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7つめの悪魔

作者: 少雨

「これで終わりだー!!」


勇者は叫ぶ。これが自分の持てる最後の一撃と知っているから、だからこそ魂の底から声を上げ天に届けと叫ぶ。


「アアアアアアアアアアア」


魔王は叫ぶ。この一撃が勇者の最後の一撃だと知るが故に、この一撃を耐えて立っていたのならば彼の勝利が決まると知っているからこそ、ありったけの力を注ぎ少しでも自分に向かう力を削ぎ往なし流す。



その勇者と魔王の力のぶつかり合いの結末は魔王城をその余波で吹き飛ばし


そこに決着した。




「はぁ、はぁ、はぁ、」

全身に傷を負い杖は折れ息も絶え絶えにそこに立っていたのは魔王であった。


故に彼の前には力尽きた勇者が目の前に倒れ伏し、その後ろに世界最高の魔法使いと呼ばれた男が、世界唯一の剣聖の名を与えられた男が、聖女と呼ばれた神の寵愛を受けた少女が、レンジャーの名を持つエルフが、世界最高峰の職人にして世界最高峰の重戦士であるドワーフが 気を失い倒れているのは当然の帰結であった。


彼は魔王は終に勇者に勝利したのである。

故にここに魔族の悲願は成り、世界は魔族の威光の下に下り、魔族による世界支配が目前に迫っていた。



パチパチパチ


故にその拍手は余りにも場違いで余りにもその場の空気に似合わなかった。


拍手を続けるのは勇者と共に魔王に挑んだ吟遊詩人。

勇敢な歌を歌い、呪歌を歌い、仲間を鼓舞し、敵を怯えさせ、仲間の全力を引き出し、敵の全力を削ぐ。

そんな後方支援のエキスパートが拍手をしていた。


ありえない。魔王が最初に思ったのはそんな事だった。

魔王と勇者の全力の一撃同士がぶつかったのである。城が吹き飛びあたり一面が余波だけで地震の起きた直後のような状態になっているのにその男は傷一つ無くただ立って拍手を魔王に送っていたのである。

ありえない。普通の人間では不可能な所業。



故に魔王はその男を人間ではない何かであると看破し、敵を排除する為に魔力を拳に篭め殴りかかった。

当然ながら魔王の拳は魔王の名に恥じぬ破壊力をもって吟遊詩人を打ち、そしてその体の半分を吹き飛ばし貫いた。


しかし、ただ貫いただけであった。


吟遊詩人は体が消滅した次の瞬間には完全に体の修復を終えており魔王の拳と体は吟遊詩人の体にめり込むように縫いとめられた。驚愕は止まらない。吟遊詩人の右腕が天高く掲げられその顔は異形に歪んで行く。そして拳が天頂に掲げられた時吟遊詩人は優しく魔王に問うた。


「言い残す事は?」


その瞬間魔王に出来た事はありとあらゆる怨嗟を撒き散らす事だけであった。


「七つめの悪魔がアアアアアアアアアアア」


その怨嗟の声は無常にも吟遊詩人の振り下ろした拳と風切り音によって掻き消えた。

そして最後に立っていたのは、顔の右半分に3つの目を持ち左側に4つの目を持つ異形がただ一人立つだけであった。


ここに魔王の討伐は成り

人間による世界の支配が始まったのである。









王城


世界で最も大きな大国の王城であるこの町は勇者の帰還によって大いに賑わいを見せていた。

長年の戦いの悲願であった魔王討伐。

それを勇者が成したのである。

人々は喜び、歌を歌い、友と手を取り合い、仲間と共に踊り続けた。




だが、当然ながら光があれば陰が出来る。


元々人間より優れた知能、肉体、寿命を持つエルフやドワーフ


彼らは聡明であり魔族の危険性を知っていた


彼らは聡明であり人間の稚拙さを知っていた


だからこそ、人間よりも最前線に立ち魔族と戦い負けないように時間を稼ぎ

長い戦いの間にその数を減らしていた。




人間は傲慢に考える


この勝利は人間だからこそ成し得た勝利だ

エルフやドワーフを見ろ

あれだけ戦っても魔族に勝てなかったではないか


人間は嫉妬する


産まれた時から英知を約束されたエルフが嫉ましい

産まれた時から屈強な体を約束されたドワーフが嫉ましい


人間は憤怒する


何故神に愛された私達人間はこんなに弱いのだろうか

あいつらが居るせいだ!あいつらさえ居なければ我々こそが最も偉大な種族になれるはずだ


人間は怠惰に考える


あの優れた肉体を鉱山で使わせればどれだけの黄金が楽に手にはいるだろうか

あの優れた技術をもってして日常品を作らせれば我々の生活はどれだけ楽になるだろうか


人間は強欲に考える


ならば奪おう。英知も誇りも肉体も歴史もその全てを奪い取ってしまおう


人間は暴食する


彼らの英知を肉体を技術を奪えば毎日が今日のように腹一杯に食べれるようになるはずだ

いや、なるんだ。ならばいまは食べよう。今から起こる戦争の為に


人間は色欲に考える


エルフを押さえつけて嬲ったらどんな風にあの美しい顔を歪めて鳴くのだろう

屈強なドワーフの肉体を壊し組み伏せ蹂躙できたとき彼らはどんな救いを求めるのだろう



英知を持つ物は嘆く


世界は救えても我々は我々を救えない

我々は滅びの道を歩んでゆく


英知を持つ物はそれでも歌う


されど我らは後悔しない

魔族に全てが破滅するよりも

人間に希望を見たのだから






全ての輪廻の輪は廻り今帰結する。






王城謁見の間



今此処には5人の男女が王の前に跪いていた



魔王を討ちし勇者

人間の英知を極めし魔術師

人間の技を極めし剣聖

人間の神の寵愛を受けし聖女

その全てを見届けた吟遊詩人



彼らは称えられる


優れたる

誉れたる

誇りたる


その言葉の一つ一つが彼らを少しずつ変えていく






世界を救いたいそう願った少年は


ドワーフをエルフを従える事によって

人間こそがエルフをもドワーフも従えうる最も優れたる者であると確信する青年になった





エルフの英知に魅せられてあんな風になりたいと憧れた少年は


英知への探求を制限するエルフに失望し

人間の英知こそが最も偉大で進捗的であると信じる青年になった






ドワーフの肉体と力強さその背中に憧れた少年は


幾ら鍛えても決して超えられぬ壁にぶつかり自らを憎悪した

そして人間だけが持つ弱さの先にある技術こそが至高の力であると妄信する青年になった





流れ落ちる数多の血に涙し神に救いを求めた少女は


人間の神の存在を否定し自らの信仰を持つエルフやドワーフを

神の愛を信じぬ愚か者達と信じ神の名の下にエルフやドワーフは滅ぶべきだと信じる 偶像アイドルになった






王は褒め称える


優れたるかな優れたるかな 貴君らのような人間の誉れたる人々がついに魔王を滅ぼしたるとは これで多くの無垢の民が救われて 多くの兵士達が救われる これから栄光の時代が始まるのだと



裏で王は考える。


これで教会、騎士団、魔術結社は活気付きより勢力を増そうとするだろう

エルフやドワーフどもを駆逐する際に

彼らを使いつぶし

彼らの勢力争いで巧妙に力を削ぎ

勇者という最大戦力を取り込み


私こそが最も偉大な王となろう!世界で唯一の王となろう。いや、世界でただ一人神と並びうるものになろう。



思惑は錯綜し、優しい願いも美しい思いもきえていく。


最早誰も姿を消したドワーフとエルフの事など考えては居ない。


彼らに失望し姿を消したもののことなど見向きもしない




故に運命は帰結する。





聖女は杖を吟遊詩人に突きつけて問う

最後に魔王が叫んだ「七つ目の悪魔」とは何か?と問いかける

裏側に勇者への隠し事への理解を見せて


事態を遅れて知った魔術師と剣聖は応じる。

悪魔とは聞き捨てならない。事実なら我らの技の前の錆にしてみたい物だと

裏側に勇者への協力を示しながら


前もって聖女からこの事を知らされていた勇者は答える

自分に従属したエルフとドワーフと最後まで仲が良かった男を見下して

最後の最後でおいしい所だけを奪っていった卑怯者に対して


「貴様が悪魔だという事は既にわかっている。教皇様にお願いし大いなる秘儀をもって貴様の真の姿を割り出していただいた。この場には教会の最精鋭軍、王の近衛騎士、世界最高峰の魔術師達、更には魔王対策の悪魔封じの巨大な結界が引いてある。観念しろ」と


王は勇者と教皇の繋がりの速さに舌打ちをしたくなるのを抑えつつ答える


悪魔が身近に居ながら勇者一向に引き入れてしまうとはなんというう迂闊さ皆の衆、速やかに討ち取って見せよ

裏に速やかな事態収拾を考えながら




吟遊詩人は笑い声を上げる


魔術師の英知の極みである秘儀を受け

体を焼かれ凍りつくされ引き裂かれ砕かれ潰されながら


戦士達の繰り出す技の数々を受け

剣で体を分割され、槍で体を貫かれ、弓で急所を打ち抜かれながら


神官たちの唱える聖なる力を受け

体を消滅され、崩され、破壊されながら


勇者の指揮による息の合ったコンビネーションを受け

回復する間を無いほどに完全に破壊され尽くして


尚 笑 い 続 け る




無数の攻撃がまるで効かないことにその場の全員が恐怖を感じ始めていた時

吟遊詩人は歌いだす

それは聖書に書かれた記述の中でも随分と古いもの


「神は言った人には8つの罪があると」


教皇は答える否!人の罪は7つなりと


吟遊詩人は歌う


「それは人が人に定めし罪なりと、神が語りし罪は8つ」


尚、吟遊詩人は歌う


「人は罪に形をつけ名前を与え悪魔として姿を与え押し付け地獄の底に縛り付けた」


歌は淡々と続く


「では神の言った人の罪の中で、人に悪魔として姿を与えられなかった罪はどうなった?」


「憂鬱は罪を失い 必然と成った」


「では 7つめの罪であった 虚飾は?」



声を上げる吟遊詩人の顔に7つの目が浮かぶ


「かって神の変わりに地に降り立った子羊がいた。子羊には7つの角と、7つの目があった。この7つの目には、全地に遣わされている神の7つの霊である」


「神の7つの霊は考えた人に忘れられたこの罪はいずれ世界を滅ぼすだろうと」


「なれば我々がこの罪を背負おうと」


浮かび上がるは七つ目と七つの角


生贄に奉げられし子羊は歌う


「屠られた子羊は、神の力、富、知恵、威力、誉れ、栄光、賛美を受けるのにふさわしい方である。」


「さぁ祝おう。神の国の到来を神の時代の到来を」


神の御名に祝福を(ハレルヤ)


この日人の時代は終わりを告げて神の時代が始まった。

久し振りに自分が昔書いた内容読み直して懐かしくなったので追記


ベースは聖書のヨハネの黙示録

5章6節

「子羊には7つの角と、7つの目があった。この7つの目には、全地に遣わされている神の7つの霊である」

12節

「天使たちは大声でこう言った。屠られた子羊は、神の力、富、知恵、威力、誉れ、栄光、賛美を受けるのにふさわしい方である」


『ヨハネの黙示録』は地上の王国の滅亡と神の国の到来を示すものであるが、7つの目の子羊は、その中で、上記のような神秘的な霊能を与えられる者として描かれている。


本当はこの後に王国が消滅したあとの世界を放浪する

少女週末旅行のような本編があったが


序章で満足してしまった。

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