第三十六話 魔法少女と素敵な夢
気が付けばとっくに日は暮れて、もう寝る時間になっていました。私はお姉さんが用意してくれたお布団に潜り込んで、仰向きで寝転がります。目の前に広がる天井は、いつのと違っていてなんだか不思議な気分になります。
もう眠ろうかと目をつぶると、今日の出来事を思い出してしまいます。
今日はとっても大変な一日でした。
お姉さんの働いているお店に行って、そこで桜童さんと出会って、お姉さんと一緒に行ったお買い物の帰り道で桜童さんとまた出会って。
そこからは不思議なことの連続で、なぜかこっちの世界にアクユメが出てきて、私がもう一度魔法少女になって、そしたら桜童さんも転生者だってわかって、ほんとにいろいろあってびっくりしました。
「麻帆ちゃん、まだ起きてる?」
「あっ、すいません。すぐに寝ます」
「別に怒ってなんかないわよ、ただまだ起きてるかなって思って」
いつまでも寝ていない私が気になったのか、お姉さんが私に話しかけてきた。お姉さんは、すごい人です。私がほかの人と違うと聞いても、怖がらずに信じてくれました。だから私は、正直に言うととても安心しました。私の話をちゃんと信じてくれる人がいるんだってことに。
「それにしても、大変なことになっちゃったわね」
「そう、ですね……」
大変なこととは、きっとアクユメのことを言っているんだと思います。正直、なんで彼らがいるのかは私にもわかりません。でも、彼らがまた悪さをしようとするのであれば、私も容赦はしません。
「ねえ麻帆ちゃん。戦うの、怖くない?」
「えっ?」
気が付けば、お姉さんは布団に横になりながらこちらに体を向けていました。その表情は、悲しそうで、なんだか辛そうです。
私は、お姉さんにそんな顔をしてほしくありません。だから、心配させないためにもしっかりしないといけません。
「大丈夫です、私は魔法使いですから」
「でもね、戦うのは危ないわ。あなたが戦わなくても、桜童君もいるしそのお友達もいる。あなたが戦う理由なんてないもの」
「そうですね」
確かに、かつては私しか戦える人はいなかったけど、今は桜童さんたちがいます。桜童さんはあの力を使わなくてもアクユメと張り合えるくらい強かったし、きっとお友達も同じくらい強いんだと思います。
きっと、あたしが戦わなくても大丈夫だと思います。でも、それだけは嫌です。
「お姉さん、私には戦う理由があります」
「えっ?」
「だって知ってしまったんですから。アクユメがいることを、そのせいで誰かが傷ついてしまうことを」
「だから私は戦います、私は彼らがいることを知っていて、私には戦う力があるんですから」
「……そう」
お姉さんはそうつぶやくと、静かに上を向いて目を閉じた。そしてしばらくすると目を開いて、優しい声でつぶやいた。
「そっか、それなら仕方ないよね。麻帆ちゃんは意外と頑固だってお義姉ちゃんが言ってたもの」
「えっ、そんなこと言ってたんですか?」
お母さんひどい! って思っていると、お姉さんはくすくす笑い始めた。
「ほかにもいろいろ聞いてるわよ、麻帆ちゃんが幼稚園の時に先生に言ったこととか」
「や、やめてください!?」
その話は思い出したくありません!! あの時は自分もよくわかってなくて……
「ふふっ、冗談よ。それにしても、大きくなったわね」
「えっ? は、はい」
「こんなに大きくなって、よかったわ」
お姉さんは優しい声で私に語り掛けると、頭を撫でてくれました。なんだかそれがちょっとくすぐったくて、少しうれしかったです。
……でも、なんで少し悲しそうなんでしょうか?
「ねぇ、麻帆ちゃん」
「はい、何ですか?」
「一緒のお布団で寝てもいいかしら?」
「えっ!? えっと、あの……」
お姉さんの言葉に思わずびっくりしてしまいました。だけどその様子を見てお姉さんはすこし残念そうにしていました。
「ごめんなさい、いきなり無理を言ったわ」
「あっ、いえ、そうではなくて……」
「……よろしくお願いします」
悲しそうなお姉さんの顔を見て、結局OKしてしまいました。別に嫌ではなかったのですが、やっぱり少し恥ずかしい。
それでもお姉さんは嬉しそうにしてくれたし、ぎゅって抱きしめて頭を撫でてくれたので、うれしかったです。
いつも昔の夢ばっかり見ていたけど、なんだか今日は、素敵な明日の夢が見れそうです。