妹さんをください 序
「妹さんを僕にください」
この男は絶対人生のどこかでこの言葉を吐いてきただろう。
僕の目の前で頭を下げず、感情の無い目で見上げてくる。
170cm程の日本人の平均身長の僕でさえ見上げている小男は金田哲郎26歳。
趣味はやましい気持ちで始めた丘サーフィン。
波は乗らず板にも乗らずナンパしても女性にも乗れず。
もちろん彼女はいない。
誠実さのかけらも無い彼と付き合った女と言えば、
出会った事すら私が馬鹿だったと出て行った同い年の看護婦。
それが2年前。
それでも過ちに気がつかない悲しき26歳。
めげない所だけは褒めるべきか呆れるべきか。
僕の職場のセンパイ、金田哲郎。
紹介が遅くなったが僕は本間忠。
センパイとは運悪く大学の頃からの付き合いだ。
いや、付き合いなどではない。
僕の人生のレールの先に、かならず「金田」という駅があるのだ。
平凡な僕でも友達を作ろうとサークルへ入ったところ
意味の違う友達をなんとかしようとして不振のまま2年過ぎたセンパイが在籍していた。
職場というのはトレーニング器具メーカー。
就職活動の時に、体力は平凡だけどスポーツ観戦が好きな僕が選んだ
いちおう大手企業だ。
いつかは野球選手やサッカー選手に会えるかもと期待に胸を膨らませた春。
会えたのはそろそろ下腹が出始めた、とても残念な金田哲郎。
ダメだろう。トレーニング器具のセールスマンがそんな調子では・・・
普通ならばそうである。
でも何故かセンパイの業績は並みの上。
こういう男こそ意外と世渡り上手だったりする。
ナンパで築き上げたトークは社会に出て役に立ってしまったようだ。
主な仕事はもっぱら新商品の案内とメンテナンス。
なので都内の様々な施設へ足を運ぶ事がある。
リハビリセンター・スポーツジム・大学や専門学校。
最近は高級マンションにもジム完備なんてのもある。
僕が想像するような環境とは違ったが、それなりに満足はしている。
僕にくださいと言った妹はスポーツジムのインストラクターだ。
担当は最近流行のボディコアやボディコンバットだそうだ。
僕はよく知らないが、人前で腰をカクカクするのは我が妹にははしたないと思った。
はしたないと言っている方が下心があるのだろうが・・・
だがもっと下心を秘めた目でスタジオを見ている男がいた。
金田哲郎。
その瞳はトランペットに憧れる少年をドブで洗ったような輝きだ。
おい!
僕が常識人という人種でなければここで怒れたであろう。
だがあまりにその枠は窮屈で固い。
そしてセンパイは振り向き様に言う
「本間クン。彼女が噂のキミの妹かえ?」
なんだその口調は・・・
あえて渋い表情で僕は応える。
「そうですよ。それが何か?」
彼は僕との距離を詰めて頭など下げる気が無いくらい背筋を伸ばして言い放つ。
「妹さんを僕にください」
神様。
この男のチ◯コを今すぐぶった切ってください。
初めてお話を書きます。至らない所が多々ございますが温かい目で見守ってやってください。伊織。