第三十五話 童帝は守ると約束する
たこ焼きパーティーも終わり、時間も遅くなり麻帆ちゃんもおねむだったので帰宅することになった。
とりあえずまた明日話をすることになったので、詳しい話は持ち越しになった。
麻女さんが寝てしまう前に麻帆ちゃんに風呂に入るようにすすめたので、今は俺と麻女さんだけだ。すると麻女さんは姿勢を正し、真剣な目で俺を見つめる。どうやら二人きりで話があるようだ。
「桜童君さっきの話だけど、正直私にはよくわからないことがいっぱいあったわ」
「それでも麻帆ちゃんが苦しんでいたことはわかったし、麻帆ちゃんとあなたが見た目通りの年齢ではないことも、特別な力があることも」
「はい」
淡々と今日話し合ったことを語る麻女さんは、少し怖く感じた。本人はわかっていないと言ってるけど、たぶん分かったうえで話しているのだと思う。だから俺も誠意をもって対応しなければ。
「それでも、麻帆ちゃんはまだ十一歳以上を生きていない子どもなのよ。それをあなたは戦いに巻き込んでいいの?」
「あっ」
その言葉を聞いて、正直はっとした。そうか、確かに彼女の生きた時間を今世と前世で素直に足せば、麻女さんよりも年上になる。だけど、彼女はそれ以上の年齢として生きてきたわけではない。彼女が小学五年生であるということをわかっているつもりであったが、ちゃんと理解できていなかったのだ。
園子尾tにショックを受けている俺を置いて麻女さんは話を続ける。
「確かに彼女は強いわ、私だって見ていたもの」
「だけど、あなたがいるじゃない。あなただって子どもだけど、それでもあんなに小さな子が戦わなくても……」
「麻女さん」
俺は彼女の言葉をそこで遮る。麻女さんが言いたいことはよくわかる、それでも伝えたいことがあった。
「確かに俺一人で戦ってもいいです」
「それなら」
「でも、それだけじゃだめだ」
俺の言葉を聞いて、麻女さんは不思議そうに首をかしげる。どういう意味か考えているのだろうが、話を続ける。
「彼女は今まで人々を助けるために一人で戦ってきたんだ。そんな子に“俺が戦うから待っててくれ”なんて言っても、たぶん一人で飛び出して行ってしまうと思う。だって今までアクユメと戦ってきたのは麻帆ちゃんで、彼女には戦う力があるのだから」
「それだったら彼女が無理しないように、俺が近くで見ていたほうがいいでしょう」
「まぁ、確かにそうかもしれないわね」
俺の説明を聞いて、麻女さんはしぶしぶうなずいてくれた。それでもまだ納得できていないのか、ふくれっ面になってテーブルにだらんと体を預けていた。かわいい。
「まぁ、もちろん俺がついてるからケガなんてさせませんよ。なんて言ったって、俺は守るための魔法が得意ですからね」
正確には魔法ではなく魔法陣だけど、ぶっちゃけほかの魔法より一番使っている。俺の頼れる力だ。
しかし、その言葉を聞いて麻女さんは表情を変えて意地悪な笑みを浮かべた。
「そういえば、あなた魔法使いって言ってたけど、実は別のなんかでしょう?」
「ギクッ」
あぁぁぁぁ、余計なことを言ってしまったぁ!? 心配かけさせないようにと魔法の話をしたが、どうやら疑いを持っていたようだ。このままだとばれてしまう、とりあえず話題を変えようと口を開くが、それより早く麻女さんが続きを話し始めた。
「なんか年齢誤魔化してたし、前の世界に魔法なんてないって言ってたし、ついでに守るのが得意な魔法だもんねぇ……」
「い、いや、何のことだか……」
「そういえば、なんか魔法使いってとある人たちの別名だったような気がするなぁ?」
うわぁ、ほぼほぼ確信してる。ここからどうする、どうやって話を逸らす?
というか、今思えば魔法陣の防御ってそういうことだったの!? 無意識で守ってるから俺はいつまでたっても童帝だっていうことかよ!!
「ふふっ、冗談よ。ここまでにしてあげる」
「ほっ」
どうやら助かったようだ。思わずほっとしていると、麻女さんは体勢を変えて、伸びをしながら後ろに倒れこんだ。
「はぁ、私にも戦う力があればなぁ」
「……まぁ、そこは仕方がないんじゃないですか? それに、持っててもそんなにいいことないですし」
「そうはいってもさぁ……」
正直、何もないのであれば戦う力なんてないほうがいいと思う。正直俺は、魔法の練習は興味本位であったし、武術も友人の家だったからだ。たまたま使う機会が最近多いけど、もしも持ってるだけだったら持て余してたと思う。それに、誰かにばれたらッて思うと今でも少し怖い。両親や四葉なら受け入れてもらえそうだが、もしも受け入れてもらえなかったらって考えたら、やっぱり怖い。
そんな俺の考えなんてつゆ知らず、麻女さんはぽつりとつぶやいた。
「あーあ、私もなりたかったなぁ、魔法少女」
「ぷっ」
「あっ、ちょっと今笑ったでしょう!?」
いやだって、正直麻女さんが魔法少女ってイメージが全然わかないし、正直年を考えてもごふぅ!?
「いきなり何するんですか!?」
「今余計なこと考えてたでしょう?」
「いえ、何も」
麻女さんは近くにあったクッションをつかんで、俺の顔面に投げかかってきた。そのあとじっと俺のほうをにらみ続けていると、はぁとため息をついて目をそらした。
「別にいいじゃない、昔からの憧れだったのよ」
「いえ、すいません。俺が悪かったです」
「素直でよろしい」
そういって満足したのか、今度はまた改まって姿勢を正して俺に向かい合う。俺も姿勢を正すと、さっきとは違って優しい表情で俺に語り掛けてきた。
「麻帆ちゃんのこと、絶対守ってね。そうじゃないと容赦しないわよ」
「もちろんですよ」
「私もできる限りのことはするわ、何かしてほしいことがあったら何でも言ってね」
「わかりました、そのときはちゃんと伝えます」
「あれ、桜童さん帰ったんじゃなかったんですか?」
どうやら思った以上に話し込んでいたようで、気が付けば麻帆ちゃんが風呂から上がってきていた。そこでさすがにもう帰ろうと思い立ち上がる。
「二人とも、今日はごちそうさまでした。たこ焼き、おいしかったですよ」
「えぇ、桜童君、また明日」
「桜童さん、また明日」
「あぁ、また明日」
そういって部屋から出ると、もうすっかり暗くなっていた。気持ちを切り替えて気合を入れると、急いで家まで帰る。とりあえず、紗友と逢魔に明日のことを連絡しよう。そして、改めて四葉に感謝の電話をしようと思う。
ゴールデンウィークは始まったばかりだが、今年は忙しくなりそうだ。
残念ながら現実と若干季節感がずれています。