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いゐ子

作者: 霧谷なこ

あなたは、いゐ子ですか?

「良い子のみなさんは、危ないですのでエスカレーターでは遊ばないでください。」人のいないデパートに無人の声が鳴り響いた。「良い子の」また、「良い子」また。

ひたすらに流れる声に従って、わたしは端っこでちんみりと移動する。エスカレーターでは遊ばないんです、良い子ですから。当然です、ルールなんだから。

「本当に、あなたは良い子ね。」小学生の時分先生に言われたことを思い出す、困ったような顔をしていたことを。先生は、わたしと話すときはいつもそうだった。クラスメートの誰だってK子先生のことが好きで、実際いい人だった。いじめがあったら許さないし、喧嘩をしたら理由をきいてくれるような。若かったからかもしれない、小学4年生のわたしよりずっとエネルギーに満ち溢れて居て、それはもう溺れそうなほどだった。

それでも、わたしの中の彼女の印象は、いつも困惑しているのだ。それは恐らく、わたしが良い子だったからなのだろう。


「どうしてですか、理由を言ったらよいのではないのですか。尋ねたのは、それを否定するためなんですか。多数決の論理は無視するんですか。」わたしの小学生は今年120周年を迎えたらしい、と知ったのは先日の回覧板でのことだった。シャープペンシルが主流のこの時代に、鉛筆を使用することを強制するのが仕事の先生方だったが、断固シャープペンシルを使用する権利を主張する少女がいた。先生方は大層困ったことだろう。教員という仕事は、問題さえ起こされなければ一生安泰の職なのだから。そして、その少女はそんな彼らにとってはダイナマイトであった。

「兎に角、鉛筆のこの角張りが頭の活性化に影響を与えるといわれているんですよ、だからシャーペンは、絶対に、禁止です。」

先生は2時間に及ぶお説教の後にいつもと変わらない結論を下した。分かりましたと言って座ったのはわたし、いい子のわたし。だれも反論しないことに満足げにチャイムが鳴った。先生は分かっていないのだ、わたしたちがその理由に納得したんじゃなくて、この2時間の成果を無駄にしたくないだけってこと。



結局あの学校の答案用紙には今も丸く太い字でで答えが書かれているのだろう。そろそろ脳の活性化が効いてきて天才にでもなれやしないかしらんと期末テスト範囲を眺めるのだが、一向に頭には入ってこなかった。


いゐ子って、誰なんでしょうね…

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