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私立満天星紅葉高等学校

「さて、シンギュラリティが引き起こした問題点。これらの解決方法がヒネク・レ・シトラス社の創始者、レモネード・イエローが開発した埋め込み型電極だ」


 教師の授業は続く。黒板型パネルには、脳と電極の画像が映る。生徒たちは教科書を開いているが、ノートは取っていない。教科書という形のデータを閲覧しつつ教師の話を聞き、脳にインプットしている。


「人間の脳とコンピュータを繋げることで、人間は膨大な記憶メモリーと正確な演算能力を手に入れた。人間の知能を超えた人工知能を、さらに超えたわけだが」


 ここで教師の目が、いろはに向いた。


「知能だけでは、またシンギュラリティが起こる。理由は?」


「寿命を持つ限り、またいつか追い超される、だろう? ふん。分かり切った事を答えさせて何が面白い」

 教師の目には、面白がるような色が見える。それが癇に障ったいろはは、鼻にしわを寄せて吐き捨てた。


「ははは。そう言うな。常識を再確認するのも大事な授業だ」

 教師の笑いが空々しく響いた。


 知識の次は肉体だ。

 疲れや病気を知らない人工知能が進化を続ければ、またすぐに超されてしまう。


 極小のロボットが血液内を巡回し、免疫システムを補助。死さえ『治療可能』なものとなった。臓器は次々とデジタル化され、金さえあれば全て代用可能だ。


 不滅の肉体。膨大な知識。演算能力。人間は仮想現実の世界で万能の『神』へと昇華された。


 ただ。


 一部の人間だけが。


「処理能力にものを言わせ、新しい仮想現実を創ることも、生命を生み出すことも可能。『神』になった人間は、『神』でない人間たちを仮想現実の中から見下ろして、思うままに操る。ああ、本当に、ありがたい『神様』だね」


 いろはは、『神様』の部分を皮肉たっぷりに強調して発音した。はっと鼻を鳴らし、片眉を吊り上げて、挑発的に笑う。全くもって、馬鹿らしい。

 いろはの両親もまた、『神様』側の人間だ。ゆくゆくは、いろはもそこに加わることになる。


 いろはだけではない。この教室にいるクラスメートは皆、同じだった。私立満天星紅葉高等学校に通う者は皆、高い授業料を払える財力と入試試験を突破できるだけの頭脳の持ち主だ。


 いろはは『神』の立場になるのが嫌で、入試問題の時に全問不正解の解答をした。なのになぜかここにいる羽目になった。


 教師はいろはを咎めるでもなく、笑みを貼り付けていた。今見ている姿、教師という役割。どれがどれだけ本物なのか、分かりはしない。


「ごく一握りの人間だけが、VRの世界で永遠に生き続けることが出来る。選ばれた、人間だけが。おめでとう、生徒諸君。君たちは選ばれた人間になる可能性がある、神の卵だ。ただし、孵化して神になれるのはこの中の上位2名のみ」


 教師が大仰な仕草で手を叩いた。乾いた音が教室に響く。


 ざわっ。


 今まで大人しく授業を受けていたクラスメートに波紋が広がった。


「……上位2名? そんなの聞いてない」

「ここに入学出来たら、じゃないのか?」

 戸惑いを貼り付けて、疑問を口にする。


 そんな中、一人の男子生徒の手が上がった。


「なんだ、龍田いづる」

 男子生徒にしては小柄な体格だった。色素が薄くて、ゆるくウェーブのかかった髪、小さな顎。優しい曲線を描く大きな目に、桜色の唇。

 他の生徒と違って動揺するわけでもなく、逆にいづるの口元には笑みが浮かんでいた。


「上位2名とは、どういう方法で決めるのでしょうか」

 いづるの外見にふさわしい、ソプラノボイスだ。


 ひと昔前のように、試験を受けて成績を出す方法では意味がない。私立満天星紅葉高等学校に入学した者は皆、満点を取っているからだ。


「上位2名の選出方法は、あるゲームの攻略だ」


 黒板型パネルいっぱいに、ゲームタイトルが表示された。



 『ブラッディ・メープル 〜 刀の彼方 〜』と。

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