悪魔の槌VS序列四位の剣④
アランが両の手でしっかりと<バランエッジ>の柄を握る。
そのまま上にあげて両手を振れば、彼の眼下に蹲る無抵抗の少年は容易く両断できる。
そうなる直前に。
トンは、立った。
「信じられん……『刃鳴りが示す終末の墓標』を喰らって立ち上がれるものがいるとは」
半ば気合で、腰を浮かせていた。
「だが、そこまでのようだな」
その通りだった。
膝はまだガクガクと震え、足元もおぼつかない。
立っているだけでやっと、その状態もいつ終わってしまうか分からない。
けれどあともう少し。ベルグハンマーを……!
「さらばだ」
アランが両腕を振り上げる間に、トンはベルグハンマーを少し持ち上げた。しかし、アランへの反撃は叶わず、直立できずに、ガクリ、と膝から崩れた。
ベルグハンマーも、何もない地面を虚しく叩いただけだった。
それが、局面を一気に変える切り札になった。
ベルグハンマーから発生した衝撃波が、アランの体を大地から引きはがし、後方へフッ飛ばしたからだ。
「がっっ……」
「どうでえ……! 悪魔の槌は、攻撃が外れてもその余波が尋常じゃないんだぜ。 てめえの剣で捌かれなければ、てめえ一人ブッ飛ばすのはワケねえさ」
アランの体が後方の建物に激突。壁に入った亀裂の下に、アランが項垂れている。
「うお、どーやらお前の天地人能力、お前自身がダウンすると効力が切れるみたいだな。 もう足がふらつかないし、ベルグハンマーの威力も元に戻ってるみたいだぜ」
今ではしっかりと立って、ベルグハンマーを軽く振って言う。
すると項垂れていたアランがゆっくりと面を上げた。元の涼やかな表情に戻って、言った。
「うむ……私はどうやら、その槌の力を見誤っていたらしいな……」
「「謹んでお詫びしよう、トン・ビロードビレッジ君」」
ん……?
今、声が二重に聞こえた?
トンは耳に手を当てて違和感を確かめる。
すると。
『よう……得意げか? ご自慢の槌が絶好調でよォ……』
トンの視界を、一匹の蠅が舞った。
信じ難いことに、音源はその蠅からだった。
『ところでちょいと、視線を斜め上に向けてみろよ……てめえのドヤ顔、すぐに引きつらせてやるぜ』
不意に言われるがまま視線を移す。
視線の先は石造りの建物の屋上だった。
そこに、薄桃色の髪を垂らした、見知らぬ少女がいた。
――――少女は、肩と腕を背後にいる無体な恰好をした男たちに押さえつけられていた。
『あとほんの少し、指をピクリとでも動かしてみろ……あそこにいる娘を殺す』