第六話 それはいつかの物語の終焉
ここまで長かった
一人で旅を始めてから数年、様々な出会いと別れを繰り返してついにこの地へたどり着いた。この諸悪の根源を討つ為だけに頑張ってきた。あと少しで苦しんできた皆の、志半ばで倒れた仲間の敵を討てる!!
目の前にいる男はもうすでに満身創痍だ、しかしそれは俺にも言えること。奴の漆黒のローブはすでにボロボロ、手に持つ漆黒の魔道書に浮かぶ月光のような輝きを放った魔法陣はすでに消えかかっている。
俺の蒼色に瘴気を退ける黄金のラインが入った鎧はもはやその機能を果たしていない、手に持つ太陽のような灼熱の赤と瘴気を退ける黄金の聖剣は所々欠けていて罅も入っている。
おそらく次が最後の一撃となるだろう。奴にとっても、俺にとっても…
「…おそらく次で最後の一撃になるだろう」
「…そんなことは分かっている」
「ならば私は最後に全力の一撃を放つ、貴様も全力で来い!!」
「言われなくても、わかってる!!」
そう言うと、この場に二つの力が収束する。片方はこの地のすべての瘴気を、片方はこの地のすべての魔力を。そこには小さな月と小さな太陽があった、太陽と月、光と影、聖と邪、善と悪、人と魔物、聖剣と魔道書、勇者と魔王。対極である二つは互いを照らすように存在し、ぶつかり合う。その衝撃に耐え切れないのか、床が、壁が、天井が悲鳴を上げる。しかし二人はそんなことは気にせず力を強める、彼らは決してどちらかが消えるまで止めないであろう。
しかし、二人の戦いは唐突に終わりを告げる。上から降ってきた瓦礫によって…
…意識が朦朧とする
もうここまでなんだろうか?瓦礫に押しつぶされ体の半分は動かない、おそらくもう長くはないだろう。こんな状態であっても奴がどうなったかが気になる。無理やり顔を上げるが目が霞んでよく見えない、おそらく目の前にいる。剣の先は奴にむいているが刺さっているかはわからない、ただ奴が剣を両手で掴んでいるのはわかる。ああ、ここまでか…
剣を持つ手の力が抜けていく、視界が真っ暗になる。こんな状況でも頭に浮かぶことはやっぱり魔王のことだった。あぁ、最後に奴を討つ事が出来たのか、それだけが気がかりだった。しかしそれを知ることもできずに、意識がプツンと音を立てて消えた
こうしてひとつの物語が終わり、新たな物語が産声を上げる。彼が再びその瞳に光を写すのは、もう少し経ってからである