幽霊を信じますか?
「なあ、そこのねぇちゃん。俺とお茶しない?」
皆さん。おはようございます。私は健全な女子高校生。椎名咲夜です。只今、登校中です。
「聞こえてるのは分かってるんだぜ? 無視すんなよ」
ところで、皆さんは幽霊とか妖怪って信じますか? 正直な所、そんなものはいない。そう思う方が大半だと思います。ですが、現にほら……
「あー、もうっ!! うるさいわね! 私はこれから学校なの! 幽霊は幽霊らしく幽霊とお茶すればいいじゃない!」
私は振り返り、声の持ち主に苛立ちをぶつけた。
「やっぱり見えてたんじゃないか! 無視すること無いだろ!」
声の持ち主は、若い男性。の霊。霊である証拠に半透明ですけている。
みんなの感覚ではお化けは夜、というイメージが強いかもしれないけど、こいつらはそういう優しいものではない。幽霊や妖怪は基本的に24時間営業なのだ。こっちが見えているというのが分かるとすぐに絡んでくる。
「無視するに決まってるでしょ! 他の人にはあんた達は見えないんだから、私が変人扱いされるの! わかる!?」
「そんなの俺には関係ないし」
まるっきり他人事な幽霊。火に油とはまさにこのことなのだろう。
「そう。それもそうね」
私はゴミ捨て場に捨てていた木製のバットを拾い上げた。
「ちょっと、お嬢さん? そういう野蛮なものは似合わないよ?」
「そうかしら? 結構こういう野蛮なものは好きよ?」
どこからか、笑が溢れてしまう。私は幽霊めがけてフルスイングした。
「あ、それと。俺って幽霊だからそういうの……グボァァアッ!!?」
鈍い反動が私の腕に帰ってくる。幽霊だから多少は軽いのだろうけど、なんだか人を殴っている感覚だ。
「幽霊だから。何?」
「……なんでもありません……あ、そういえば、今日は友達とショッピングする日だったんだ。悪かったね!!」
そういうと、男性の幽霊は大急ぎで去っていった。
さて、ここからが面倒だ……
私の周りには人が集まっている。あんなに大きな声を出していたのだから当然かもしれないけど……
大通りでなかったのは幸いだけど、どう弁解したら良い物か……
「こんなところで、演劇の練習? あなたも良くやるわね」
ふと、声をかけられた。神は私を見放しはしなかったようだ。
「うん。今度の学祭のね。難しい役だからつい夢中になって練習しちゃったよ」
私はなるべく大きな声を出した。効果があったのか、みんなの目はイタイ人から、演劇大好き少女に変わっていた。
ダメージはあんまり変わらないんだけどね……
しばらくすると、私達の周りに人は居なくなっていた。
「ありがと、紅葉。助かったよ」
「もう、あれだけ幽霊は無視しておきなさいって言ってたのに、相手をするなんて」
私を助けに入ってくれた少女は赤原紅葉。高校に入学してからの付き合いだから、友達歴は一年だ。彼女と仲良くなるきっかけになったのは幽霊だ。彼女にも幽霊は見えているらしい。
「だって、執拗かったんだもん……」
「分からなくはないけど。でも、あんまり相手にしてるとのちのち面倒になるよ?」
「わかってる……」
私は小さく頷いた。
「まずいわね……」
紅葉はとても深刻そうな顔をした。
「……どうしたの?」
私は恐る恐る聞く。
「学校、遅刻だわ……」
時計を見ると、針はホームルームの時間である八時半を指していた。