ハロウィン記念短編 うぃー・みーと・えとせとら!
ハロウィンということで、実質三時間ほどで仕上げたナニカです。
番外編ということで、今まで出したキャラたちもできる限り出しました。
では、どうぞ。
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「そうだ、ハロウィンパーティーをやろう!!」
「いいから黙って仕事してください会長」
「……はい」
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「――さあ、仕事も一段落したし、満を持してハロウィン――」
「あ、今日は近所のスーパーで特売があるので、さっさと帰りますね」
「…………うん」
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「さあ雨水君! 昼休みになったことだし、お昼を食べながらハロウィンパーティーの企画を練りましょう!!」
「あ、今日はお弁当作り忘れてきたので、食堂に行ってきますね」
「………………了解」
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「さあ雨水君! 今日は特に火急の案件もないし、さっそくハロウィンパーティーの企画を――」
「――あ、会長。今日は僕……えっと、あの、その……。……あ、例のアレがあれで大変なので、帰ります。では、お疲れ様で――」
「――ちょっと待て」
「………………チッ」
ガシッと肩を掴んで僕の動きを封じてきた会長に向かって振り返った僕は、今の心境を隠すことなく表情に出して舌打ちを一つ。
そうして一瞬怯んだ会長の手から抜け出ると、大きなため息を一つ吐いて抱えた荷物を下ろし、立ち上がったばかりの席に着く。
そうして僕はすぐ隣で僕の事を見下ろしている会長を見据え、
「……で、会長があまりにもしつこいせいで僕の言い訳も品切れになってしまったわけですが、どうしてくれるんですか一体」
「どうもおかしいと思ったけど、やっぱり最初から全部言い訳だったのね!? しかも最後の方になるとずさん過ぎない!? 何よ『アレがあれで』って!?」
そこまで言い切って疲れたのか、肩を大きく上下させながらうつむいた会長に、僕は言う。
「……で、会長。いい加減に逃げるのも疲れましたし、さっさと本題に入ってください。面倒事はさっさと片付けるに限ります」
「じゃあなんでさっさと向き合わないで逃げ続けたのよ……」
そう呟きながら、会長はゆっくりと自分の机――生徒会長の机に戻っていく。
放課後という時間に包まれた今、廊下や窓の外からは、帰宅を急ぐ人たちの声や部活動にいそしむ人たちの声が響いてくる。
そんな声をBGM代わりにして、僕たちは慣れ親しんだ生徒会室で今日の議題に取り組もうとしている。
……とは言っても、さっき会長が言った通り、今日中に片付けなきゃいけないような仕事は一つもないんだけど。
少し前に行われたイベントの後始末も終わり、次のイベントや行事もない。
例年ならば比較的ゆっくりできる貴重な時期なのだが、しかしこの会長は楽しむためならそんなものはお構いなしらしく、また新しい企画案を持ち込んできたようだ。
「……で、何なんですか、そのハロウィンパーティーって?」
自分の机につき、お茶を飲んで喉を湿らせた会長に向かって、僕はそう問いかける。
それを受け、会長はいつも通り、とても楽しそうな笑顔を浮かべると、
「ええ、実はついこの間思いついたんだけど――」
と、とてもいきいきとした様子で語りだす。
僕はその話を聞き、ところどころで茶々を入れ、会長はそれに文句をいいながら、企画の内容を修正していく。
これが、僕たちなりの企画の練り上げ方法だ。
他の人がこれを聞くと妙な顔をするが、しかし、これが一番効率よく話がまとまるのだと経験上理解してしまったのだから仕方がない。
……まあ、よくよく考えてみれば、当たり前の事なのかもしれないけど。
楽しそうに案を出す会長と、それをやり込めるのが楽しい僕。
楽しい企画を作るのには、企画者自身が楽しんで作っていくのが一番なのだから。
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そんなこんなでいろいろあり、今日は十月三十一日。
天気は晴れで、気温はちょっと低めではあるが、良い陽気だ。
そして、
「――うん、絶好の仮装日和ね!!」
と、僕の隣に立って叫ぶのは、ご存知赤水生徒会長――だったはずなんだけど、
「……なんですか会長、その恰好は?」
「え? 似合ってない? 結構悩んで決めたんだけど……」
「いえ、似合ってるか似合ってないかはさておくとして、……大丈夫なんですか、その仮装?」
会長の格好を見た僕は、若干声を潜めて尋ねる。
なぜなら、ここは生徒たちが通る正門前であり、今はちょうど登校時間。
そして会長の装いは――
「黒いマントに作り物の牙って、まんま吸血鬼じゃないですか」
そう、『ちょっと用事があるから、先に行ってて』と言って生徒会室に残った会長が何をしているのかと思えば、どうやら着替えていたらしい。
全身を覆えてしまえるような黒いマントに、にっこりと笑う口から伸びる明らかに不自然な犬歯。
マントの中身はブレザーを脱いだだけの制服その物だが、それさえ見なければどこからどう見ても吸血鬼だ。
「あら、何か問題ある? 今日はハロウィン。仮装しての登校が許可される日でしょう?」
と、こともなげにそんなことを言い放ちながら、会長は門を背にして通学路の方をみやる。
僕もつられてそちらを見れば、
「……なんですか、このリアル百鬼夜行は……」
そう、そちらからぞろぞろと向かってくるのは、文字通り人外たちの群れだ。
まず、シルエットからしてすさまじい。
大半は普通の人間形態なのだが、それに混じって明らかにおかしいのがいる。
人が一人すっぽり入れるぐらいの大きさの球体がポンポンはねてこちらに向かってくるかと思えば、道をふさがんばかりの四角い板に手足がはえた何かがのしのしと歩いてきていたりもする。
他にも三角のやら大きな家の形をしたものやら、様々だ。
「まあ、この学校はこういうお祭り騒ぎが好きな人が多いし、力を入れてくるひとはいっぱいいるでしょうね」
「だからって、いくらなんでもやりすぎでしょう。……ほら、あれなんか、校舎に入れるかもわかりませんよ?」
そう言って僕が指差したのは、人型の何かだった。
人だとはっきり言わなかったのは、ある大きな違いがあったからだ。
「……身長、三メートルはありません?」
「正確には三メートル五十センチぐらいかしらね。さすがにこの距離だとこれ以上正確な目測はできないけど」
そう、その生徒は頭一つ、どころか腰から上がまるまる人の波から飛び出ていた。
纏っている物はぼろきれのような簡素な物で、その手には木製らしき棍棒を持っている。
そしてその顔の中心には大きな一つ目。
おそらくはサイクロプスだろう。
「……あれ、どう考えても本性出してますよね?」
「まあ、そっち関係の人にはそれも可と言ってあるし、ぼろを出さない限りは大目に見ましょう」
「……まったく、なんでこんな企画が通っちゃったんだ……」
うつむいて唸る僕の方をポンポンと叩いて慰めようとしてくれる会長だが、諸悪の根源に慰められてもちっとも嬉しくなかった。
そもそも、会長が持ってきた案は『ハロウィンの一日だけ、制服以外の物を纏ってきていい。大がかりな仮装も可とする』というものだ。
それを生徒会全員で吟味し、一つの企画としたのが今回の物だ。
最終的には、『どんな仮装をしてきても構わないが、あまりにもひどいと判断されたものに対しては生徒会から注意が行く』ということで企画は通ってしまった。
よって、僕達生徒会は、朝早くから校門に陣取って、生徒たちの仮装を監視しているのだ。
実際、僕も会長に言われてフランケンシュタインの被り物をかぶっていたりするが、それはまあ別の話。
「こらそこ! 絆創膏は仮装に入りません、さっさと着替えてきなさい。――あ、そこのあなた! 半ズボンなのはいいけど、あなたの容姿でそれをやると若干危険よ。現にさっき漫研の部長が鼻血吹いて倒れたわ」
と、半ズボンをはいて歩いてきた線の細い生徒に向かって声をかける会長が指差す方を見れば、おそらく三年生だと思われる丑の刻参りセット仮装(白装束に藁人形その他)着用の女生徒が倒れていた。
近くにいた同級生らしき生徒に支えられて起き上がったが、何やら半ズボンの生徒に勢いよくサムズアップしてからよたよたと立ち去って行った。
……まあ、気にしない方向で。
裏門に行っている他の生徒会役員三人も似たようなことをしているのだろうな、と想像しながら、僕は流れてくる人たちを眺める。
当然と言えば当然なのだが、僕の知り合いも多くいる。
クラスメイト達はもちろん、生徒会の職務で知り合った人たちも結構いるからだ。
いま僕に向かって手を振って笑みを見せてきたのは、猫娘らしき仮装の西東・珠先輩。
時折ピクピク動く頭上の猫耳と、いやにリアルな動きをするしっぽが特徴的ではあるが、他は普通の制服姿だ。
まあ、あくまで仮装は『良識の範囲内で』とされているので、おとなしい分にはいっこうにかまわないのだが。
「……あら、あれって……」
と、会長が面白そうなものを見つけたような声を上げたのでその視線の先をたどってみると、そこには、
「……河原先輩と、鬼々島先輩ですか。しかしあの恰好は……」
「……まあ、違反ではないし、何も言えないんだけど、でもねぇ……」
並んで歩く二人の内、大柄な男子生徒――河原先輩の姿はかなり目立っている。
河原先輩は下手な大人も真っ青になる鋼の肉体を持っているが、今日はその肉体を真っ赤な全身タイツに包んでいる。
筋肉の隆起が丸わかりになりそうなその姿に、とら柄の腰巻、さらには頭の上の角二つとくれば、
「……鬼、ですよね、どう見ても。本来は逆なのに……」
「となりの稀輝さんがものすごくいい笑顔なのを見るに、発案は彼女のようね」
大きな金棒をかついでいる河原先輩の左手とは反対の手を握ってニコニコしているのは、鬼々島先輩だ。
彼女が身に着けているのは、きらびやかな服にふりふりのスカート、さらにはゴテゴテの装飾が付いたハートマーク付きのステッキ。
おそらく、ちょっと最近の魔法使いを模しているようだ。
「まあ、別に自分の種族をしなければいけないという事もないのだし、あれはあれで面白いから、ね」
「はたから見ればそうですけど、本人はたまった物じゃないと思いますよ? ほら、最初は顔に何かぬってるのかと思いましたけど、よく見たら恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってるだけみたいですし」
ものすごく顰めた眉でうつむきながら歩いているため、先輩の事を良く知らない生徒は『ものすごく怒ってる……!?』とおののきながら距離を取っている。
その様を見送りながら、ふと違う方を見ると、そこには鏨兄妹が並んで歩いていた。
二人は水色と白の羽織を纏っているので、おそらくは新撰組の仮装だ。
仲良く腰に刀を差しているが、あれは両方とも模造刀であると信じたい。
そしてその間に立って歩いているのは、おそらく人方先輩だ。
おそらく、というのは、その顔が能面(女面)らしきものでおおわれていて見えないからだ。
長くきれいな髪という特徴と、一緒にいるのが鏨兄妹という事から推測したが、そうでなければわからないだろう。
そのピシッとした姿勢に、鮮やかな色の着物姿が良く似合っているが、しかし動きがぎこちない。
……もしかして、人形の仮装……?
そんなことを考えながら、僕は仕事を続けていく。
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そうやって来る人たちを時折注意しながら観察していると、本当にいろいろな人が通って行く。
ぬりかべがいたり、陰陽師がいたり、ケンタウロスがいたり、王様がいたり、ぬらりひょんがいたりする。
生き物がいたり、自然物があったり、無機物があったりする。
大きいのもいるし、小さいのもいるし、中くらいのもいる。
だけど、その顔はみんな揃って、笑顔だけ。
雑多な要素の中で、その一つだけが綺麗にそろっていた。
「……まあ、大変でしたけど、やってよかったのかもしれませんね」
不意にポツリとこぼれた言葉に、隣に立っていた会長は一瞬驚いたような顔をして、それから、
「でしょ!?」
と、まわりの皆と同じように、にっこりと楽しそうに笑うのだった。
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とまあそんなわけで、番外編をお送りいたしました。
会長の思い付きの一幕です。
大抵いつも唐突に始まって、結局いい感じで終わる。
そんな、いつも通りの一幕でした。
ともあれ、思いついてから実質三時間でお話の筋をまとめて、執筆をしましたので、結構筋が荒れてそうですが、まあ楽しんでいただけたのならば幸いです。
そして、最後になりますが、
このお話を読んでくださったあなたに、最大限の感謝を。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
失礼します。