鬼退治の動機 ~ 純情少年太郎の決意 ~
そういえば、サオリさんが一緒に来てくれるなら、ちゃんとお礼を渡しておかなきゃね。
ボクはゴソゴソと背中のリュックサックから『桃印・贈答用キビ団子詰合せ』を取り出した。
「ハイ。これは細やかですけど、一緒に行ってくれるお礼の品です。」
ボクが取りだした桃印入りの包装紙を見ると、サオリさんの目が限界まで見開かれた。
「・・・・こ、これが・・・。
そうか・・・・、そうだったのか・・・・。」
何度もコクコクと頷くサオリさん。
そして、感極まったとばかりに両の目からは熱いものが流れ落ちている。
一体どうしたと言うのだろうか?
まさか、こんな贈答品にキビ団子詰め合わせなんか貰って、ここまで喜ぶ人が居るとは思わなかったけど、美人は涙を流す姿まで美しいのだな。
「ど、どうしたんですかっ?
なにか嫌なことでも?
急に泣き出すから、ボク・・・。」
でも、いくら綺麗でも女の人を泣かせたままなんてマズイ気がする。
ボクはアタフタと泣き止ませようと試みる。
「フフ。大丈夫よ・・・。
なんでも無いわ。
ちょっと子供の頃を思い出しちゃってね・・・。
本当に大丈夫だから・・・。」
あれ?
心なしか、サオリさんの口調が姐御調から、昔を思い出しているせいか良家のお嬢様っぽくなってる気が?
「貴女にも辛い過去があったのですね・・・。」
メガネクイっ駄犬が口を挟む。
ココまで空気だったくせに、このまま空気で居ろよ。
ったく、ボクとサオリさん二人だけの世界を邪魔しやがって。
マジで空気読めない奴だな。
「シロっ! お座りっ!!」
「ワンっ!」
駄犬シロは、地面にペタリとお座りのポーズで座りこんだ。
良し。
「・・・クっ!
これはっ!! 伝説の英雄桃太郎が使えると言う、強制命令執行権かっ!?
これ程までに強力なモノだったとは・・・・。」
珍しく駄犬がメガネクイっをせずに、両手を前足の様に地面に付けたまま何やら解説してる。
ノリの良い奴だと思ったけど、気にせずにサオリさんとの楽しい会話を続けよう。
「そのキビ団子に、子供の頃の思い出があるのですか?」
「ええ、あの頃は楽しかったわ・・・・。
海も山も豊かで。
人の心も穏やかで、皆笑顔で溢れていたわ・・・。
ソレを・・・。
アノ鬼どもが現れてからは・・・・。
チクショウっ!!」
ギリっと奥歯を噛みしめると、サオリさんは悔しそうに手にした化粧箱入りの思い出の品を何度も見つめ直した。
そうか、それ程までにかつての宿場町だったこの辺り一帯は栄え、人々が平和に暮らしていたのか。
そして、彼女もまた、そんな老舗旅館ではきっとお嬢様として、幸せな暮らしを送っていたのだろう。
ボクが鬼退治をしなければならない理由が、また一つ増えてしまったようだ。