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向き合う二人

戦闘。

残酷描写ありです。

 色気のない廃ビルの中で、二人は向き合っている。


「二年A組 高尾いろは」

 刀を鞘に納めたまま、いづるへ全神経を傾けて抜き放つ時を待つ、いろは。


「二年A組 龍田いづる」

 刃は水平。刀先は外。切っ先をいろはに向け、突き立てる時を測っている、いづる。


 もしも観戦者がいたならば、二人は微動だにしていないように見えただろう。しかし二人は相手の体に刃を届かせるため、間合いを測り、先を取ろうと探り合っていた。


 ほんの僅かな身体の揺らぎ。いづるの正中線がミリ単位でずれた。いろはの目じりが小さく痙攣する。違う、これは誘いだ。

 いろはの口角が吊り上がった。歓喜が湧く。沸騰しそうになる血を宥めすかす。

 心身を凪に保ち、腰をゆっくりと前に置いている右足へと動かした。


 そんないろはを前に、いづるは目を眇めた。やはり誘いには乗ってこなかったか。

 いづるの口元もまた、上がった。いろはは、こうでなくてはいけない。最強の彼女を打ち負かす。そのためにここにいるのだ。


 真剣では、剣道のように打ち合うということは有り得ない。打ち合えばよくて刃こぼれ、悪くて折れる。だから、ただ一の太刀のみを信じての攻防が、勝敗を決する。


 己の刃を相手に通すため。


 激しい先の取り合いは唐突に終焉を迎えた。


「エエーィッ!」

「ィヤアァァア!」


 ついに抜き放たれた刀。抜刀の瞬間は目で追えない。目が認識した時には刃の煌きが軌跡を描いていた。

 左手を打ちだし、右手を腰に引き付ける。正確に喉へと突きこまれる刃が鮮烈に閃いた。


 いろはの刃が肉を斬り、いづるの刃が肉を突き刺す。それは全くの同時だった。ただし。


 斬られ、突かれたのは、いろはといづる。そのどちらでもなかった。


 抜刀した軌跡を、いろはが正面に放つことなく、膝を抜き腰から回転する。支柱の陰から飛び出してきた男を斬った。同じく反対側へ体を回転させたいづるが、別の支柱から飛び出した女を突いた。


 いろはが斬った相手から、噴き出す紅の鮮血。飛び散るそれを、いろはが避ける。斬られたことすら、分かったのかどうか。驚愕に目を剥いた男が、体を下から切り上げられた逆袈裟に断裂された。


 どちゃり。


 斜めにずれた男の上半身が床に落ちる。遅れて下半身が後を追った。


 時を同じくして、いづるの石火の突きが相手を貫き、刺さった。女が衝撃に吹っ飛ぶ。


 びたっ。


 一メートル先に合ったコンクリートの支柱へ激突し、女の頭部が紅の花を咲かせる。べったりと血液のアートを作り、支柱から剥がれた肉塊が不快な水音を立てて床に落ちた。


「ちっ、妖刀(感染者)かよ」

 素早く中段に構え直したいづるが吐き捨てた。


「大事な仕合いの邪魔とは無粋な」

 今度は青眼の構えを取ったいろはが犬歯を覗かせて唸る。


 いろはに斬られた男と、いづるの突きを受けた女の死体から光が立ち上った。光は小さな四角い粒子となって、暗闇の中に人工的な余韻を作ってから、消える。


 強制ログアウトだ。


 同時に支柱や床にべっとりとあった血痕も消えた。後に残ったのはログアウトしたプレイヤーの持っていた刀のみ。


 自分たちを襲ったプレイヤーが消えても、いろはといづるは構えを解かなかった。階段を上ってくる者が数人。ガラスも何もない、窓が撤去されてただの四角い穴を這い上がってきた者が数人いたからだ。

 そのいずれもが漆黒の装束に身を包んでいた。いわゆる、忍び装束というやつだ。


 彼らはノンプレイヤーキャラクター、通称NPC。


 いろはといづるが今プレイしている、ヒネク・レ・シトラス社製のVRゲーム『ブラッディ・メープル 〜 刀の彼方 〜』の敵キャラだった。

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