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狂った世界

 私は図書館に足を運んだ。というのも、吸血鬼について調べるためだ。


 本当はネットで調べようと思ったのだけど、ネットには吸血鬼についてあるいみ、常識のようなことしか書いていない。


 それに、その常識は常に適用されるわけではない。幽霊がその一例である。ああいうのは、見たことのない人が想像だけで書いているものだから、何の意味もないことが多い。


 吸血鬼は若い女性の血を吸うとよく言われている。他には日に当たると灰になるとか、目を見ると動けなくなるなどなど。


 今回の被害者は男性だった。ということは、もう常識が崩れてしまっていることになる。それに、紅葉が吸血鬼だったとして、彼女は朝から夕方まで学校にいる。下手をすると殆どが嘘かもしれない。


 図書館に足を運んだ理由はただ一つだった。


 吸血鬼の本を借りることではなく、吸血鬼のモチーフになった人間について調べるためだ。


 本を探していると、ある本にたどり着いた。


 バートリ・エルジェーベトという人物の伝記本。


 彼女は血の伯爵夫人という異名で知られる人物であり、吸血鬼伝説のモチーフとなった女性である。


 1604年に夫が亡くなると、夫から贈与されて彼女自身の所有となっていたスロバキアのチェイテ城 に居を移したと記されてある。


 さて、吸血鬼と呼ばれるようになった所以だが、彼女は残虐行為を繰り返したとある。


 その行為の目的は血を得るためと書かれており、彼女は街から騙して連れてきた若い娘を鉄の処女で殺して、その血を浴びていたとされる。


 ことの始まりは、粗相をした侍女を折檻したところ、その血がエルジェーベトの手の甲にかかり、血をふき取った後の肌が非常に美しくなったように思えたということ。


 カーミラやドラキュラは彼女をモデルにしているらしい。


 調べては見たものの全くわからない。吸血鬼が吸血鬼たらしめる所以である血以外のことはほとんど書かれていない。


「結局無駄足かぁ……」


 もしかしたら、バートリ自体が吸血鬼だったのかもしれない。


 そう考えると、吸血鬼にとって血液とは生きるための糧ではなく、娯楽なのかもしれない。


 これは推測だけど、私を吸血鬼と間違えて殺そうとしたあの男性がいくらかは処理しているとしても、毎日死者が出てないのはそのせいなのかもしれない。


「それがわかっただけでもよかったのかな……」


 ふと時計を見ると、もう閉館の時間だった。


「帰ろ……」


 帰り道、ふと紅葉を見つけた。


「くれっ……」


 私は途中で紅葉を呼ぶのをやめた。どこか急いでいるように見える。


 紅葉は吸血鬼。それが頭から離れなかった。


 私は気付かれないようにあとを付けた。


 すると、紅葉は大通りから小路地の方に入っていった。


 道は入り組んでいて、見失いそうになるがどうにか追随する。


 最後の曲がり角。覗きこんでみると、そこには赤い世界が広がっていた。


「なに……これ……?」


 私は目を疑った。有り得ない。世界が赤、いや紅に染まっていた。地面は紅い海。壁には紅いペンキが乱雑に塗りたくられている。


 そこに漂う強烈な鉄の匂いに鼻が曲がりそうになる。


 狂った世界。それがこの場を表現するのに最適だった。


 その中心にはうっすらと笑っている美しい女性が立っていた。顔や髪、服にも紅いペンキが飛び散っており、長い黒髪をなびかせている。


 その異様な光景は恐ろしくも、美しいと感じていた。私はその女性に魅了されてしまっていた。


 その感覚がおかしいなんて思わなかった。


「くれ……は……?」


 視線を下げると、その右手には丸い物体。その下部からはドロドロとした赤い液体が流れ出ている。


「うっ……」


 ふと我に返った。それは人の頭だった。首から下は何もない。そのそばには人であったものが落ちていた。それはもう動くことないただの肉塊。


 食べたものを戻しそうになる。気分が悪くて立っていられない。私はその場に膝をつく。


 逃げなきゃ……


 あそこにいるのは私の知っている紅葉ではない。逃げないとあそこに落ちているもの同様になる。


 だけど、本当の恐怖というのは体を支配する。私の身体はまるで言うことを聞かない。


「紅葉……なんで……」


 あの幽霊が言っていたことは本当だった。


 彼女は吸血鬼……


 それはまごうこと無き真実だった。


 それでも、どこかで否定しようとする自分がいた。紅葉は決して人殺しなんかしない。彼女は虫一匹殺せないような子なのだ。


 だけど、それは目の前の風景が否定してしまっている。


 眩暈がする。気を正常に保っていられなかった。


 視界が歪み、私はその世界に飲み込まれた。

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