々と超えてぶっとんでいた。
周囲には煌びやかな光が灯され、色取り取りの看板や着飾った男女の写真入り電光掲示板で溢れていた。
「さ、サオリさん・・・。
こ、ココは一体・・・・!?」
戸惑うばかりの僕。
無駄にメガネクイをするばかりで、目して語ろうとしない駄犬。
コイツ、きっと綺麗なオネーさんの写真をガン見してやがるな。
「ああ、ここはOKYM―CITY北区セントラル。所謂夜の街ってやつさ。」
僕だって、場所くらいは分かるんですっ!!
問題は、場所じゃなくって、何でこんな夜の街なのってことですよねっ!?
お願い。分かってっ!
「いや、そうじゃなく・・・。」
願いを目力に込めてサオリさんの美しい貌をジーっと見つめてみたけれども。
「タロウ。アタイは先に言ったよな?
ここから先は、気を抜いては生きて行けない。って。」
「ええ、確かに聞きましたけど・・・。」
『生きて行けない』って、ソッチの意味だったのっ!?
またしても、盛大にツッコミを入れたい僕とは対照的に、先程から駄犬がチロチロと気に入ったオネーさんの顔写真の店へ入りたそうにコッチを見つめて来る。
黙れっ! 駄犬がっ!!
僕は眼光鋭く睨み返してやるのだが、この野郎、こんな時ばかり無駄に勇気を発揮してやがる。
僕の眼光に抵抗してきやがる。
「そうか、アンタらには未だ覚悟が足らなかったのかい?
それなら、今回は『雉』との接触は諦めるのかい?
アンタらの鬼退治へ懸ける情熱はその程度のモンだったのかい?」
あ。駄犬に気を取られていたら、サオリさんが盛大に勘違いトークを繰り広げてしまっている。
イカン。
「いいえ、サオリさん。
僕は、たとえ地獄の底だろうと貴女と一緒ならば、行く覚悟は出来ていますっ!!」
「フ。キミにそこまで言わせて、知将である僕が引き下がるとでも?
無論。この、WA・TA・SIも、この看板のオネーさん居る店に入るためならばっ!! 例え火の中水の中っ!!」
「「黙れっ! 駄犬がぁっ!!」」
初めて僕とサオリさんの心がシンクロした瞬間だった。
いや、シンクロなんて生易しいモノじゃないだろう。
そう。これは美しい二人の心のユニゾンだ。
「クっ、二人揃って怒鳴ることはないじゃないか・・・。
グッスン。」
あ。駄犬が強めに叱ったら、尻尾を股の下に挟んでクーンと鳴きそうに少しイジケ出してる。甘やかすとつけ上がるからここは放置しとこう。