トンの視点
ベルグハンマ―を振るい、トンは高速で移動する。
トンが振るう“悪魔の槌”は、地面に打ち付けると衝撃波を発し、使い手の体を風に乗せた。
「キースの街」へ急ぐ。
そこにいるという、「あいつ」と同じ名前を持つ少女に。それがきっと、『この世界』のあいつかどうか、確かめるために。
「ったく……面倒なことになってやがんな」
街が襲われていた。陽が落ちて普段はガス灯の灯りに優しく包まれるはずの街が、今は賊が上げる荒々しい松明の炎にあぶられていた。
そこかしこで怒声と悲鳴。≪ドレイグ≫がキースの街で暴れていた。
街の入り口でハンマーを構えていると、殺気立った賊が二人、近づいてきた。
「おうてめえ! この街に何の用だ!」
頭に紅い頭巾を巻いた賊の一人が言う。
「いちいち答えなきゃダメか?」
トンはつまらなさそうな顔をして賊を刺激する。
「ああ!?んだ!?」
「待てや」
今度は青い頭巾をかぶった片割れが、トンに向かって叫ぶ。
「通りてえならその槌置いてけ。
てめえのガラクタ捌いて二束三文以上の価値を生み出してやるってんだ、俺らを拝みたおした後にとっとと失せな!」
トンは内心びっくりした。こいつらもしかして……。
「お前ら、このハンマー見てなんとも思わねえのか?」
「ああ!?思わねえよ、ガラクタ自慢に付き合う暇はねえぞ!」
青い頭巾が刀を振りかざして恫喝する。
「はあ……。お前ら≪ドレイグ≫だろ?盗賊生業にするなら知っとけよ。まあ、お前ら見るからにバカそうな面だけどさ」
その一言が引き金になった。
激昂した紅頭巾の方が、警告もなしに抜き身の剣で襲い掛かって来た。殺意を隠さぬ突進だった。
それを、トンの振るう槌が薙いだ。
賊が剣を振るう全ての動きより、トンが槌で薙ぐ全ての動きが速かった。
直撃の衝撃と、発生した衝撃波になぶられ、紅頭巾の体は数十メートル先の建物にぶつかって消えた。
「なっ……!」
「大丈夫、お仲間は死んじゃいねえさ。……多分な。確かめに行かねえのか?」
う、うるせえ!!と叫んで、青い頭巾が刀を振り回してこちらに接近する。トンは難なく槌を振るって相手の体を地面に沈めた。
「一応教えとくぜ。この槌は“ベルグハンマー”つって、俺の親父が作ったもんだ。そして世間じゃこう言われてる。“三年前の動乱を引き起こした悪魔の槌”ってな。……って、誰も聞いてねえか」
しかし騒ぎを聞きつけ、たくさんの≪ドレイグ≫達が集まってきていた。
「ちょうどいい……でも講釈してる暇はねえな。街からてめえらを……追っ払わなきゃな!」
向かってくる≪ドレイグ≫達の波に対し、右に左に槌を振るう。
旋風に薙ぎ払われ、賊の固まりが四方へ散る。
敵が向ける刃に対して、トンは防御しようなどと思わなかった。
その圧倒的なパワーを以て、攻撃あるのみ。
「うらあああああああああああああああああああああっっっっ!!」
地面に勢い良く打ち付けたハンマーから拡散した衝撃波が、賊の第二波を蹴散らして一気に視界を開いた。
そこに、蹲る金髪の少女がいた。見覚えのある、金砂で染め上げたかのような、美しい頭髪だった。
彼女の周りを賊が囲んでいた。
少女の白い面に、今にも刃が迫っていた。
トンはそこへ向けて衝撃波を撃った。狙いを定めてから撃つのに、ほとんどラグはなかった。
悪魔の槌が放つ風の砲弾は、わずか数メートル先で爆発した。