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笑う門には福来る

 数えるのも面倒な黒い忍者たち。あの中にはプレイヤーが紛れ込んでいる。勝利条件はこの場にいる全員を叩き斬ること。


 ぐるりと取り囲んでいる最前列の忍者たちが、手裏剣やクナイを構えた。まずは飛び道具で先制するつもりらしい。


 いろはは右足を滑らせた。背中から、いづるの体温が消える。

 眼前には手裏剣、クナイが雨のように空中を舞っていた。それをいくつもの金属音をもって叩き落す。


 正面の手裏剣を横に振った刀で弾き、右横に来ていたクナイ、手裏剣を巻き込んで叩く。即座に左上へ、次に右下。左足を前へ出して右のクナイを避け、右ひざを抜いて方向転換。


 くるり ひらり。

 舞い、踊る。


 笛の音代わりの金属音。


 太鼓は足が。

 唄は敵の断末魔。


 飛び道具の弾幕を抜ければ、短刀を構えた黒装束。体の正面に構えた短刀が突き出される。それをいろはは半身で捌こうとして、やめた。口元を覆っていた布が下がっていたからだ。


 ごおっ。


 露わになっていた口から、炎が噴き出された。


 たんっ。


 いろはは軽やかに跳躍。忍者の頭上を飛び越える。火炎は地面を焦がしただけだった。


 飛び越えた着地点には違う忍者。そいつは鎖鎌の分銅をいろはの頭をめがけて放ってくる。が、空中で小さく体を捻って躱し、顔面を足場にしてやった。ドガッと鈍い音を立てて顔が潰れる。


 くるり ひらり。

 舞い、踊る。


 縦横無尽走る銀閃。


 運びは足で。

 舞うは死の神楽。


 首が飛び、血飛沫が視界を染める。右の敵、左の敵、前の敵、後ろの敵。刀を振り下ろし、斬り上げ、横に払い、突き出す。


 くるり ひらり。

 舞い、踊る。


 満ちる鉄錆の香。


 上がる心拍。

 刻む印は紅の肉。


 いろはの口元には薄っすらと笑いが浮かんでいた。いや、無意識に哄笑すら上げていた。

 血が沸騰する。血の香りに頭蓋が痺れる。血の紅に視界が塗りつぶされる。


 敵の刃をギリギリで躱せば、毛穴が開く。肉を斬り裂けば心が躍る。

 踏み込め。躱せ。斬れ。嗤え。


 次々と黒装束を斬り捨て、粒子に変換する。いろはの茶髪が動きに合わせてひるがえった。


 横合いから、刀が伸びてきた。いろはは紙一重で躱してから反撃に移ろうとする。が、違和感。紙一重ではなく、大きく跳んだ。

 刀が目標を見失い、虚しく空を斬る。ただそれだけだった。

 反対から来た忍びの突きを身を屈めて避け、胴を裂く。後ろからまた、違和感を伴った攻撃。いろははもう一度大きく間合いを取りながら、足で落ちていたクナイを蹴り上げた。


 チッ。


 攻撃をしてきた忍者の刀にクナイがかする。その瞬間、爆発が起こった。側にいた黒装束が一人巻き込まれて倒れた。


「見つけたぞ、鬼」

 いろはの唇がにいっと吊り上がった。どちらが鬼か分かりはしない。

 刀に触った途端に爆発した。NPCではなく、プレイヤーの日本刀に付与された能力だ。あの刀に触れば爆発を喰らうわけだ。


「爆ぜろ、高尾いろは!」

 隣の忍びが投げた手裏剣を、刀で弾いてくる。弾かれた手裏剣はいろはに向かって飛びながら爆発。凄まじい爆発音と爆風、煙をまき散らした。


「やったか!」

「そんなわけあるか。馬鹿」

 付いてきた煙を纏い、いろは踏み込みと共に一閃。嬉々として歓声を上げるそいつの、頭蓋から股下までをかち割った。


 ブン、という羽音。蜂だ。無数の蜂を纏わせた刀が振るわれる。ブブブ。空気を細かく振動させて蜂がいろはに向かってくる。別の場所からは火炎。地面はでこぼこと隆起。手裏剣とクナイが飛ぶ。


「楽しい宴だな」

 プレイヤーは皆、何かしらの能力を持っている中、腕力の補正のみのいろはは呟く。その小さな呟きすら置き去りにして、いろはは廃ビルの中を舞った。


「化け物」

「こんなの、聞いてない」

 能力皆無で1位の座に君臨する高尾いろは。彼女を潰すためのなりふり構わない一斉攻撃だというのに、この光景は何だろう。

 何人かで組んで奇襲、仕掛けた罠に誘い込み、他プレイヤーとの交戦の後を狙って連戦など、ありとあらゆる手を使ってきた。が、どれもが一蹴されるという規格外ぶり。


 いづるもまた、着実に敵の数を減らしていた。いづる自身はポイントを多く持っていない。いつも3位より少しだけポイントが多くて2位をキープしている。


「話が違う。これじゃポイントを取られるだけじゃない」

「じゃあ、どうするんだよ。ここで勝てなきゃ順位の変動なんてずっとないぞ」

「やるしかない」

「でも、あんなの勝てない」


 怖気づいて言い争っている間にも、いろはは次々と斬っている。埋め尽くすほどいた黒装束も、数えるほどだ。

 日本刀に付与されているため、ある程度近づかないと能力が発動しないのに、足が前に出なくなっている。


「……だったら、僕に喰われといて」

 そんな彼らの耳朶を、かなりの至近距離でソプラノボイスが打った。


「!?」

 動揺した彼らは、咄嗟に刀を振るった。振るうと同時に各々の能力を発動させている。それを眼前で水平に構えた『村正』が吸収した。


 いづるが持つ『村正』の能力は、刀に触れた能力を喰らうこと。


「ゲームオーバー、だね」


 そして喰らった能力を2倍にして相手に返すこと。


『強制ログアウト』

 日本刀の音声が何度も繰り返された。

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