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闖入者

 急いで家へ戻る途中、濁った空から雨が降り出した。


 手で頭を隠し、必要以上に俯いて、彼女は家へと戻った。


 自宅に入り扉を閉めた後で、シルビアは膝からガクリと力が抜けた。


 今日は疲れた。とびきりに。





 “鍵”の異能の暴走で、昔から多くの人を傷つけてきた。



 それが嫌で、引きこもった。それでも、いつか自分の異能で誰かを救けることができれば、なんて夢を捨てきれなかった。


 だから家の倉にあった護身用の剣を握りしめて、外に出た。≪ドレイグ≫が凶悪なとぐろを巻く家の一歩外へ。


 結果はさんざんだった。能力の暴走を引き起こし、力の制御が全然できなかった。トンと名乗る少年がいなかったら、大惨事だった。

 

 彼には、すごくすごく感謝している。



 でももう、会わないほうがいいだろう。

 力の制御ができない未熟な自分に彼を付き合わせていたら、次にどんな迷惑をかけるか分からない。最初は苦笑いで許してくれても、いずれきっと表情を曇らせて、彼女のもとを去っていくだろう。正直に言おう。また誰かと新しい関係を以て、それを失うのが怖かったのだ。



 一階のリビング。真ん中を占める、幅を取る木製の机。シルビアの手が、その上にある緑色の表紙に触れた。


 彼女の憧れ。それは、現在序列第一位の女性≪リ・セイバー≫エリザベス・シェリーフェンの活躍を記した物語だった。


 おとぎ話の主役の背中が、シルビアの現状いまの視界からは遠く霞んで見えた。





 年季を感じさせる緑色の二階建てが、彼女の家だった。王国南部、デオイア州キースの町。街中に建てられた家にしてはそこそこの大きさであった。


 金砂で染め上げたかのような透き通った金髪に、海の蒼を映し出したかのような碧眼。それらを載せるにふさわしい可憐な顔立ち。およそ外見からは想像がつかないが、彼女――――シルビア・ロレンティは、半年間この家に引きこもっていた。食事は家の貯蔵庫に蓄えてある食材を調理して済ませ、千を超えるこの家の蔵書の頁をめくって余暇を潰す。

 彼女は実際、そうして母親が死んで半年間、ほとんど外に出ることはなかった。



 緑色の表紙をぱらぱらとめくってすぐに、本を閉じた。

 シルビアは自室へと向かう階段を上る。ここから先は、彼女一人の閉じられた時間。

 これからずっと、終わりなくこの日常が繰り返されるのだろうと、シルビアは何度も確かめて一段一段を踏みしめる。



 二階にある自室の鍵を外して扉を開けた時。




 彼女は呆然と立つしかなかった。




 まず、天井に腐り落ちた大きな穴が開いており、それが、止むどころか勢いを増す大量の雨粒を家の中へ入れていること。だが、それはいい。



 いったいなぜ?



 外に出る前に、確実に戸締りはしていた。そしてさっきも、家の玄関の扉以外、どこも開けてはいないし、もちろんその玄関の扉も既にしっかり鍵をかけてある。


 いったいなぜ、この部屋に?


 家に備え付けの鍵だけではない。シルビアの家の戸の全てには、彼女の能力で生み出した『鍵』も据え付けられている。


 絶対不破の『鍵』も合わせた、二重の施錠。だからこの家に彼女の許可なく入ることなど、たとえ≪リ・セイバー≫序列一位の彼女の憧れでも不可能なはずだ。


 なのにいったいなぜ、この部屋に侵入できたのだ?




「お、早かったな。でも、ワリィ、俺の方が先だったな!」


 侵入不可能なはずのこの部屋に、その少年はいた。


 それは先ほど別れを告げたはずの、“悪魔の槌”を手にした少年だった。



数話、シルビア視点で続きます。

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