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刀の行方 次どこぞ?

 その後全てのプレイヤーとNPCを一掃するのにさして時間はかからなかった。最後の一人をいろはが強制ログアウトさせる。


「お見事」

 がらんとした廃ビルに、ぱちぱちと拍手が鳴り響いた。見れば、いつの間にかひとりの男が立っている。


 第一印象は、ふざけた男だった。

 レモンイエローのスーツ、目深に被った同じ色の帽子で口元しか見えない。そこに立っているのに、なぜかピントが合わせられずに、ぼんやりとした輪郭しか掴むことが出来なかった。弧を描く口元だけがやけにはっきりとしている。


「来たか。審査員」

 いろはは『ブラッディ・メープル』の運営者を審査員と呼んでいた。運営者はゲームの中で踊っている自分たちをモニター、つまり審査している。だから審査員だ。


「審査員。おやおや、やはり気付かれていましたね。はじめまして。わたしはこのゲームの製作しましたヒネク・レ・シトラス社の創始者、レモネード・イエローと申します」


 男が帽子を取り、深々と腰を折る。あまりに深くお辞儀をしたものだから、やはり顔は見えなかった。男の腰が戻った時、再び帽子が目深に被られていた。


「わたしが来ることも予見しておられたようですね。それはどうして?」


「このゲームのクリア条件。三年生の9月30日、23時59分59秒、日付が10月1日に変わる瞬間の一秒前、自動的にゲームはクリアとされる」

 これも最初に受けた説明にあった。他のクリア方法は提示されてない。


「ゲームなのに何かをクリアするでもなく、時間が経たないとクリアにならないなんておかしい」

「ふふふ。しかしこれは成績を決めるゲームです。そういうものなんじゃあないですか?」

「そういうもんじゃないってのは、お前が今ここにいることで裏付けられたさ」

 あくまで飄々と返す男の言葉を、いろははばっさりと斬った。


「とっくにクリアできるレベルになっていて、集めるアイテムもないのに期限まで待つだけ? 私なら待てないね。だから一位と二位の優位が揺らがないと分かった瞬間、お前は審査員は現れた」


「おや、わたしは病気、老い、寿命を克服した人間。『神』の一員です。時間は限りなくあるんですよ。君たちの卒業まで待つくらいどうってことないでしょう?」


「ではなぜ、妖刀なんてものを作った。全てを完璧に管理出来る『神』なんだろ? わざわざ不確定要素を作るなんて合理的じゃない。あれはあんたが作ったものじゃなくて、他の誰かが作成したもの。日本刀サポートのプログラムを一部書き換えるコンピュータウイルスなんだろう?」


「ふふふ。どうしてそう思いました?」

 男の手が帽子に伸びた。さらに深くかぶり直す。口元の笑みもまた深くなっていた。


「僕の感覚を聞いてたら、ウイルスみたいだと思った、それだけだって。要するに勘だね」

 いづるが小さく肩をすくめる。


「僕は抑え込んだというか、折り合いをつけたというか。とにかく『村正』に乗っ取られなかったけど、他のプレイヤーは完全に乗っ取られたり、乗っ取られたことに気付かないで行動してた。一緒に組んだ相手にウイルスを感染させたりもしてたよね」


「おや。バレましたねえ。ただ、妖刀に感染させたのは実証実験のためのコンセプトウイルスです。実は、このコンセプトウイルスの除去できる人間こそ、わたしが探してた人材なんですねえ」


 男が右手のてのひらを上に向けた。すると、ぽんと何もない空間からレモンが現れる。それをぽんぽんと放って遊びながら続ける。


「『神』なんて言っても所詮は人間です。最初は『神』になった人間は少数でしたが、一人、二人と増えて大人数がひしめくようになれば……起こるのは争い。現実世界とは違う、仮想現実の中での戦争はウイルス合戦とあいなりました」


 今度は左手にオレンジが現れる。男がレモンとオレンジを持った手をパンと合わせると、レモンがオレンジ色に染まった。二つのオレンジは、男の手を離れて地面に落ちる。落ちた途端にころころと分裂。増えたオレンジが、転がる。転がったオレンジがまた、増えて地面をオレンジに染めていく。


「わたしの目的はそういう悪質な人間の排除です。おめでとうございます。君たち二人は合格です」

 男がぱちんと指を鳴らすと、オレンジが消えた。


「ふざけた奴だな。私が合格です、はい、そうですかと従うと思うか?」

「思いませんねえ」

「なら」


 いろはは刀を納刀した。左腰の辺りで支え、柄に右手をかけて腰を落とす。


「まあまあ。ちょっとお待ちなさい。排除のリストには君のご両親の名前があるんですよ」

 ぴくっといろはの眉が上がる。


「なんだ。両親の罪を見逃す代わりに、とかいう取引なら」

 いろはの声が低くなり、空気がひりついた。


「あ。違いますよ。そっちではなくて。ご両親を『神』から引きずり下ろす権利をあげましょう」

 男はひらひらと手を振って、いろはの殺気を霧散させた。いろはは構えこそ解かなかったものの、殺気は薄まった。


「なぜ、そう思った」

「君がご両親に反発していたことは調査済みですし、こっそりとご両親のやっていることを探っていたのも知っていますよ」

 両親が仮想現実を乗っ取るウイルスの開発を急いでいることは、薄々気付いていた。いろははそれを徹底的に阻止して弱みを握り、家を出た後の自由を勝ち取ろうとしていたのだ。


「君は?」

 目元は見えないが、男の視線がいづるに移ったのが気配で分かる。


「僕はいろはに従う。というより、いろはにしか従わない」

 いづるの返答に迷いはなかった。


「交渉成立ですね」

 いろはといづるの手にあった日本刀が光を放つ。紅い光だ。光はどんどん強くなって、男と、いづる、いろはを包み込んだ。


「おめでとう、ゲームクリアです」

 掴みどころのない、男の声を最後にログアウトした。


 翌日、高尾いろはと龍田いづるの卒業証明書が発行され、二人の姿は私立満天星紅葉高等学校から消えた。



 月日は流れて春、新入生は教師から説明を受ける。


「上位2名の選出方法は、あるゲームの攻略だ」

 黒板型パネルいっぱいに、『ブラッディ・メープル 〜 刀の彼方 〜』と表示される。


 仮想現実では、日本刀が相棒を待っていた――。

ノリだけで始まった連載。

途中でVRゲームへジャンル変更するという荒業をやったため、無理矢理感が満載だったと思います。

最後までお付き合いありがとうございました。

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