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死霊術師は開拓村でスローライフをおくる  作者: 結城 からく


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第42話 死霊術師は剣聖と対話する

 私は診療所内の応接室へと移動する。

 椅子と机だけが用意された簡素な部屋だ。

 以前までは無かったが、増設に伴ってできた場所である。

 普段は特別な来客もいないため、あまり使っていない。

 壁に遮音性の高い素材が使われており、静かな空間で会話できるように配慮がなされている。


「どうぞ。お掛けになってください」


 私は剣聖レリオットに椅子を勧める。

 レリオットは会釈して座った。

 続けて私も机を挟んで着席する。


「失礼します! お茶をお持ちしました!」


 リセナが盆を手に入室してきた。

 英雄を前に緊張しているのか、歩き方がぎこちない。

 彼女は二つのグラスを置くと、早々に退室した。


 私はグラスの一つを手に取りながら口を開く。


「あなたのことは存じております。剣聖なのですよね。他の方々が噂をされていました」


 私の言葉を受けて、レリオットは頭を掻いて苦笑する。


「いやはや、お恥ずかしい。色々と騒ぎになってしまってご迷惑ですよね……」


「そんなことありませんよ。それよりご用件は何でしょうか」


「冒険者の皆さんからあなたに挨拶した方がいいと紹介されたのです。村一番の名医との評判でした。僕も数日後に迷宮へ赴くつもりなので、先に挨拶へ来た次第です」


 レリオットは流暢に答える。

 まさか冒険者からの評判がこのような事態を招くとは。

 予想外の展開である。

 こうして面と向かって会話をすることは、非常に大きなリスクを伴う。

 本来なら避けるべきものであった。


 とにかく、今は自然体でやり過ごすしかない。

 疑われる行動さえ取らなければいい。


「わざわざご丁寧にありがとうございます。もし負傷した時は、遠慮なく診療所へお越しください。力を尽くして治療させていただきます」


「それは心強いですね! こちらこそありがとうございます。ところで、少しご相談があるのですが――」


 レリオットが柔和な笑みから一転して真顔になる。

 目は爛々とした輝きを放ち、瞬きをしなくなった。

 彼は抑揚を削いだ声で続きを話す。


「ここにいる患者と会わせていただけますか? 不死者から傷を受けた者がいますよね。迷宮攻略にあたって調べたいのです。ここの迷宮の不死者は毒を多用する珍しい個体です。事前に毒の種類が判明すれば解毒も容易でしょう」


 レリオットは有無を言わせない雰囲気で説明する。

 微動だにしない視線が、何かを見定めるように私を射抜く。


「あとは不死者の体液などが付着したものはありませんか? できれば血液がいいです。大雑把な系統が分かれば、適切な聖魔術を準備できますので」


「血液ですか……」


 私は考え込むようなそぶりを見せる。


 レリオットが診療所を訪れた理由が分かった。

 彼は迷宮のアンデッドの情報を欲している。

 診療所なら、それらに関する痕跡が集められると判断したのだろう。

 やはり迷宮を本気で攻略しようとしている。

 まったく抜け目がない。


「怪我人の調査は、本人の同意があればいいでしょう。アンデッドの体液や血液に関しましては、冒険者の武器や衣服に付いているかと」


 私は事務的な口調で回答する。

 ここで断るわけにもいかない。

 さすがに不審がられる。


 それにアンデッドの毒を解析されることは、別に大した問題ではなかった。

 私もそういった対策をされることを前提として使用している。

 上層と中層の毒などたかが知れていた。

 非常に良心的な毒である。

 たとえ完全に無効化されようが、さほどの痛手ではなかった。


 その気になれば新たな種類の毒も生成可能だ。

 調合知識と死霊魔術の複合技術を用いれば、解毒困難な致死毒さえも用意できる。


 そういった考えを隠して、私は普段通りに微笑する。


「クロムハートさんは迷宮攻略に熱心なのですね。さすが英雄です。皆さんが称賛される理由がよく分かります」


「……英雄、ですか。僕は周りの評価ほどできた人間ではありません。ただ不死者が許せないだけなのです」


「許せないというと、何かあったのでしょうか」


 レリオットは目を閉じる。

 再び開いた時、その双眸は極大の憎悪と狂気を露わにしていた。


「幼い頃から言い聞かせられてきました。死者が生者を襲って殺すなど、あってはならないことだ、と。実際に僕もそう思います。この世の摂理に反しています。絶対におかしいです。不条理なことだと思いませんか?」


 詰め寄らんばかりの勢いのレリオットに、私は静かに頷く。


「おっしゃる通りですね。アンデッドは世界の理を乱しています」


「共感していただけてよかったです……あなたが話の分かる人でよかった」


 レリオットは尋常でない雰囲気を霧散させて、椅子にもたれかかった。

 その顔には少なくない安堵の色が窺えた。

 彼は柔和な表情に戻って立ち上がる。


「連れの者を待たせているので、そろそろ失礼します。突然の訪問にも関わらず、ありがとうございました。不死者の毒や体液の調査ですが、いつ頃だと都合が良いでしょうか?」


「私はいつでも構いません。そうですね、今日の日没頃などは如何でしょう」


「はい! その時間帯でお願いします。では、よろしくお願いします」


 一礼したレリオットは、立ち上がって退室しようとする。

 そのまま出ていくかと思いきや、彼は扉に手をかけたまま足を止める。


「…………」


 場に不気味な沈黙が訪れた。

 私は何もせずに剣聖の動向を見守る。

 やがてレリオットは、ゆっくりとこちらを振り向いた。


 その表情が一変していた。

 感情の抜け落ちたような真顔に、爛々と執念を燃やす瞳。

 彼がアンデッドを語る際のそれだった。


「――協力のお礼と言ってはなんですが、聖魔術による祝福をさせてください。中位程度の不死者までなら、近付くだけで焼け爛れるほどの効果があります。最低でも三日間は不死者による脅威は無くなるでしょう。迷宮へ行かれることはないでしょうが、万が一ということがありますから……」


 両手に聖なる光を灯しながら、レリオットは歩み寄ってきた。

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