SS 剣が全てのこの世界で、俺はハンマーで頂点を目指す
設定説明のための閑話のつもりでしたが、少しだけ本編進めています。
一昔前まで、カムラン王国は群雄割拠のただ中にあった。戦乱の中で六つあった王家は一つにまとまり、国は平定された。
しかし、万事がそれで済むわけではなかった。
打ち続いた混乱は人心の荒廃、法の形骸化を招き、それが武力によって他者を害する無法集団――――≪ドレイグ≫を生んだ。
≪ドレイグ≫に対して国家は無力といってよかった。
戦乱の後に常備軍を持つことすら厳しい財政難に陥ったカムラン王国は、≪ドレイグ≫に対して有効打を打てなかった。
そこに登場したのが、戦乱中期から出現した信仰組織、「真教連合」、略して「真教連」だった。
元々この国で古くから信仰されている真教を教え伝えることで、彼らは戦乱の世に救いを求める民の心を慰撫した。
そのため「真教連」は市井からの圧倒的な支持を受けていて、「第二の政府」と言われるまでに権勢を伸ばしていた。
「真教連」は権力とともに武力をも掌握していた。
真教連の上層部は動乱の時代降りかかる火の粉を自らの手で払えるよう、修道士たちを武装させて調練していた。
動乱が終わり、されど≪ドレイグ≫の出現で平穏無事な世は未だ遠いことを悟ると、真教連は武装させた修道士たちを繰り出し無法者の退治に乗り出した。
その過程で、武に覚えのあるものを積極的に雇い入れ、≪ドレイグ≫退治の尖兵として全国に投入した。
これが≪リ・セイバー≫の端緒である。
さて、≪リ・セイバー≫という職務や制度が正式に形作られ、各地で≪ドレイグ≫退治に名を上げる戦士たちが出現すると、真教連は≪ドレイグ≫退治に活躍した≪リ・セイバー≫に報酬として金貨の他に点数も付与した。
有志によって一月ごとに点数の多寡でランキングが作られ、≪リ・セイバー≫各自が序列づけられた。有志と言ってもその主導は真教連上層部なので、序列は社会的に認められた権威であり、≪リ・セイバー≫となった各自はそれぞれが高位を目指して日々剣を振るった。
≪リ・セイバー≫はほぼ全員、剣を執り戦っていた。。真教の歴史に登場する様々な修道騎士の武勇伝と、剣を重んじるカムラン王国の風土が、自然とほぼすべての≪リ・セイバー≫に剣を執らせ、教会もそれを奨励した。
剣が全てのこの世界で、トンはハンマーで序列一位を目指す。
それも、かつて天下平定の直後、“ガロンの乱”と呼ばれる歴史的反乱で使われたハンマーで。
今なお多くの民衆に恨まれる、動乱の元凶とされる“悪魔の槌”で。
いつかきっと、この大好きなハンマーが、人々の平和の象徴となることを夢見て。
~~~~~~◇◇~~~~~~◇◇~~~~~~
トンは、キースの街へ向かって走る。
“彼女”と同じ名を持つ少女。
ずっと探していた。
“彼女”が生前言っていたことが本当なら、きっといるはずだったからだ。
“彼女”と同じ魂を持つ少女。
トンはどうしても、会いたかった。
キースの街が、紅く燃えていた。
「≪ドレイグ≫……?」
≪リ・セイバー≫としてのトンの勘が反応する。
しばらくして前方に、野盗のような男たちの群れ。
間違いない。キースの街から炙れた≪ドレイグ≫たちだ。
トンはベルグハンマーを構えた。
トンを見つけ、形振り構わず襲い掛かる男たち。
街を襲い気が立っているのだ。
曲刀を振りかざす野盗の群れに、トンは問答無用でベルグハンマーを振る。
放つは必殺の一撃。
確か一年前のこの日も、この技を使った気がする。
その一撃を、叫ぶ。
「ベルグハウンドッッッッ!!!!!」
束になって向かってくる曲刀を、槌の一振りが薙ぎ払った。
視界があっという間に開ける。
キースの街へ続く道が見える。
反動は、もうトンを襲ってこなくなった。
あれから一年、槌を操る術を磨きに磨き続けた。
現在の序列は8347位。
まだまだ上を目指せる。
できれば。
洗練されたこの技を、“シルビア”にも、見てほしかった。
そしてあいつと一緒に、序列の端から端までを駆け上がりたかった。
詮無い願いが生じさせる痛みを心の中で噛みしめて、トンは視線をはっきりと前へ向ける。
燃える街は、目前まで迫っている。